【インタビュー記事】がんばろう日本! 政治家は合意形成のプロであれ
政治家は合意形成のプロであれ
「信じる」「怒らない」、そして「責任は政治家がとる」というマネジメント
政権交代から三年が経とうとしています。この間私は鳩山政権では内閣府副大臣として、菅政権では党の部門会議座長などとして政権運営、党運営に関わり、野田政権では復興特別委員会筆頭理事、この4月からは総務副大臣を務めています。
政治主導についてはいろいろ言われますが、副大臣として役所に入った私の経験からいうと、役所に対する違和感はありませんでした。長年サラリーマンを勤めてきた私の感覚からすると、大臣という上司の下で、副大臣としてその答弁の範囲内で仕事をし、役所がいろいろ判断を仰ぐことに対応する。いわば一種のリスクマネジメントの仕事です。
政権与党というのは難しい仕事で、新しい仕事をやりたいと考える人が多いのですが、これまでの仕事を無事にこなすだけでも器量が必要と思うわけです。記者会見をやり、地元の方からは「大島、謝ってばかりじゃないか」と言われましたが、記者会見で謝ることが私の仕事でもあるわけです。与党というのはそういうものだと思います。
野党のときは、ある意味「自分の事を棚に上げて」政権を批判することもあったかもしれませんが、与党はすべての責任を負うものです。以前の政権が積み重ねてきた結果であっても、それを含めて引き受けたわけですから、前政権のせいにしてはいけない。そういう気持ちで副大臣を務めてきました。
政権全体のことはともかく、私の場合は比較的スムーズに仕事を進められているのではないかと思っています。
こういうことはシステムの問題とともに、属人的な要素が結構大きいのではないかと思います。私は役所の方を基本的に「信じる」、「怒らない」ようにしています。そして「責任は私がとる」と。そうすると役所から「これについてはこう考えている」とか「こういうテーマがあるが、どうしましょうか」ということが具体的にあがってくるようになる。
野党のときは追及していましたから、逆にどう対応すれば、これが大きな問題に発展しないかということが分かるわけです。リスクマネジメントの一番の要は情報公開です。例えば何か問題があったときに、記者会見で「その情報を何時ごろ聞きましたか」と質問される。秘書官にたずねると「夜の十時です」と。それを翌日には記者会見で明らかにしている、ということが分かると、記者はそれ以上質問しません。
じつは、あるセクションの予算がオーバーしてしまったことがありました。独立行政法人だったので、独法の評価委員会というところで、どうしてそうなってしまったのか、マスコミに公開して議論していただきました。大臣からも「しっかり議論してもらいたい」と文書で委員のみなさんにお伝えして、徹底して議論いただきました。
このように公開して検証すると、問題がプラスの方向に回っていく(同じ過ちを繰り返さないための教訓になる)わけです。
問題が起きたときに「隠す」のではなく、オープンにしてみなさんに議論していただくということが、今の時代には必要だろうと思います。今後もいろいろな方が政権運営に携わることになると思いますが、これは大切なことだろうと思います。私たちの日本社会をもっと信じたほうがいいと思います。
政治家は合意形成のプロであるべき
これは党内および国会内での議論についてもいえます。私は内閣府副大臣の後は、党内および野党との合意形成に携わってきました。一人ひとりは個性的な議員ですが、480人の衆議院議員、242人の参議院議員が議論すれば、だいたい世の中の常識のところに落ち着くものです。ですから多角的な視点を提起してもらう、ということで議論してもらうように心がけています。
座長など合意形成をする立場のときには極力、自分で結論を決めないようにしています。もちろん自分なりの見解はありますが、まとめる立場にある人はそれを前に出すべきではないと思っています。個々の議員は一年生議員であれ、期数を重ねた議員であれ、それぞれ選挙区の有権者を代表して出てきている。ですからその意見はやはりきちんと聞くべきです。そうやって議論をしていけば、おのずと常識的な線に落ち着いてくるし、足りないところがあれば私のほうから、こういう意見もあるのではないか、と議論を喚起していく。それがまとめる立場の仕事だと思います。「まとめよう」とすると、逆にまとまりません。
政治というのは日々の世の中の営みであり、そのなかで理屈だけでは解決しない問題が国会で扱われるわけです。政府があり、国会があり、与党、野党があり、それぞれに政調がありますが、ここでせめぎあっているのは理屈だけではない。理屈だけでは解決しないからここ(政治の場、国会)にきている、ということを理解しないで、理屈で解決しようとすると、解決できません。理屈はどうでもいい、ということではありませんが、理屈だけでは解決できない問題を、理屈を立てながらどうやって解決していくかという営みが政治だと思うのです。
その意味で国会や政治家が負っている役割は、もちろん将来の国の指針を示すことでもありますが、同時にそれにともなう負担などについて、みなさんの納得感を高めるための活動です。そのことをとくにこの三年間、痛感しています。
これは政界を引退された熊谷弘さんの言葉ですが、与党になって政策を実現するというのは、野党の時に蓄えた権力を消費する過程だ、ということです。例えば竹下さんは一期生のときからずっと、与野党問わずいろいろな人に気配りをして、首相になったらそれまで蓄えた権力をすべて使って消費税を導入し、次の選挙で土井たか子さんに敗れた。政策を実現するということは、そういうことだろうと思います。
特にこれからは、国民に歓迎される政策というのはあまりないでしょう。消費税だって、歓迎される政策ではなかった。しかし竹下さんはそれを導入し、その結果選挙で負けた。蓄積した権力を使い切ったわけですが、制度としての消費税は定着した。民主主義における政治家というのは、そういうものだと思います。
司会「政治家には信念がなくては困りますが、しかし政治家は信念のプロではなく、合意形成のプロでなければならないということですね。」
大島「そうです。民主主義というのは、合意形成を丁寧にやるということです。
例えば審議拒否というものがあります。マスコミのみなさんには大変批判されますが、国会というのは合意形成を丁寧にやる場ですから、それがきちんと行われないときには、野党は審議拒否という最終的な手段で抵抗することになるわけです。
ここ(国会)は権力を制御する場ですから、そのためには合意形成はきわめて丁寧でなければいけない。たとえ衆参で絶対過半数を持っていたとしても、合意形成は丁寧にやらなければいけない。その意味では、適度の「ねじれ」は悪いものではないと思います。今のような「ねじれ」状態でも、きちんと合意形成を進めていけば、いろいろな法案は通っている。もっとスピードを出すべきだ、ねじれで政策が進まないから日本が停滞してしまう、という意見もありますが、ねじれていることによって与党と野党が常に対話をしながら積み上げていくというプロセスも重要だと思います。
たしかにものすごく神経を使いますし、大変な仕事です。党内をまとめるのも大変だし、他党との交渉も大変ですが、そうやって政治が鍛えられていくのかなとも思っています。」
丁寧な合意形成プロセスに求められるリーダーシップとは
政策決定に関してもうひとつ感じるのは、政党助成金の仕組みが国会議員の行動様式に与えている影響です。わが党は活動費の8割を、自民党も7割を政党助成金に依存しています。そうすると、党内での上下関係ができにくいわけです。
かつての派閥ならリーダーがお金を集めて、それで面倒をみた。それによって、派閥内の統制が効いたわけです。しかし政党助成金になると、そういう上下関係はできません。ですから今の国会議員は個々の法案での投票行動にしろ、代表選にしろ、かなりフリーハンドです。こういうなかでは、かなり丁寧な合意形成をしないと、なかなか納得感が得られません。これは他党にも共通する問題だと思います。
そもそも民主主義というのは、独裁や上意下達と違って、丁寧な合意形成を不可欠とするものです。独裁に対抗する手段は実力行使ということになりますが、民主主義がそれを防ぐのは、丁寧な合意形成があればこそです。そのリーダーシップというものが、求められていると思います。
司会「時代の変化をつかんで、時間をマネージすることが、新しいリーダーシップの要件になるでしょう。時代の変化のなかで、世論あるいは輿論がどこまで成熟しているか(いくか)、それを見極めて問題提起していくことで、合意形成を促す。しかもグローバル時代ですから一国内だけではなく、国際的な相互関係のなかで変化していく。そういう変化を的確にとらえ、またその変化の時間軸をマネージしていくことが、リーダーシップの重要な要件になると思います。」
大島「私は十一年前、はじめて選挙に出たときに「これから十年が日本のラストチャンスだ」と言いました。今日も朝、駅で国会レポート(月報)を配ってきましたが、明らかに人が減っています。つまり現役世代が大量にリタイアしてしまったわけです。ここ一、二年で埼玉県のベッドタウンの朝の駅の利用者は激減しています。その意味でも本当に、時間軸というものが重要だと痛感しています。
十年前は現役世代向けに「これから十年が日本のラストチャンスだ」と言っていたわけですが、リタイアした有権者が増えてくれば、そちらに訴えることも考えなければなりません。つまりリタイアしたみなさんに、現役世代のことも考えてください、といって説得することが大きなウェイトを占めてくる。
これだけ世界が大きく変わっているときですから、わが国がそのスピード感と、変化に対応するしなやかさを持つことが、これまで以上に大切だと思います。」