【国会レポート】環境技術を世界に提供し、温暖化対策で世界をリードする【2008年4号】

北海道洞爺湖サミット(7月7日~9日)を前にしてマスコミ等で地球環境や地球温暖化についての報道が増えています。今回は政治的な側面から環境問題を考えてみましょう。

日本人一般に地球温暖化問題が意識されるようになったのは1997年12月に開かれた京都会議以降と思いますが、それに先立つ1992年6月、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開かれた地球サミット(環境と開発に関する国連会議)二酸化炭素(CO2)を中心とする温室効果ガスの排出量の目標が各国政府間で合意されました。そこで、世界155ヶ国の代表が気候変動枠組条約に署名したのです。

京都議定書で定められた数値目標

この条約に基づく締約国会議のことをCOP(ConferenceofParties)と言いますが、第1回会議をCOP1、第2回会議をCOP2と呼ぶというふうに、会議の開催順番をCOPの後に付けるようになりました。京都会議はCOP3です。ここで採択されたのが世界的に有名になっている京都議定書にほかなりません。

京都議定書では、1990年を基準年として2008年~2012年のCO2排出量について先進国の数値目標が定められました。発展途上国には目標は課せられていません。すなわち、日本が6%、米国が7%、カナダ6%、EUが8%、ロシアが0%などとそれぞれ削減することになったのでした。同時に、この数値目標を国際的に協調して達成するという仕組みも決められ、それがCO2の排出権を取引できるという京都メカニズムです。

ところが、京都議定書にはCO2排出量の多い中国が参加していません。また、米国は京都会議に当時のゴア副大統領が乗り込んできて地球環境問題を熱心に説いたにもかかわらず議会の反対で離脱しました。カナダも同様です。ちなみに2005年時点での世界のCO2排出量上位2カ国は米国(21%)中国(19%)ですが(日本は4%)、まず4割も占めている両国が参加していないことが京都議定書の大きな弱点と言えるでしょう。

さらに、京都議定書を批准しているEUやロシアで注目すべきなのは排出量の数値目標の基準年が1990年ということです。EUは周知のように1989年11月にベルリンの壁が壊れて以来、東欧圏の共産主義諸国が次々に崩壊していきました。以後、そうした東欧諸国はEUに組み込まれましたが、このことは、CO2を大量に排出する東欧諸国の古い工場群がシャットダウンし、CO2排出の少ない最新工場に置き換えられたということでもあります。つまり、EUにとって1990年が基準なら京都議定書の数値目標の達成は容易なのです。

1991年にソ連が崩壊して再生したロシアについても同様で、1990年なら当時のソ連の古い工場が出していた大量のCO2が基準となります。ロシアになってソ連時代の古い工場はどんどん閉鎖されていったわけで、それだけでCO2の排出量が減ってしまいました。やはりロシアにとっても数値目標の達成は容易です。

日本に重くのしかかる排出権のコスト

では、日本はどうでしょうか。もともと日本は世界最高水準の省エネ技術を持っていますから、1990年の時点でもCO2排出量の少なさでは世界の優等生でした。逆に言えば、1990年を基準に2008年~2012年のCO2排出量を6%削減するというのは、絞りきった雑巾をさらに絞るということですからかなり大変なのです。

一方、経済が普通に伸びていけばそれに比例してCO2の量が増えていきます。日本の場合、1990年に比べて今、7.7%オーバーしています。ということは、6%と合わせて13.7%もCO2を削減しなければならないということです。しかも、京都議定書では2008年~2012年の間に数値目標になるまで削減するというのではなく、最初の年から5年間ずっと数値目標をクリアしていなければなりません。

つまり、もう今年から直ちに日本は13.7%の削減を行う必要があるのです。世界最高水準の省エネ技術を利用しているのに一気に13.7%も削減するというのは、革命的な技術革新がないと難しいでしょう。ではどうするのか。そこで出てくるのが前述した排出権の取引です。日本がCO2排出の余裕のある国から排出権を買い、それによって数値目標を押し上げるということです。

日本政府は達成するために現時点で2000億円分(CO21トン=2000円と換算、以下同じ)の排出権を買うという計画を持っています。日本の産業界も政府に対して自主的にCO2を減らしますよという約束をしていて、それによると鉄鋼業界が1000億円分、電力業界が2000億円分排出権を買う予定です。また現在、柏崎原発が停止していますが、もしも5年間止まると、代わりに火力発電に依存してCO2が増えあるため、3000億円分の排出権を買わなくてはいけません(1年当たり600億円の5年分)。

以上を合計すれば少なくとも5年間で8000億円が必要になります。京都議定書を達成できなければ、実際にはもっとかかるかもしれません。我が国だけが世界でただ一カ国排出権を税金や企業の利益で購入することになるのです。今、中国では排出権が売れるということで「空から月餅が降ってくる」との報道があります。我が国の事情に一番理解を示す国から排出権を購入すべきでしょう。

私たちがCO2を減らすことは、地球環境を持続可能とすることに貢献するとともに、海外から購入する排出権を減らすことにもなります。今後、地域社会では地球温暖化防止活動推進員の皆さまの活動など国民あげての取組みが重要になってきます。

日本にとって自由貿易体制の維持が重要

CO2排出量が最も多い米国と次に多い中国が参加しておらず、EUとロシアは数値目標を容易にクリアできるのに、日本だけが高いハードルを越えようともがいているのです。ノーベル経済学賞を受けた米国のスティグリッツ教授は「地球温暖化に取り組むことは、グローバルな社会的公正の問題である」と述べています。

地球温暖化対策は各国の利害が露骨にぶつかり合う外交交渉の現場でもあるのです。日本政府は今、温暖化対策で産業セクター別の取り組みを提唱していますが、洞爺湖サミットでは私は日本の国益を守ったうえでの成功を期待しています。

そして今、私が最も恐れるのは環境をめぐって世界が保護主義的になることです。CO2排出量の多い国からの輸入品に関税をかけようといWTO(世界貿易機関)う動きが出てくると、による自由貿易体制が崩れてしまうでしょう。食料やエネルギーなど海外の資源に依存している日本にとって大きなマイナスになります。したがって、我が国は自由貿易を維持しながら、高い省エネ技術を世界に提供することによって地球環境問題に取り組むべきであると考えます。