【国会レポート】穀物や原油価格の高止まりを前提とした経済政策が必要【2008年5号】

今、世界的に不況の影が差してきています。アメリカはサブプライムローン(低所得者向け住宅ローン)の破綻をきっかけに不況に転じ、ヨーロッパはアメリカの余波をもろに受けて経済が停滞してきました。日本もスタグフレーション(経済活動が停滞するなかの物価の上昇)的な状況になっており再び失業の増加が懸念されます。さらに周知のように、昨年から穀物や原油など食料やエネルギーの価格が高騰してきています。

原油を例に取れば、今年2月、原油は1バレル100ドルを突破しました(1バレル=約159リットル)。夏に向かって灯油等の需要がなくなるので、本来、原油価格も下がると予想されていましたが、実際には高止まりしたままです。とすれば、これは従来とは違う「新しい局面になった」ということにほかなりません。

巨大な年金資金の運用が価格上昇を招く

原油価格はWTI(ウエスト・テキサスインターミディエート)、ヨーロッパ産の北海ブレンド、中東産のドバイが世界の3大指標です。なかでもアメリカの西テキサスで産出される高品質の原油であるWTIは、その先物がニューヨークマーカンタイル取引所(NYMEX)取引され、特に重要な原油価格の指標となっています。そこに今、約1700兆円と言われる世界の年金資金の一部が流れ込んで原油価格を押し上げる一つの大きな要因となっているのです。WTIの先物市場の規模は15兆円(1ドル=100円)ほどしかなく、世界の年金資金の1%程度が入ってくるだけでWTIの先物市場の規模を超えてしまい、価格に敏感に反映されてしまいます。

マスコミは「投機マネーが原油に流れて価格が高騰している」と報道しているのですが、実は年金資金の力のほうが大きく、しかも、売り買いを繰り返す投機マネーとは違って年金資金は一定の方向で徐々に買い増していくという性格を持っています。原油についても年金資金の買い増しによって上昇傾向が持続しているのです。これまでなら株価が上がれば債権が下がり、債権が上がれば株価が下がっていましたが、今は株価も債権も弱含みのため、年金資金にとっても原油が新しい運用先になってきたのでした。同じ意味で、年金資金は穀物にも向かっており、それがやはり穀物価格を上昇させる要因となっています。

さらに穀物や原油価格が上昇するのは、ロボットトレーディングとクロスマーケットという運用の仕方も大きな要因となっています。

ロボットトレーディングとはコンピュータープログラムにより自動的に売り買いをすることです。クロスマーケットは運用先の商品の垣根がなくなってきたということです。従来なら、株、債権、為替、穀物、エネルギー、貴金属など個別の市場のなかで一定の資金が運用されてきたのですが、今ではその垣根を乗り越え、資金が穀物に行ったかと思えば原油や為替に向かうといったように資金の流れが市場を超えて自由に動くようになってきました。つまり、すでに世界的な資金の動きは人為的なコントロールが効かなくなっています。

一般物価の水準に追いついた穀物・原油価格

とはいえ、注意しなければならないのは、穀物や原油の価格が高騰してきたのではなく、本来の価格水準に追いついてきたととらえるべきということです。なぜなら、1980年から2005年にかけて先進国の物価は2倍以上に上昇しているにもかかわらず、原油、穀物、非鉄などの一次産品価格はほとんど上昇せず、実質価格は2分の1以下に低迷してきました。それが2000年代に入って、中国やインドなどの新興国の急速な工業化を背景に、ようやく一次産品価格が一般物価に追いつく動きが始まったのです。

世界の一般物価というのは年間3~5%上昇しています。したがって、たとえば原油価格は1980年には1バレル38ドル程度でしたが、般物価と同じ上昇率を示したとすれば今1バレル100ドルになったとしてもそれは適正な価格ということになります。

まさに「新しい局面になった」と前述したように食料や資源、エネルギー価格が安いという時代が終わって一般物価と同じ水準の時代になったのです。もちろん、そこには中国やインドなどの需要が急増してきたという背景は欠かせません。また穀物については1990年代半ばから始まった世界的なパソコンとインターネットの普及も挙げられます。それまで買い付け業者の言い値で農作物を安く売っていた農民もパソコンとインターネットによって消費者の購入価格の情報をリアルタイムに知ることができるようになり、買い付け業者に購入価格のアップを交渉できるようになってきたのでした。

いずれにせよ、食料もエネルギーも今後、以前の水準に下がることはないでしょう。

財政規模の確保と省エネ技術の革新を

ところで、以上述べてきた食料とエネルギー価格の上昇についてのメカニズムは、ネクストキャビネットの経済産業副大臣である私が党内で開いた勉強会に金融や食料・資源の専門家を招き、そこで学んだことです。

私にとってこの勉強会は、議員をはじめ党の関係者の方々の間に、価格上昇のメカニズムについてのコンセンサスをつくるという営みでもありました。このコンセンサスづくりはある程度成功しているという手応えがあるので、今後はそれに基づいて政策を展開していくべきと考えます。

昨年来、私は景気についてきわめて厳しい見方をしている国会議員の一人です。現在、アメリカやヨーロッパの景気が後退しているなかで、我が国においても今年と来年の税収入は大幅に落ち込むと考えています。

今後は税収入に合わせて硬直的に財政を組むのではなく柔軟に考える時期だと思います。予算規模を確保したうえで、重点的に福祉現場の人件費アップや石油高騰に伴う補助を行ったり、学校を耐震構造に建て替えるなど直接国民の生活と結び付けることによって景気後退を防ぎ、世界経済を我が国が下支えしていくべき局面にあると考えます。

省エネ技術の革新に対して財政支援を徹底的に行うべきです。たとえば発熱灯からLEDに切り替え、埋もれ特許を見つけ出し、太陽光発電、燃料電池などで徹底的な省エネ技術を開発し、またビルの屋上緑化を進め、コンビニ弁当や外食産業での余りを激減させ、食料、資源、エネルギーの高騰に世界でいち早く対応できるようになることが必要です。あらゆる手を打つことで、我が国はもう一度世界の先頭に立てると考えます。