【国会レポート】国会閉会中には、海外動向を視察する【2022年6号】

海外から日本に帰って来ると、清潔で、すべてが時間通りに進み、国民は懸命に働くことを厭わないのに、社会や経済が弱くなっていることに、強烈な違和感を覚えます。特に最近の円安に、我が国は、どうしてしまったのかと思うのです。民間の収益は、月々、四半期毎に検証できますが、国の政策は、長期間の政策の積み重ねが、今の結果を招いています。我が国の停滞を招いたこの30年間の国の予算編成のあり方の検証が必要で、国の予算をもっと将来への投資に組み替えることが急務です。
さて、国会が閉会すると、世界の動向を知るために、自費で海外を視察します。2020年1月には、武漢、北京、香港を訪れました。都市閉鎖される直前の武漢を訪れたことは、感染爆発を具体的にイメージできたなど、新型コロナウイルス感染症の対策を立案する上で役に立ちました。また、北京で、その後、習近平氏のアドバイザーに就任される経済研究所所長との意見交換は、「一帯一路」(習近平政権が進める中国と欧州を結ぶ交易ルート整備構想)の政策立案過程についての知見を得ることができました。そして、香港では、野村證券を訪れ、「中国の新興市場に、中国発バイオベンチャー企業の上場が目立っている」と伺った際には、デジタルからバイオまでを射程に入れてきたのだと、認識を新たにしました。

視察先にラオスを選ぶ

通常国会が6月に閉会し、新型感染症での入国手続きが緩和されたので、まだ訪問経験がなく、中国の「一帯一路」戦略の要であるラオス人民民主共和国を選びました。南北はタイ・カンボジアと中国、東西はベトナムとミャンマーに囲まれた内陸国です。国土の多くは山岳地帯で、日本の本州と同じ面積に、埼玉県と同じ730万人が暮らしています。敬虔な仏教国でもあり、露店や市場で買い物をしましたが、ふっかけられたりすることはなく、治安は安定しています。最貧国の一つとウイキペディアには記載されていますが、主食のもち米は十二分に自給できていますし、庶民が利用する市場での食材は、肉、魚、果物、野菜など豊富で、貧しい感じはしません。また、山岳地帯には、多くの水力発電所があります。今回一日掛けて視察しましたが、関西電力は黒四ダムよりも一回り大きいダムを2019年に稼働させ、現在は、タイへの売電事業を行っています。
ラオスが影響を受けている国は、中国(人口14億人)とベトナム(人口9,700万人)です。ラオスは、ベトナム戦争では、同じ共産主義国として、北ベトナムに協力していましたから、同国とは今でも深い関係にあります。留学先で一番多いのもベトナムです。特に、ベトナムとの国境沿いには、ベトナム戦争当時、米軍が大量の地雷を空から投下したので、今でも被害が出ています。このことは、ラオスの対米意識に微妙な影を落としていると感じました。今回、海外青年協力隊の方々と懇談した際に、理学療法士で20才代の女性の方が働いていたリハビリ病院は、今でも地雷で被害を遭われた方を受けて入れておりました。
また、紳士服アオキの縫製を行なっている従業員1000人の工場を視察しましたが、生産指導は同社中国工場から派遣された5人の中国人で、工場の生産性は中国に比べ7割と伺いました。産業を支える中間管理職を育てることが課題です。
そのために、ヴィエンチャンでは、日本センターで、日本への留学経験があり博士号を持つ方が、JICA (独立行政法人国際協力機構)の職員と共にラオス人向けのビジネススクールを開講しています。入学にあたってのオリエンテーションを覗いてみましたが、皆さんの熱意が伝わってきます。日本の経営思想を根付かせることは、同国における日本の存在感を高めことになります。

「一帯一路」戦略の一環としてのラオス中国鉄道

2020年1月に中国武漢を訪れ、長江に設けられた新しい港である武漢新港を視察しましたが、その時点で、すでに新しい規格のコンテナ船を建造し、神戸と大阪から直行便で、内陸の武漢までの航路を運用していました。将来は武漢新港に貨車が乗り入れ、欧州まで物流網を広げて行く「中欧班列」の計画が実行に移されていました。
今回の訪問の目的の一つが、中国の「一帯一路」の影響を現地で実際に見ることでした。特に、2021年に中国から首都ヴィエンチャンまで420km のラオス中国鉄道が中国により敷設されました。その先のタイまでつながれば、インドシナ半島は、継ぎ目なく中国からの物流網に組み込まれます。
現地を視察しましたが、ラオス中国鉄道のレールの幅は広軌なのに対して、タイは戦前に日本が敷設した狭軌なので、ヴィエンチャンで積み替え作業が発生し、物流の拠点が形成されつつあります。そのことは、「一帯一路」の影響を抑えることにもつながりますが、タイまでを広軌にして一挙に物流を推し進めるのであれば。いっきに中国の影響はインドシナ半島に及びます。同物流拠点の責任者で、元外交官で大臣であった方からは、中国からの影響を抑えたいために我が国からの投資を強く求められました。
ラオス中国鉄道は、感染症の影響もあり、当初の計画通りの貨物量は確保されていません。そのことは、中国が世界中で進めている投資戦略にも、影響を及ぼしていると考えます。海外での中国の投資の採算状況について検証し、習近平体制が継続する中国の日本への影響を見極めたいと考えています。