【国会レポート】新型コロナウイルス感染症、ワクチンは戦略物資【2021年5号】

フランスのマクロン大統領は、5月7日、「アングロサクソン(アメリカ・イギリス)が多くのワクチンや原料を封じ込めている」と欧州連合(EU)首脳会議が開かれたポルトガル北部ポルトで記者団に語ったと報道されています。

15年前、2006年11月8日、私は、厚生労働委員会で、「例えばある国でヒト・ヒト感染のフェーズ4になった。ワクチン開発のためにその新型ウイルス株が同タイミングで、日本、アメリカ、イギリスに送られた。3ヶ月、半年後に、アメリカでもイギリスでもワクチンの投与が始まった。日本ではできていない。私が政府でしたら一刻も早く負けないように開発したいと思います。国民の不満を起こさないためには、同じタイミングで日本国民もワクチンの投与が始まらなければならないと思います」と、政府に対応を求めています。

ワクチン開発、「2021年日本の敗北」

7月までには、リスクの高い高齢者への接種が終了していたので、8月に感染者が急拡大しても医療崩壊には至りませんでした。

ファイザー社と我が国政府との契約では、9,500万人分を4月から11月までに供給することが決まっているだけで、月毎に平準化され供給されるかどうかは分かりません。また、ファイザー社のワクチンは欧州域内で製造していますので、輸出するにあたっては、欧州委員会の輸出許可が航空機一便毎に必要です。輸出許可を必要とする期間は、当初は3月まででしたが、その後延長され9月まで輸出許可が求められています。

4月にドイツでファイザー社のワクチン工場が新設され、その生産余力が日本に振り向けられ、5月からようやく日本への供給が本格化しました。6月までに5,000万人分が供給され、65歳以上の高齢者への優先接種が終了したことで、その後、感染が拡大しても、ぎりぎり踏みとどまることができたのです。

しかし、感染拡大が早まったり、ワクチン供給が滞ったりして、死亡者数が跳ね上がっていたとしたら、日本国民の生死を海外企業のワクチン供給と欧州委員会の輸出許可に委ねていることも顕在化していたと思います。他国から多額(少なくとも7300億円)の費用を払ってワクチンを購入し、自国民の生死を他国に委ねざるを得なかったこの事態は、「2021年日本の敗北」です。

今回、新型コロナウイルスワクチンを自国で開発した国は、米国、英国、中国、ロシアです。自国の安全保障のために、他国に依存することを明らかに回避したのでした。その上、外交上の手段として使っています。

他国に依存しない領域を持つこと

携帯電話やカーナビで示される現在位置は衛星からの電波で捕捉されています。それは、米軍が自国の艦船や航空機の正確な位置を特定するために1993年から運用を開始したGPS衛星の電波を利用しています。同様の衛星システムは、ロシアではグローナス、欧州はガルレオ、インドはIRNSS、日本は準天頂衛星「みちびき」です。中国は「北斗」で、2020年6月に55基目を打ち上げ、民間にもサービスを開放しています。中国ではファーウェイなど中国製スマホは、位置測位に北斗の電波を利用しています。日本の「みちびき」以外の衛星は安全保障が主目的であり、国家有事の際には民生利用が制限される恐れがあります。従って、日本独自の測位衛星を持つことが独立国の条件と思い、予算獲得に全力を尽くし、2011年9月に準天頂衛星を整備する閣議決定に漕ぎ着けました。「大島委員が準天頂衛星「みちびき」導入で大変汗をかかれたことは私もよく承知しています」と、2013年5月、宇宙政策担当大臣が答弁しています。「みちびき」は、2018年からサービスをはじめました。この電波を使えば、他国に依存することなく、航空機も艦船も、そして私たちが使っているスマホも、どんな状況でもどこにいるのかを日本の電波で正確に捕捉できます。

私は、他国に依存しない領域を少しでも持つことが、外交上の自由度を保てると考えます。従って、新型インフルエンザの流行が収束した2010年6月、尾身茂先生もメンバーであった政府有識者会議が、「国家の安全保障という観点から、ワクチン製造業者の支援や開発の推進、生産体制を強化すべきである」とした指摘は正論です。

科学技術の創造力を超えては発展しない

今回、日本で、ワクチンの独自開発ができなかったことは、我が国のあり方そのものを問う課題でもあります。

「政治は経済力によって政策の自由度が決まり、経済はその国が持っている科学技術の創造力を超えては発展しない」と考えています。時間があると国の研究所を訪問して、一線の研究者から研究テーマを聞き続けています。

「以前は工学部で優秀な学生が民間企業に就職することは珍しくなかったが、今は理学部でも研究者として嘱望されても民間に行ってしまう」と、研究所所長から数年前に伺いました。日本の「科学技術の創造力」が弱くなっています。

半導体の需給が逼迫しているので、我が国の半導体製造装置について調べてみると驚きでした。てっきり、ニコンやキャノンの製造装置が世界で一番微細な基盤をシリコンウエハーに焼き付けられると考えていましたが、オランダのASML社に抜かれていました。この技術は半導体製造技術の中核です。

先日、国立天文台を訪れ、常田台長から「科学技術強化法案」(法案提出者として参議院で答弁)が成立して任期付き研究者の雇用期間が伸びたことで、講師など常勤の研究職に転換できる方が出てきて研究者の励みになっていると伺いました。また、量子暗号研究の一人者である情報通信研究機構の佐々木先生は、研究者は安定した生活と自由な研究環境で力を発揮できるとおっしゃっています。

日本の科学技術を最先端にするには、今後多くの方々の理解と応援が必要です。私は、これまでの雇用法制と大学改革を検証し、科学技術研究費を逓増させるなど、我が国の研究環境を整備するために取り組んで行きます。