【国会レポート】ワクチン開発、「2021年日本の敗北」【2021年2号】
ファイザー社のワクチンは、連休明けからは順調に日本に供給されると政府は発表しています。自治体のワクチン接種スケジュールは、政府の発表を前提に計画されていますが、欧州からの輸入は貨物飛行機一便ごとに欧州委員会の承認が必要で、日本への輸出を承認することを前提としています。欧州委員会は域内での感染症が広がったことで、戦略物資であるワクチン輸出を1月30日から許可制にしました。また、供給量が大幅に増えるのは、この4月、ドイツにワクチン工場が新設されたので、その生産余力が日本に振り向けられるからなのです。
日本での新型コロナウイルス感染症の死亡者は米国や欧州に比べ圧倒的に少なく医療崩壊も3波までは起こっていなかったので、ワクチンが滞っていることが顕在化しませんでした。しかし、もし医療崩壊が起きて死亡者数が跳ね上がっていたとしたら、日本は国民の生死を欧州委員会のワクチンの輸出許可に委ねていることも顕在化していたと思います。米国、英国、中国、ロシアは、ワクチンを自主開発しています。
30年前、湾岸戦争で日本は130億ドル(1兆8千億円)もの資金を拠出しましたが、助けたクエートがワシントンポスト紙の一面を使って感謝を示した広告の中に、日本は含まれていませんでした。国際社会のルールと日本の対応の本質に迫ったノンフィクションが、手嶋龍一氏の著作で「1991年日本の敗北」です。今回、他国から多額(少なくとも7300億円)の費用を払ってワクチンを購入し、自国民の生死を他国に委ねざるを得なかったこの事態は、「2021年日本の敗北」です。
同じタイミングでの接種が国の責務
15年前、当時国立感染症研究所の研究員であった岡田晴恵先生と知り合い、新型感染症について国会で取り上げています。2006年11月8日、私は衆議院厚生労働委員会で新型インフルエンザ対策に関して、次のように発言しました。「例えばある国でヒト・ヒト感染のフェーズ4になった。ワクチン開発のためにその新型ウイルス株が同タイミングで、日本、アメリカ、イギリスに送られた。3ヶ月、半年後に、アメリカでもイギリスでもワクチンの投与が始まった。日本ではできていない。私が政府でしたら一刻も早く負けないように開発したいと思います。国民の不満を起こさないためには、同じタイミングで日本国民もワクチンの投与が始まらなければならないと思います」。
また、12年前、2009年5月11日、予算委員会では、「アジアでワクチンをつくれるのは日本だけです。多くのワクチンを備蓄していれば、他国に対してもある程度の配慮ができるものですから、ここのところをしっかりと今後努力して頂かなければならないと考えております。」と、政府に対応を求めています。当時からワクチン開発は国の安全保障であり、他国に先駆けて開発することは、我が国の立場を優位にすると考えていました。
2009年の弱毒性新型インフルエンザの流行が収束した2010年6月、長妻昭衆議院議員が厚生労働大臣として設けた、尾身先生もメンバーであった政府の有識者会議の報告書は、「国家の安全保障という観点から、ワクチン製造業者の支援や開発の推進、生産体制の強化」を提言しています。
そして、1000億円の予算で、2011年8月、新型インフルエンザワクチンを量産する3つの新工場が具体的に予算化されました。その一つが、北里大学メディカルセンター(北本市)に隣接する新型インフルエンザワクチンの開発・生産を行うための第一三共バイオテック社の工場です。
しかし、その後、政権が変わり、国のワクチン開発への熱意は失われました。ワクチン製造の新工場を稼働させたそれぞれの企業は、新たな感染症の流行に備えて、使わない設備でも維持しなければなりませんでした。しかし、毎年数億円かかる費用に政府の支援はありません。すべてが企業負担になったのです。企業の努力によって工場を維持してきたことで、今回、アストラゼネカ社のワクチンが承認されれば、充填(小分け瓶詰め)は、北本市にある第一三共の工場を活用して行えるようになります。
新型コロナウイルスワクチンを自国で開発した国は、米国、英国、中国、ロシアです。自国の安全保障のために、他国に依存することを明らかに回避したのでした。その上、外交上の手段として使っています。人口の6割がワクチン接種を終わらせたイスラエル、5割の英国、4割の米国では、感染の広がりが収まりつつあります。経済も回復しつつあるとの報道もあります。まだ、人口の2%しか接種が済んでいない我が国は、変異株が広がる中で緊急事態宣言の発出など経済活動をさらに制限する必要が出てきています。
変異株流行への対策について
これまで本レポートで指摘してきたように社会経済活動は供給できる医療資源に制約されます。特に変異株が流行の主体になったのでこれまでの対策を超えた対応が求められています。厚生労働省も一所懸命に努力しているのですが、既存の枠組みの中での対応なので柔軟に対処できていないと思われます。
そこで、民間病院が感染症病床を増床することへの誘導策、国の医療施策との整合性、今後の安全保障への備えを盛り込んで、病床確保のために、以下を政府に提言します。
① 新型感染症患者を受け入れるには、多くの病床を潰して対応する病床を作る必要があり経営を圧迫する。従って、罹患した方のために病床を整備した病院には、整備に要した費用と一昨年の診療報酬見合いを概算で支払う。協力頂いた病院には、今回確保して頂いた病床は、今後、特別枠として現状の病床に加算し、新型コロナウイルス感染症が収まれば一般病床として使用することも認める。ただし病床を新設しても、医師、看護師を確保しないと稼働しないので、稼働できた病床を加算の対象にする。病院側に医療従事者の確保をお願いするが、相応の金額は国が負担することとする。
② 国は、次の基準病床数の見直しでは、都道府県毎の病床は従来通りの算定式で算出する。都道府県は、まず、県全体の基準病床数から今回新型感染症病床として協力頂いた数を引いて病院毎の病床を算定する。その後、今回確保頂いた新型感染症病床数を各病院の特別枠として加算する。特別枠は普段は一般病床として使用するが、新たに新型感染症が流行した際には、感染症対応病床として拠出願う。国の安全保障上の観点から対象となる病床には、国からの助成を措置する。