【国会レポート】2020年代を通しての人材育成【2021年1号】
高校を卒業して1、2年程度、非正規でも、正規でも、雇用保険の対象となる職場で働いてから退職して、ハローワークで、保育士になりたいと申し出れば、公的職業訓練として2年課程の専門学校が紹介されます。同校の試験を受け、入学が認められれば、2年間の授業料は、教科書代などを除けば、国が負担し、失業等給付も2年間給付されます。
このような公的職業訓練があることを尋ねたところ、多くの同僚議員が知りませんでした。失業してハローワークに赴き、保育士なり幼稚園教諭なり、あるいは介護福祉士として働きたいと相談したときに、初めてこのような制度があることが紹介されます。
明確に目的を持った受講生
先日、公的職業訓練で保育士や幼稚園教諭の資格が取得できる学校を視察しました。一学年3クラス、1クラス40人で、その一つが公的職業訓練のコースです。もちろんカリキュラムは同じで、様々な経験をお持ちの方が集っている点だけが異なっています。卒業生への求人は、保育士が3000人、幼稚園教諭が1000人です。
公的職業訓練として同校に通っている方と意見交換を行うと、一人は、ホテルマンの経験があり、子供たちのボランティアにもたずさわっていた方。もう一人は、スポーツインストラクターでスイミングを指導してきた方。そして、旅行会社、デパート、不動産会社で営業や事務職であった方など、私からの問いかけに、皆さんが明るく前職の経験も踏まえてお話しして下さいました。年齢は30代から40代が中心です。2年間の授業料は学校側に聞いたところ196万円、公的職業訓練ですから国の負担となります。受講者が負担する事はありません。この2年間は、雇用保険の対象ですので失業等給付が支給され、一定程度生活が保障されます。
積極的な職業能力開発へ転換
新型感染症以前の状態まで経済が回復するには、ウイルスが変異し続ければ、数年はかかるでしょう。回復したとしても経済や経営の仕組みは様変わりしていると思います。2020年代を通して人材に投資することが、我が国の力を引き出し、国際的な影響力を維持するためにも必要です。
かつては派遣という働き方はありませんでしたので、会社に正社員として入社すると、人事部は、解雇が難しいので、どのような人材であっても戦力化する。あるいは、企業の利益に貢献する人材に育てようと取り組んできました。しかし、2000年以降、非正規労働が定着する中で、企業が人を育てることに、以前ほどには価値を置かなくなりました。これからは、必要とされる人材を政府が育成することが強く求められています。受け身の職業能力開発から積極的な職業能力開発への転換が必要とされる時代に入ったのです。
経営環境の変化に対応した人材育成
これからテレワークを前提とする仕事、職種が増えていきます。仕事によっては、これまで日本企業で能力を発揮できなかった方が、必要とされる人材にもなります。
以前私が訪問した全国に支社を持つ物流会社では、ネパール人の留学生をアルバイトとして雇い、その後、正社員として雇用し、今は管理職として働いています。その方は、ネパールで最優秀の大学を卒業しているそうです。日本人社員だけの会議ではホワイトボード1枚でしたが、現在は、日本語での会議ですが、論点を整理していくためにもう一枚増やしたそうです。結論が曖昧なこれまでの会議と異なり、役割分担と責任とを明確にして結論を出して行く会議です。このことは新しい日本の経営の取り組みと思います。
テレワークとは、ホワイトボードを一枚増やしたように、離れて仕事を進める前提として、お互いの役割分担と責任を齟齬のないように理解して進める仕事ととも理解できます。
私の世代では、空気が読める、相手の考えを理解できる、相手の立場で考え説得できることが評価点でもありました。しかし、テレワークですと、論理的に仕事をする能力が仕事によっては評価点になります。対人関係が下手であっても、十分に能力を発揮でき、企業もそのような方を戦力化することで競争力を保てる時代だと思います。その面からも、経営環境の変化に対応した人材を養成することが必要なのです。
これからの経営で求められる能力とは
先日、サイバーセキュリティーの研修を行っている会社を訪問しました。イスラエルを本社とする会社です。日本の大手企業経営者からエンジニア向けの研修までを行なっています。
日本からプラントを輸出する際には、サイバー攻撃に対応する一定レベルの防御システムが求められます。また、経営のトップマネジメント層は、これまではサイバー攻撃を受けた場合には、システム担当役員が責任を取ればよかったのですが、今後は経営トップの善管注意義務違反(経営者としてそんなことも知らなかったのか)として、責任が問われる時代になると伺いました。
介護福祉士、保育士、医療事務など現時点で人材が足りない領域以外でも、今後、必要とされる最先端の技術を身に付ける研修も、1年から2年の公的職業訓練の枠組みに臨機応変に加えたら良いと思います。
また、例えば、入社して10年経てば1年間休職して能力を磨くことができる公的な制度を創設すれば、人材の流動性が高まると考えます。そのままその会社に留まっても良いでしょうし、より良くその能力を評価してくれる会社に転職することも、日本経済にとっては、プラスに働くと考えます。今後も我が国の力を引き出す働き方を提言して参ります。