【国会レポート】新型コロナウイルス感染症対策は科学的な知見に基づくことが前提【2020年5号】
現代に生きる私たちは、これまで何度にもわたって、感染症の流行を乗り越えて来た人類の子孫です。ですから、産まれ持って感染症への免疫(重症化しないための抵抗力)を持っています。しかし、「新型」とは、私たち人類がこれまで経験したことのない未知の感染症なので、誰も「免疫」は持っていません。従って、毒性の強弱にかかわらず、しっかりとした対応をすることが基本となります。
また、感染症には流行のピークがあり、いかにピークを抑えて重篤な患者を受け入れてくれる病院を確保し続けることができるかが重要になります。感染症病床、人工呼吸器、人工肺(ECMO)の受け入れ能力を超えないように感染を抑えるとともに、それぞれの能力を増強することが第2波に備える課題です。
さて、5月の連休明けに新規感染者数が大幅に減少して、新型感染症は国民の努力でコントロールできたと思われました。子供たちの休校など相当の犠牲を払っての緊急事態宣言だったのですが、東京の夜の街で燻っていた新型コロナウイルスは、緊急事態宣言が解除され、人々の動きが活発になると、新規感染者は再び増加しています。
既に都内の飲食店を利用する方は目に見えて減ってきています。これからは、クラスターが発生した店舗名の公表や調査協力を義務づけるなど、公衆衛生のためには一歩踏み込んだ対策が取れる施策も必要となってきます。
ただし、そのためには、日本での新型コロナウイルスの感染力や致死率などを科学的に検証した上で、規制の必要性を議論し、その強弱を見極めなくてはなりません。
新型コロナウイルス感染症の流行を予見していたドイツ
今から8年前に、ドイツのロベルト・コッホ研究所(ドイツの感染症研究所、北里柴三郎博士の留学先)は、ドイツ連邦議会に対して、今後、新型コロナウイルス感染症が流行し、多くのドイツ人が亡くなるとのレポートを提出しました。そして、レポートに従いドイツでの対策が進み、ドイツのヨーロッパでの致死率は一番低くなっています。ICU(集中治療室)のベッド数は、10万人あたりドイツでは29.2床、日本では5.6床です。私の知人が同国でジャーナリストをしていて、その熊谷徹氏が寄稿した日経ビジネスでの記事では、「ある年の2月に東南アジアの国で、市場で売られていた野生動物にひそんでいたウイルスが人間に伝播(でんぱ)し、ヒトからヒトへの感染が始まる。」、「ウイルスの潜伏期間はたいてい3~5日だが、14日間になることもある。症状は空ぜき、発熱で始まり、大半の患者が息苦しさや悪寒、筋肉痛、頭痛、食欲不振を訴える。レントゲン撮影を行うと、肺に異常が見られる。子どもや若者は軽症もしくは中程度の症状で済み、約1週間で治癒するが、65歳以上の患者はしばしば重篤な状態に陥り、3週間の入院が必要になる」と、ロベルト・コッホ研究所は想定していたと報じています。そして、「ドイツ人のビジネスマンが出張先から、もう一人のドイツ人は中国に短期留学した後、ドイツに戻って感染が広がった」とシナリオを描いています。8年前のレポートですが、現在世界中で広まっている新型コロナウイルスを正確に予測していたのでした。
日本国内で罹患された方の分析が今後の対策には必要
中国武漢市から感染が広まった新型感染症ですが、これまでは、新型コロナウイルスの危険度が分からなかったので、最悪のケースを前提にしての対策が必要でしたし、その対策は正しかったと思います。
半年が経過して、現在、我が国では2万人を超える方が罹患されています。7月8日に行われた内閣委員会で、私は、厚労省に質問しましたが、年齢別に重篤者割合や死亡率を集計した資料はありますが、統計的手法を用いた分析は、行なっていません。私は、新型コロナウイルスへの科学的な知見があってこそ、どこに重点を置いて対策を取るべきなのかなど、合理的な対策が立案できると考えています。そのことを内閣委員会での質疑を通して、新型コロナ対策担当大臣に要請しました。
国民の安心感を醸成するリスクコミュニケーションとは
医学会の研究者や医師の皆さまがメンバーの新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が廃止され、医学の専門家以外の委員も入った分科会に改組されました。現在、我が国には、純粋に医学的見地から新型コロナウイルスの病原性(毒性など)を評価して、政府に見解を伝える委員会は存在しません。誰もが認める医学的な専門家の皆さまからの助言があってこそ、政治が具体的な対策を立案できるのではないでしょうか。その点も、7月8日の内閣委員会で指摘させて頂きました。
ドイツでは、8年前には、ロベルト・コッホ研究所が、新型コロナウイルス感染症が世界的に流行するシナリオ(具体的に何が起きるか)を連邦議会に提出し、国と地方は準備を進めました。
私は、政府が医学的な専門的知見に基づいて、個別の対策を立案し実施をして、新型ウイルスがさらに究明され、新しい知見が得られれば、その都度、シナリオ(対策)を補正していくことが望ましいと考えます。その際には、国の指導者は、科学的知見に基づいて、包み隠さず起こり得ることを国民に伝え続けることが、国民の不安を軽減し安心感を醸成できると思います。メルケル首相は、科学的な根拠に基づいて制限の導入や緩和を説明して来ました。NHKは、ドイツ人女性の声として、「メルケル首相には、政治的な存在感を高めたいという野心は一切感じられない。カリスマ性はないが、国民を第一に考え、客観的な事実に基づいて、最も良い解決策を模索している」と伝えています。国民とのリスクコミュニケーションの分かりやすい例と思います。我が国でも実現できるように、働き掛けてまいります。