【国会レポート】私が提出者となった議員提出法案「研究開発力強化法改正案」が可決【2019年1号】

1994年に日本で初めて行われたインターネットの見本市「インターロップ」を幕張メッセで見たとき、これで世界が変わると確信したことをいまでも鮮明に覚えています。

さて、私たちが使っているインターネットもパソコンも1960年代の技術です。その後、半導体が圧倒的に小さく安くなったことで、1960年代には大学の巨大コンピュータでしか実現できなかったことが、私たちの手の上でも出来るようになったのです。

Googleで「Mother of all demos」を検索してYouTubeで見ると、私たちが使っているウインドウズもマックOSも1968年には実現していたことが分かります。

しかし、本レポートで取り上げたことがある「量子コンピュータ」の研究開発が各国で本格的になっています。一度加速すると技術開発のスピードは早く、2020年代には実現するでしょう。そうなるとこれまでとは全く異なる世界が待っています。量子コンピュータは、スーパーコンピュータをはるかに超える能力を持っています。例えば、「ボイストラ」など通訳ソフトは、現状では海外旅行程度の語学力は持っていますが、量子コンピュータができると、同時通訳が視野に入るでしょう。また、インターネット上では、情報を秘匿するために高度な暗号システムが用いられています。この暗号システムはスーパーコンピュータの速度では解読が難しいことを前提としていますが、量子コンピュータが実現すると瞬時に解読できるようになり、インターネットのセキュリティーそのものが無力化してしまいます。

現在、各国が競い合って量子コンピュータの開発を急いでいるのは、他国に先んじて開発することが国家の安全保障にとっても急務だからです。

息の長い地道な研究が成果を生む

さて、オリバーストーン監督の映画「スノーデン」は、米国国家安全保障局のプログラマーであったスノーデン氏が、米国政府がインターネットや電話などの傍受を秘密裏に行っていたことを暴露した事件を映画化したものです。映画では、スノーデン氏が日本に赴任し、対日通信傍受に従事している場面もあります。同監督は、「プラトーン」や「7月4日に生まれて」でアカデミー賞を受賞していますので、取材に基づいた作品で荒唐無稽の作り話ではないと思います。

そこで、量子コンピュータであっても、絶対に解読されないことが物理学的に証明されている通信方法が量子暗号です。数年前に、JAXA宇宙科学研究所を訪ねた際に、「中国が600kgの量子暗号衛星を打ち上げ成功したらしい」と伺ったことが強く印象に残っています。

その後、2018年1月に国の研究機関である情報通信研究機構で、量子暗号を研究している佐々木先生から詳しく説明を受ける機会がありました。日本も2001年から研究を始め、一昨年には、50cm角の衛星に6kgの装置を設置して、宇宙空間から小金井にある同研究所にレーザー光線をピンポイントで送信することにより、量子暗号の基礎実験に成功しています。その技術は、衛星から大使館や情報機関、艦船に対して傍受されることなく情報を送ることを可能にするものです。また、ビジネスでの活用では、衛星での画像データを完全に秘匿して地上に送れるので、穀物の収穫予想に用いる画像データを先物市場の主要プレイヤーである商社や穀物メジャーに販売、あるいは、衛星システムそのものを販売することも考えられます。

中国は2017年7月に衛星と地上間で量子暗号に成功しています。米国では、量子暗号に関する研究論文が公にされていません。そのことは、既に実用化されているかその一歩手前と見るべきと思います。

国会で取り上げて研究を促進議員立法成立で予算を確保

内閣委員会での質疑で、量子暗号の研究を実用化することが我が国の安全保障にとっても必要ですし、また、新たなビジネスの領域を広げると指摘させていただきました。情報通信研究機構の佐々木先生からは、「衛星量子暗号の社会インパクトをあれほど簡潔かつ端的にご説明頂いた例を私はこれまで見たことがありません」とお褒めの言葉をいただきました。

政治は経済に規定され、経済は科学技術の進歩に立脚しています。最近では、1970年代の2回のオイルショックが、省エネ技術革新を誘発して、その技術革新に遅れてしまった東ドイツでは、1989年11月9日にベルリンの壁が崩れ、ソ連は1991年に崩壊しました。日本では、CVCCエンジンを開発したホンダが自動車産業での地歩を固め、1980年代に、NECや富士通などエレクトロニクス産業が隆盛を極めることにつながりました。

インターネットもパソコンも1960年代の技術の延長上にあります。しかし、量子コンピュータが実現することは、明らかにこれまでとは異なる世界に入ります。1970年代のオイルショックが世界政治を変えたように、今起きていることは、科学技術が再び政治そのものの姿を変えようとしています。

私は、時間があると、第一線の研究者と意見交換を積み重ねて、日本の最先端がどこにあるのか探しています。残念ながら、限られた予算の中でギリギリ踏みとどまっているのが現状です。日本政府の科学研究費総額は4兆円に対して、グーグルは一社で2兆円です。

昨年の臨時国会では、研究開発予算を確保するために、「研究開発力強化法改正案」の法案提出者になり、衆参で可決され成立しました。参議院では、法案提出者として答弁もしています。成立により、今年度予算から科学技術研究費が若干増額されます。我が国が持続的に発展するには最重要な分野です。これからも日本の科学技術を政治の立場から応援していきます。