【国会レポート】労働者不足を外国人労働者で対応するのか【2018年6号】

会合で同席になった方から、「ネパールの方を管理職として登用した。彼はネパールで最優秀の大学を卒業している。」と聞きました。先日、同社を訪問して、外国人労働者の受け入れについて伺いました。

同社は、従業員が4,000人を超えており、ダイバーシティ(多様性)を掲げて、外国人や障害者の雇用に熱心に取り組んでいます。同社の方からは、「7年前に、日本語学校から留学生を雇用してほしいと頼まれ、週に28時間労働が上限でしたが、留学生を引き受けました。その後、2年間の留学が終了してからは、正社員として雇用しています。ネパールの方は、配慮や思いやりがあり日本人との相性は良く、時間を守るとか報連相(報告・連絡・相談)など日本の働き方に馴染んで頂けると十分に力を発揮します。ネパールの方の日本語のレベルは高いのですが、会議の進め方が変わりました。日本人同士での会議では、結論を詰めきれずに、理解しているようでも曖昧な部分が残ってしまいますが、そこに、日本語のできる外国の方が加わると、ホワイトボードを一枚増やして、論点を整理していくなど『会議の見える化』が行われ、理解が深まり効率的な会議が行われる様になりました。」と丁寧な説明を受けました。

そのことにこれからの日本企業の未来を見て取ることができます。日本人でなくても優秀な社員は求められていますし、今後、日本語に堪能であれば、国内の中堅中小企業でも幹部職員として雇用するようになるでしょう。今、上司が男性であるか女性であるかは、こだわらなくなりました。今後は、管理職や役員が外国の方であっても、そのことを活かして同社のように多様化を進めた方が、競争力を維持・強化できる時代が迫っていると思います。

専門的な職種の賃金は各国同じ水準に

数年前にインドにある日系自動車部品工場を訪問した際に伺ったインド人幹部職員も、一昨年、ベトナムにある日系オートバイ工場で伺ったベトナム人幹部社員も、昨年1月に中国深センの精密事務機メーカーで伺った中国人幹部職員も、給与は概ね500から600万円でした。一定のスキルを持った社員の給与は、アジアでは日本も含めて格差がなくなっています。企業側にとっては、多国籍でもマネジメントが行える仕組み作りが競争力維持には必要になっていますし、働く側も他社でも国内外でも通用する能力が求められる時代になったと言えるでしょう。

そして、昨年8月に公にされた政府の年次経済財政報告では、仕事に求められる能力を低中高と分けて、1995年から2015年まで20年間の就業者割合の変化をみると、先進各国ともに事務職など中スキル層が減少して、低スキル層(単純労働)と高スキル層(管理職や技術職)が増加しています。以前本レポートで紹介したことがありますが、衆議院では既に2011年から議事の記録は音声自動入力に変わり、速記の仕事は消滅しました。パソコンの性能向上やインターネットの普及など技術革新が進み、中間的なスキル(定型業務)が減って、低スキルと高スキルに二分化してきています。中スキルの業務は今後も減少しますし、国際分業が進むとすれば、高スキルの給与は各国ともに平準化して行くでしょう。

我が国は、団塊の世代が65歳を超えて労働力が不足する中で、外国人労働者に頼るのか、頼るとすればどのスキルの外国人労働者をどのように入国させていくかが課題になっています。

バブル崩壊により帰国した外国人労働者

さて、我が国は、外国人労働者については、専門的・技術的分野に限って受け入れることを原則としています。過去に一度、専門的・技術的分野にこだわらず労働者を受け入れたことがあります。1990年代のバブル時に、労働力そのものが不足したので、祖父、祖母が日本人であれば、無条件に労働力を受け入れることにしました。受け入れ時は好景気でもあり、企業にとっては大きなメリットがあったので多くの日系人が入国して就職しました。

その後、リーマンショクで不況になると多くの日系人は解雇され、政府の費用で2万2千人の方々が母国に帰国しました。一年間で73億円の国費が投入されました。また、日本に残られた方のために、市町村の財政負担で、各国の語学に対応できる窓口を設置するなど相当の負荷が掛かったことも事実です。これから外国人労働者を受け入れるとすれば、短期的な企業の利益を優先するのではなく、長期的な見通しを立てて計画的に受け入れることが必要です。

買い手市場から売り手市場に

さて、優秀な外国人人材を求めて、各国ともに競い合っていますが、外国人労働者にとっては、円安によって外貨に置き換えた場合の手取りは減少していて、以前ほど日本で働くことのメリットが感じられなくなっていることも事実です。

企業にとってはすぐにでも労働者不足を解消したい。日本での就労を希望する外国の方は稼いだ賃金を本国の家族に送金したい。国としては在留期間を決めて、日本に良い印象を持って母国に帰国してもらいたい。それぞれの願いを叶えることが労働者を受け入れるにあたっての制度設計と思います。

具体的には、①入国前に日本国政府が責任を持って日本語と職業能力試験を課し、一定以上の職業能力を持った方を年限を区切って受け入れる。②労働条件は日本人と同一として、ハローワークでのマッチングを義務とする。③都道府県によって最低賃金が異なるので、ほっておくと東京に集中してしまうため、地域別・職種別に受け入れ枠を設けることを検討する。④外国人労働者にも受け入れ企業にも金銭的負担を求めないことを原則とする。と考えます。しかし、かつてドイツに住んでいた際に、労働力不足で受け入れたトルコ人労働者が大きな社会的問題になったことを思い出すと受け入れに当たっての制度運用はあくまでも慎重にあるべきと考えます。