【国会レポート】中国・深圳の視察(その3) 壮大な国家戦略を掲げる共産党【2018年1号】

今回、巨大な電子商店街や活発なベンチャー企業の創業ぶりを深圳で視察し、中国は目下、資本主義自由経済の道を突き進んでいるように思いました。しかし一方では、指紋や顔認証、電子決済を通じた消費履歴など国民のプライバシーや生活情報を政府が監視・統制する高度な管理社会も実現しつつありました。中国は、自由と統制を両立させようとしているといえます。

民主主義国家で育った日本人としては、はたして自由と統制が両立するのかという疑問が出てきます。2008年9月にリーマン・ショックが発生した後、中国が崩壊するのではないかという議論が日本国内でも巻き起こりました。そんな2010年、私は1人で中国に行って多くの政府関係者や企業関係者と面談したのですが、これで中国は崩壊しないと確信しました。というのも、選挙のない国の為政者のほうがよほど民意に敏感であると直感したのです。すなわち、中国は共産党一党の独裁政権であっても為政者は、13億5000万人の国民の不平不満の解消に細心の注意を払って取り組んでいます。選挙時点の民意がその後も続いていると勘違いしている日本のような民主国家の政治家とは違って、中国の為政者の緊張感というのは極めて強いと感じたのでした。

イノベーションの自由と社会主義の統制

中国ではこの2月に、国会にあたる全人代(全国人民代表大会)で憲法を改正し、従来は連続2期10年だった国家主席の任期を撤廃しました。ですから1期を経た今の習近平体制は、5年ではなくさらに10年から15年は続く可能性があります。

では今の中国はどのような方向に進もうとしているのか。習近平氏の演説ではイノベーションと社会主義が重視されています。言い換えれば、そのような形で自由と統制との両立を図ろうとしているのです。

中国ではこれまで1人っ子政策を続けてきたので、今後は日本と同様に少子高齢化が急速に進んでいきます。それで、これを看過していると国力が衰えてしまうという危機感を中国の為政者も強く持っていて、深圳を中心にイノベーションを起こすという国策を推進すべきと考えているのです(中国による特許の4分の1は深圳から出ている)。

そして、習近平体制の長期化を前提に中国の政治に安定感が出てきたことは、体系的でスケールの大きな戦略にもつながっています。これは今回立ち寄った香港でも感じました。香港では今秋、中国本土とを結ぶ高速鉄道の駅が完成する予定です。日本の新幹線網が2700キロなのに対し、中国の高速鉄道網は2万3000キロにも達しています。時速300~350キロで走る中国の高速鉄道を利用できるようになれば、香港から深圳まで14分(従来の鉄道では40分)、北京まで8時間半(同24時間)で行けるようになるのです。中国の高速鉄道は2020年までに3万キロ、2025年までに3万8000キロへと延長されます。また最近、中国出張でこの高速鉄道を利用した方から、「運行時間は正確で揺れも日本の新幹線より少なく、社内も静かで乗り心地に満足した」と伺いました。

戦略的な「一帯一路」政策の目的

また、アジアとヨーロッパを連結する陸路と海路による巨大な貿易圏を目指すのが中国政府の「一帯一路」政策ですが、この貿易圏は人口44億人で、経済規模ではGDPで20兆ドルを超えるものとなります。特に重要な点は大半が途上国だということです。中国は高速鉄道、道路、発電所、港湾などのインフラ投資を通じてそれらの国々との結び付きを強め、地政学的な優位性の獲得も狙っています。つまり、高速鉄道を伸ばしていけば、これを中心に人や物が集まってきて、自ずとユーラシア大陸の富も中国に集まるのです。

同様に海上輸送についても、紅海入口に位置するジプチ港に海軍基地をおいて運用を開始し、スリランカではハンバントタ港の99年間の運営権を取得しましたし、パキスタンのグワダル港では43年間の用地使用権を取得しています。このように着々と布石を打っているのです。

測位で世界をカバーする中国の北斗衛星

さらに、中国は宇宙でも布石を打っています。私たちが日常的にスマホ等で使っているカーナビの電波はすべてGPS衛星によるものです。しかしアメリカ空軍のシステムであるGPS衛星に依存したくないロシアはグローナス衛星、EUはガリレオ衛星、中国は北斗衛星をそれぞれ打ち上げて独自に位置測位を行おうとしています。日本は年内に4機の準天頂衛星でサービスを開始する予定です。準天頂衛星は、私が閣議決定まで進めて導入を実現したもので、我が国が独自に測位衛星システムを構築することは今後、国の安全保障にも寄与すると考えています。

海外の衛星で最も注目すべきなのは、やはり中国です。年内には17機の北斗を打ち上げる予定で、最終的には2020年までに35機の打ち上げを計画しています。北斗18機でユーラシア大陸を、35機で全世界をカバーするのが狙いです。このように全世界をカバーする独自の測位衛星を持つことで、他国のシステムに依存することなく、中国は、航空機や艦船の展開ができるようになります。

我が道を行く国家とどう共存していくか

最後に、習近平氏の履歴について注目すべき点は、都会ではなく地方での任務が長かった点でしょう。つまり、それだけ民衆の不平不満をよくつかんでいるということです。

深圳の日系企業の現地従業員の給与は月額6万円ですので、10万を超え15万円になるまで、つまり「豊かになりたい衝動」が続く間は、すべての矛盾を乗り越えて発展すると思います。「自由、民主主義、基本的人権、法の支配」など西洋的価値観に囚われない我が道を行く国家とどう共存していくか。それが日本政治にとっても大きな課題です。