【国会レポート】中国・深圳の視察(その1) 情報が統制された未来社会【2017年11号】

1月14日から17日まで3泊4日の日程で中国・深圳を視察しました。年が明けてすぐに海外視察に行ったのは1月22日から通常国会が開かれるからです。国会開会中でも国会の許可を得れば海外視察に行けるのですが、国会日程が最優先ですので、国会開会前に慌ただしく深圳に向かったのでした。

米国のシリコンバレーと深圳が一体化しているといっていいほど深い関わりを持つようになっていると聞いていましたので、この深圳の世界的にも先進的な取り組みの現状をぜひ今のうちに見ておきたかったのです。報道によれば、例えば乗り捨て自由の自転車をスマホで利用できる、現金を使わない決済が行われている、といったことですが、本当にそうなのか、実態をこの目で確かめたいと思ったのでした。

国会議員といっても私の場合、視察は自費です。今回もエコノミークラスの往復航空チケット6万5000円、宿泊したホテルも1泊1万円から1万5000円でしたので、合計費用は3泊4日で10万円ほどでした。

30年間で未来都市へと変貌した深圳

鄧小平氏の号令によって中国の改革開放政策が始まったのは1978年です。その改革開放の特区に指定されたのが深圳にほかなりません。今から30年近く前、サラリーマンだった私は仕事で一度深圳に行っています。深圳は香港から北に30キロほどに位置していて広さは東京都とほぼ同じですが、当時はまだそれほど大きな都市ではなく、日系企業もモノづくりを中心に少しずつ進出を始めていたという状況でした。

ところが今回、行ってみて街の姿が一変していて驚きました。今や高層ビル群が立ち並んでいる深圳の人口は1137万人(2016年)です。街には5車線の道路が整備されていて、道端には手入れの行き届いた花が植えられており、ゴミも落ちていません。雑然とした中国のイメージとはまったく異なる世界がそこに広がっています。

厳しい情報統制によって個人を特定

深圳には香港経由で入りました。1月14日午後、東京から搭乗したキャセイパシフィック航空で香港国際空港に降り立ち、そこから高速フェリーで深圳に向かったのです。深圳ではまず自動指紋検知器での入管手続きを行ったのですが、この検知器で左指全体、右指全体、両親指の順で指紋を取られました。次に入国審査の場所でも両親指の指紋をもう1度取られ、顔認証も行われました。指紋と顔の映像で個人が特定されるわけです(日本の外国人の入管では人差し指2本の指紋を取るだけです)。

海外で入国手続きする際の指紋採取は初めてでした。中国政府に私の指紋と顔の画像が管理されてしまうことについて、正直なところ若干の躊躇はありました。同行した知り合いの中国人によれば、「もともと中国人は党や政府からプライバシーを侵害されているし、それでも自分に非がないなら恐れる必要はない」とのこと。中国は共産主義国家なのでプライバシー情報を国が持つことに対する抵抗感が少ないようです。この点はビックデータを収集・利用しやすいなどネット社会ときわめて相性がいいと思います。

私は今から15年ほど前に台湾でお会いした元総統の李登輝先生から「中国の国民一人ひとりが携帯電話を持つと情報が広がっていくから中国は変わりますよ」と伺ったことを覚えています。私はそれを「携帯電話で情報をやり取りできるようになると不正を隠蔽できなくなるから中国が混乱する」という意味で受け取ったのですが、今の共産党一党独裁の中国はネットも含めて情報革命を呑み込みながら走っていると実感します。同時に、情報統制を厳しくすることで混乱を避けようともしています。例えば、香港ではグーグル、フェイスブック、ラインなどが使えるのに、深圳に1歩入るとそれらはすべてシャットダウンされて使えなくなるのです。

スマホによる電子決済で現金は不要

さて実際、深圳では個人は自転車を持たず、レンタル自転車を使っていました。スマホ上には、どこに自転車があるのかが全部マークで表示されるようになっています。レンタル自転車は付属のQRコードをスマホで読むと鍵が外れて、1時間約20円で乗ることができるのです。しかもどこで乗り捨ててもかまいません。私もそのレンタル自転車に乗ってみました。至るところに自転車が置かれているので便利です。

街での買い物でも、現金を出すと嫌な顔をされます。店の人がお釣りを用意していないのです。スマホで大手通販会社アリババのアリペイや大手IT企業テンセントのウィーチャットペイという電子決済システムを使って品物の代金を電子決済で支払います。もともと人民元の紙幣には偽札が多いので、むしろ電子決済に移行したことを中国国民も歓迎しているようです。中国の人口は日本の10倍ですので、電子決済のシステム開発に巨額な投資をしても、それが回収できるのでしょう。

電子決済では人が介在しない店もありました。テンセントの巨大な本社ビルの近くのスーパーマーケットでは、商品に付いているQRコードをスマホで読み込むと自動的に支払いが終わるので、商品をバックに入れて持ち帰ってもいいのです。この点について、「個人の指紋や顔認証の情報を中国政府が握っているので、たとえ盗んだとしても犯人は防犯カメラなどで特定され得るし、だからこそ、逆に人を介在させない小売も可能となるのではないか」との指摘もありました。

引き続き次の号でも中国についてレポートしますが、中国との関係を再定義する必要性を実感しています。