【国会レポート】目下進行しつつある技術革新はどう政治に影響を及ぼすのか?【2017年10号】

衆議院議員総選挙は解散から告示日、投票日までそれほど日数があるわけではありません。今回も9月28日の解散から10月22日の投票日までわずか25日間でした。総選挙ではいつものように、私が現場主義で地元・日本・世界を取材し、多くの方々との意見交換などで得た現状の課題や今後の解決方法を、選挙広報や選挙期間中の広報物に掲載し、有権者の皆さまに伝えさせて頂きました。

また、総選挙のたびに私の現状認識とそれに基づく政策の再確認も行っています。今回も前回2014年12月の総選挙で私が訴えた内容を再確認したのですが、見直さなくてはならないところはほぼありませんでした。例えば前回の総選挙で配布したレポートの冒頭で「2020年以降には翻訳や通訳、医療診断などの自動化も視野に入ってくるでしょう」と指摘したのですが、現在は3年前よりもむしろAI(人工知能)が大きな話題になっていますので、その点をほとんど見直す必要はなかったのです。

ただ昨年1月25日、圏央道を利用して厚木市にあるNTTの研究所を訪れ、量子コンピューターの研究状況を所長から聞く機会がありました。今年7月には議員会館で、その後1年半の研究開発状況と本分野の世界の動向について改めて説明を受けました。量子コンピューターはスーパーコンピューターをはるかに凌駕する演算スピードを持っています。

6年前に、情報通信を専門とする(総務省審議会委員でもある)教授に「私が生きている間は1960年代に開発された技術の延長上の技術しかないのですか?(インターネットやマウスを使ってパソコンを操作する技術も1960年代に確立された)」と聞いたところ、返ってきたのは「残念ながらその通りです」という答えでした。しかし今、各国が実用化に向けて量子コンピューターの開発にしのぎを削っている現状を見ると、明らかに現在の延長ではない、質的に異なる世界が2020年代には訪れると確信できます。量子コンピューターはAIとも相性が良く、前述したようにスマホで同時通訳も可能となる時代がくると思います。今でもNICT(国立研究開発法人情報通信研究機構)が開発した無料のアプリケーション(VoiceTra)をスマホに入れれば、旅行程度の通訳なら英語・中国語、韓国語での対応が可能なのですが、量子コンピューターはその精度を飛躍的に高めます。同様に1億人を超える人の顔認証も瞬間に行えますし、新薬開発などでも革命的な進歩を生むでしょう。

アイディアがあっても投資しない日本企業

量子コンピューターのアイディアを発案したのは東工大の西森秀稔教授でした。20年前のことです。しかし持続的に資金を募って研究開発を続け、まだ完全に実用化レベルではないものの、世界に先駆けて一定レベルの量子コンピューターを発売したのはカナダのD-Wave社でした。D-Wave社の経営者が日本人の書いた難しい論文に基いて開発を決意し、1999年に会社を設立し、資金を集め続け、完成へと漕ぎ着けたことに心から敬意を表したいと思います。とはいえ、これに投じた開発資金は総額でも150億円程度にすぎません。

日本の大手企業が内部に多くの資金を持っていることはご案内の通りですが、150億円程度なら日本の大手企業にとっては大した負担ではないのですから、やる気があればD-Wave社より先に同レベルの量子コンピューターを発売することもできたはずです。そうならなかったのは、言い換えると、量子コンピューターだけでなく多くの技術分野で日本の大手企業が将来に向けての投資を怠っているからと言わざるを得ません。

この要因の1つには、1990年代のバブル崩壊以降、大手企業の中央研究所の所長が役員会メンバーから外れたことがあるのではないかと考えています。今後改めて、革新を生み出さない企業体質について検証していきます。

オイルショックが日本の技術革新を促進

いずれにせよ、私が科学技術にこだわるのは、技術革新が政治に与える影響が非常に大きいからです。例えば1970年代の2回のオイルショックで原油価格は1バレル(約160リットル)2ドルから34ドルへと17倍に跳ね上がりました。西側諸国では省エネ技術が急速に発展したのに対して、東側諸国はこの技術革新に乗り遅れて経済が落ち込んでいきました。それが結局、1989年のベルリンの壁崩壊と1991年のソ連解体という政治面の大変動を引き起こしたのです。同様に、目下進んでいる量子コンピューターの実用化・汎用化などの技術革新が国際政治の枠組みをも変えようとしています。この技術革新と政治変動との関係がどんな未来を切り開くか、また対応する政策について、今後とも逐次本レポートで提案・報告していきます。