【国会レポート】多国間競争の時代に強く問われる時代を見据えた政治家の力量【2016年3号】

今、ものすごい勢いで進む技術革新のスピードを見据えて、政治が最優先しなければならないのは、2020年以降の科学技術の進歩に社会が対応できるように国のすべての制度を組み替えることだと考えています。

衆議院では2011年から音声認識ソフトを用いた議事録作成システムが導入され、明治23年に我が国に議会が開設されて以来続いてきた速記という非定型的な仕事がなくなってしまいました。先日、板金業を営む方から、「最近、衝突しない自動車の普及で、仕事がなくなっている」と伺いました。昨年、このレポートで、グーグルの「アルファ碁」のことを取り上げました。囲碁の欧州チャンピオンに5戦全勝した小さな記事を読んだとき、AI(人工知能)の進歩の速さに驚くとともに、今年の3月に行われる世界最強棋士イ・セドル氏との勝負を注目しているとレポートしました。その時点ではコンピューターが囲碁の棋士に勝つには、後10年はかかると言われていました。しかし結果は4勝1敗でAI(人工知能)の勝利でした。これは人間の仕事がコンピューターに奪われる時期が予想外に早く来ることを示唆しています。

国民の理解が進まなかった社会保障と税

さて、首相は通常国会閉会後の今年6月1日の記者会見で「消費税率の10%への引き上げを来年4月から2019年10月まで延期すべきと判断した」と述べて消費税率引き上げの再先送りを表明しました。消費増税は4年間延期されることになります。

社会保障と税の一体改革(消費税率の引き上げ)は、当時政権にあった民主党と野党の自民党、公明党の3党で合意した結果、関連法が国会で議決されたのでした。関連法は、高齢化に伴って増大していく年金、医療、介護の費用をどのように賄うかをしっかりと議論したうえで成立したものです。

安保法制に浪費された国会の人的物的資源

私はこの3年半、社会保障と税すなわち給付と負担については各政党で立場は異なっても、国会で議論して国民の理解を深め、政策を安定させて行くことが国会議員の責務と考えていました。ところが3年半、国会は「特定秘密保護法」と「安全保障関連法」の審議に費やされました。

政府与党が国会に提出した法案に対して、野党は官僚機構を使えないので、わずかに衆参の法制局の力を借りながら、議員同士で議論して条文をつくっていきました。政府与党の課題設定は、私たちの考えとは異なるものの、政府与党というピッチャーが投げたボールを真剣に打ち返さなければならなかったからです。言い換えれば、この3年半、特定秘密保護法と安保関連法のために国会の人的物的資源のほとんどが消費されてしまったのでした。もちろん私の時間の大半もそれに向けざるをえなかったのです。

また、安全保障を充実させることの本質は国力の強化にほかなりません。国を強くし、かつ強い経済力を持つことが、外交でも相手国から譲歩を引き出すことにつながります。たとえば1997年の日ロ首脳会談でエリツィン大統領が「領土問題を解決したい」と切り出してきたのも、ロシアが経済的に苦しい時期にあり、我が国がまだ世界第2位の経済規模を誇っていたからでした。とすれば、この3年半も「特定秘密保護法」や「安全保障関連法」の審議よりも成長戦略についての議論を優先するべきだったのです。つまり、政治が取り組むべき課題設定、優先順位が誤っていると思うのです。

技術革新によって国を豊かにしていく

しかも今は参議院選挙の結果を受けて憲法改正が国会のテーマになっています。今回も憲法改正に政治の人的物的資源を投入してしまうと、今後に備える社会保障や技術革新の活用、求められる人材の育成についての議論が進まず、日本は他の先進国に大きく遅れをとると危惧しています。

技術革新の一例ですが、最近、三菱重工業がシンガポールから準天頂衛星(私が与党のときに導入に取り組んで、予算獲得に成功した)を使った高速道路の課金システムを受注しました。これは、高速道路を走る自動車を準天頂衛星が補足して、それぞれの自動車が走った高速道路の長さを自動的に割り出してそれに応じてクレジットカードや銀行預金から高速道路料金を引き落とすというシステムです。これで高速道路の料金所がいらなくなります。

しかしシンガポールの狙いはそれらに留まらず、さらなる総合的な道路交通システムを完成させることにある、と私は思います。準天頂衛星なら自動車の動きを把握できますから、出会い頭の事故もなくなり、各自動車の運行も効率化できるのです。これはシンガポール経済に大きなプラスをもたらすのはもちろん、AI(人工知能)を導入した最新の交通モデルを世界に提示することにもなります。

今のうちから日本もシンガポールのように技術革新を取り入れていけば、2020年代の日本はさらに豊かな国になれるでしょう。逆に今、このチャンスを逃がしてしまうと取り返しがつかないことになります。要するに、多国間競争における国の政治指導者の力量が問われる時代になっているということです。他の先進国から遅れを取らず、逆に差を付けていくためには日本の指導者もその力量を発揮しなければなりません。2020年代に豊かな日本を創るため、科学技術政策、社会保障政策、予算編成などに対案をもって、全力で取り組んでいきます。