【国会レポート】2020年代の日本企業に必要とされる人材とは?【2015年11号】
東京オリンピックが終わった2020年以降の日本および世界がどう変わるのか。これから5年間は2020年代に向けての準備期間であり、以後、日本および世界は質的に変化すると私は確信しています。
その質的な変化をもたらす重要な要素の1つがAI(人工知能)です。ネット検索大手グーグルの傘下企業が開発した「アルファ碁」が欧州チャンピオンのプロ囲碁棋士に5戦全勝したという小さな記事を読んだとき、AIの進歩の速さに驚きました。囲碁はチェスや将棋と比べて桁違いに手の組み合わせが多いため、コンピュータがプロ棋士に勝つにしても少なくとも10年は先になるだろうと見られていました。ところが、「アルファ碁」は、ディープラーニング(深層学習)というAIの革新的な手法を採用したことでプロ棋士に勝てるようになったのです。ただし今回の欧州チャンピオンの実力は世界トップクラスではありません。そこで「アルファ碁」は、3月9日~15日に、世界最強棋士の1人といわれる韓国のイ・セドル氏と賞金100万ドルを懸けてソウルで5回戦を行い、AI(人工知能)が4勝1敗で圧勝しました。
この戦いでAI(人工知能)の真価がはっきりしました。AIは確実に進歩しており、目先の利くグーグルはそこに先行投資をしているわけです。とするなら、2020年代にはそんなに難しい言葉は使わない旅行や仕事であれば通訳や翻訳のAIを搭載したスマホで外国人と会話もできるようになるでしょう。
人間をサポートするAIは通訳、翻訳だけでなく医療診断や工場生産などあらゆる領域に導入されていきますから、AIが前提となった社会での社会保障制度や労働法制の整備が政治の大きな使命になると思います。
言論の自由がイノベーションを生む
グーグルの傘下企業が囲碁のソフトをつくったように、アメリカでは自由な発想に基づく取り組みがどんどん行われています。それがイノベーションにつながるのですが、イノベーションは経済が発展すれば自ずと起こるのではなくその前提には人間の自由な発想を尊重する言論の自由が不可欠なのです。中国なども急速に経済が発展しているのに言論の自由が保障されていないため世界を引っ張るようなイノベーションが起こりません。
戦後の自由な社会のなかで革新的な製品を生み出してきた日本でも最近、その動きが鈍くなっているような気がします。やはり自由な言論を抑える傾向が出てきているからではないでしょうか。たとえば私は日常的に多くのマスコミの記者と接しているのですが、先日、記者たちに「ここ数年、記事の内容をセーブして書いていませんか?」と訊いたら、誰も否定しませんでした。マスコミ自身に言論の自由がないようでは日本の社会全体でも自由な発想が失われていきます。それは結局、人々から独創的な発想を失わせ、ビジネスでのイノベーションも阻害してしまうのです。
したがって日本の将来を考えれば、やはり自由な発想の保障が最も重要と考えます。その点で気になるのが、先日、地元のお母さん方から聞いた話です。今の中学校では進学にあたってはテストの成績よりも内申書が重視されているため、生徒も親も内申書によく書いてもらおうと先生におもねるようになっている面があるそうです。となると生徒から自由な発想が失われてしまいかねません。
学歴よりも何をやりたいのかが大事
ともあれ、内申書重視だろうとテスト重視だろうと、学歴が重視されるのは、良い高校、良い大学に進学できないと良い会社に入れないと思われているからです。しかしこの点でも時代は変わってきました。私の知人の息子さんは中卒ですが、中卒後にプロのPCゲーマーになって世界各地でゲームの試合を行い、その間に英語と中国語が話せるようになったお陰で、ゲーマーを辞めた後、ゲームの専門性を活かして20代の初めに売上高数千億円の世界的なゲームメーカーに就職しました。入社試験は携帯電話による英語での面接で、面接の相手は韓国、上海、オーストラリア、アメリカなどそのゲームメーカーの各支社の責任者でした(合計5回、各1時間の電話面接)。このとき、息子さんが「高校には行っていません」とも言ったところ、面接の相手からは「そんなことは関係ない」という答えが返ってきたといいます。このゲームメーカーは高学歴でもなかなか入社できないそうですが、逆にいえば、学歴以外の特徴が評価されれば入社できるということなのです。
以上の例は、学歴以上に何ができるのかが就職で重要ということを示唆しています。このゲームメーカーだけでなく、グーグルやアップルなどのIT関連企業はすでに学歴よりも自社に貢献できる技能の有無を重視するようになってきています。この傾向はIT関連以外の分野にも広がっていくでしょう。
現場力を維持しマネジメント層を変える
一方、日本の大企業はこれまで出身大学を重視して社員を採用し、入社後はそのまま持ち上がりで経営幹部に登用していくという人事システムを取ってきました。安定成長期では年功序列システムは効率的でしたが、テクノロジーの進歩が急激で競争のルールが日々変化する今日は逆に停滞を招く恐れがあります。もはや持ち上がりの生え抜き経営者で対応できなったことはシャープや東芝の現状にもよく表れているといえるでしょう。
日本のメーカーでは工場の現場は優秀だと世界的にも高く評価されていますが、マネジメント層は世界から遅れを取っていると指摘されています。とすれば現場力を維持しながらも自由な発想ができるマネジメント層の養成が2020年代の日本企業の発展にとって重要です。政治もそれをうまく実現できるように社会制度を変革する努力していかなければなりません。