【国会レポート】不足する産業人材養成こそがインドへの日本の最大の貢献【2015年10号】
国会が閉会中に、往復13万円のエコノミークラスの航空券を購入して、2泊3日の日程でインドの大都市デリーを訪問しました。インドは中国と同様に年率7%もの高い経済成長率を示し、人口は現在12億5000万人ですが、2022年には中国を抜いて世界一になると予想されています。そんなインドの現状を政治家として直接見てみたいと思い、今回初めてインドを訪れたのです。
インドのモディ政権は2014年5月に発足したときから「メーク・イン・インディア=インドで物づくりを」というキャッチフレーズを掲げてビジネス重視の成長路線を推進してきました。それによってGDP(国内総生産)での製造業のシェアを2022年までに現在の16%から25%へと引き上げるとともに1億人の雇用創出も目指しています。
インドの持っている大きなポテンシャル
日本とインドとの経済関係は確実に拡大してはいるものの、両国の経済規模に比べればまだかなり物足りません。
たとえば2014年の日本による対インド直接投資は2193億円にすぎないのですが、同じく対中直接投資の方は1兆円を超えています。インドに進出している日本企業は過去5年で2倍の約1200社になりました。それでも中国に進出している日本企業の3万社にはまだ遠く及びません。しかし物足りないというのはそれだけポテンシャルも大きいということです。
そこで私が真っ先に視察に行ったのが、デリー郊外のニムラナ工業団地で、ここには46社の日本企業が進出しています。私は、自動車などの部品をつくっているプラスチック加工会社と、自動車のゴム部材をつくっている会社を訪問しました。従業員はプラスチック加工会社が230人、ゴム部品会社が750人です。私が何より驚いたのは、両社ともに工場内がピカピカでゴミ1つ落ちていなかったことでした。日本国内の工場よりもきれいだったといっていいでしょう。
インドは人間と動物とが共存して生活しているようなところですから、街の様子も雑然、混沌としています。ところが、両社の工場内はそれとは対照的に見事に整理整頓されていました。両社ともにインドで「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「躾」の頭文字から取った「5S」の活動が徹底されています。インドには職能による身分差別的なカーストという制度がありますが、掃除をするのはこのカーストの枠外、つまりアウト・カーストとかアンタッチャブル(不可触民)と呼ばれる人々の仕事なのです。ですから本来、アウト・カーストではないインド人の従業員は掃除をしないのですが、この両社では、工場での仕事に「5S」が不可欠であり、かつ仕事とカーストは関係ないとして、インド人の従業員には皆、掃除をさせています。そのため、就職希望者には「社内では身分制度がないと認めること」を採用条件として伝えているそうです。
停電が多いなかで綱渡りの操業が続く
インドでは英語は準公用語ですので、英語のできないインド人もいるのですが、両社では英語ができることも採用条件にしています。給料は一般の従業員が月3万円、中間管理職の係長・課長クラスが月8万円で、役員の日本人に直属するゼネラル・マネージャーは年棒500万円~600万円です。
インドでの工場操業は電力のインフラが十分に整備されていないため楽とはいえません。1日に3~5回は数分から数十分の停電が起こります。停電で工場のラインを止めるわけにはいかないので、両社とも停電になると自家発電機を動かして停電が終わるまで何とか凌いでいるという状況です(それでも両社とも利益を出しています)。
そんなまさに綱渡りの工場操業なのにインドから撤退しないのはなぜか。答えは「インドの巨大マーケットのなかで一定のシェアを取っておかないと、世界でのシェアも落ちてしまうから」ということでした。
工業高校を設立して産業人材を育成する
電力インフラのほかにもう1つ、インドで不足しているのが産業人材です。今は、金型をつくる人材などのインド人技術者を社内で養成していますが、難点はやはり1人前に育つまでには時間がかかること。ですから、ある程度熟練した技術を持つ人材を外部から連れてこられる環境がインドにできていれば、日本企業だけでなくインドで活動するすべての企業の発展に寄与することになります。
そこで日本政府がインドの主要都市に直接、工業高校(や高等専門学校)を設立するのはどうでしょうか。従来の地下鉄や発電所などのインフラ整備だけでなく、産業人材の養成も日本ならではのインドへの貢献と考えます。
日本政府が設立した工業高校(専門校)で教えるのは、5Sをはじめとした日本の物づくりの考え方や具体的な技術です。いわば日本方式の産業人材養成であり、この工業高校で3年間、インド人の生徒にみっちりと勉強してもらえば、インドのどの会社の工場でもきちんと働ける人材になれるでしょう。しかもそれは日本方式を身に付けた産業人材ですから、日本の物づくりの思想をインドに広められるということでもあります。もちろん日本方式の産業人材なら日本企業だけでなくどの国の企業でも通用するでしょう。講師には日本から職業訓練校の専門家や日本企業の現役・OBの社員の方を派遣することや、設立から5~10年経ったらその運営をインド人に引き継いでゆくことが考えられます。インドの発展がインフラ整備から次の段階に移りつつあるという点からも、日本の国際貢献では人材育成が効果的と思います。