【国会レポート】災害対応と成長戦略で計画通りに進む準天頂衛星【2015年12号】

熊本地震で被災されました皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。

私たちが暮らす日本列島は、どこで震災が起きても不思議ではありません。特に、東日本大震災後、首都圏直下型地震や東海・東南海・南海での地震のリスクが高くなっています。

2011年3月11日、東日本大震災が発生した直後、私もそうでしたが、多くの方々が家族や知人の安否を確認するために携帯電話をかけてもつながりませんでした。発災後、内閣官房宇宙戦略本部の幹部から「準天頂衛星に大きなアンテナをつければ携帯電話の電波が宇宙に届く」と説明を受けたとき、準天頂衛星を具体化(予算化)できると直感したのです。

そこで、携帯電話と衛星を直接結んでの安否確認システム、衛星から直接私たちの携帯電話に津波情報を発信するシステムを考案し、総事業費2000億円のプロジェクトの実現に向けて全力を尽くしました。

「大島委員が宇宙政策担当副大臣のときに準天頂衛星導入で大変汗をかかれたことは私もよく存じ上げております」というのが2013年5月16日、私の質問に対しての内閣府担当大臣の答弁です。現政府の成長戦略である宇宙産業の中核こそ、まさに私が着手し閣議決定で政府方針となった準天頂衛星システムにほかなりません。2020年のオリンピックまでには4機の衛星が打ち上げられ、運用が始まるわけですが、これによって安否確認や防災情報の発信だけでなく、アメリカ空軍のGPS衛星よりも高精度の衛星測位サービスを提供できます。GPS衛星の電波を使って日本企業がカーナビゲーションを開発したように、今、国内外で準天頂衛星システムを使った新しいビジネスが生まれつつあります。今回のレポートでは、その現状についてお知らせしましょう。

世界的にきわめて高い測位精度を保有

準天頂衛星とは「日本の上空の天頂付近につねに1機の衛星が位置するように軌道上に複数の衛星を配置して利用する衛星システム」です。日本の天頂に衛星がつねに存在すれば、山やビル等に影響されずに全国を100%カバーして高精度の衛星測位サービスを提供できます。

世界の測位衛星としては、米国のGPS衛星、ロシアのGLONASS衛星、ヨーロッパのガリレオ衛星、中国の北斗衛星、インドのIRNSS衛星が稼働しています。このうち日本人もよく知っているのがGPSですが、地上を測定する精度は約10メートルです。ところが、準天頂衛星は、わずか数センチというきわめて高い測位精度を誇っています。

防災面でも生活面でも活用の幅が大きく広がっていく

災害対応では、たとえば地震によって起こった津波の高さと速度を沖合に設置したいくつものブイ(潮位計)で捕捉し、その情報を準天頂衛星に送ると、今度は逆に衛星から「何分後に何メートルの津波が到達する」と、地域ごとに情報を個人の携帯電話に一斉にメールで知らせることができます。また災害時の安否情報では、個人の携帯電話の電波を各地の地上基地で収集し、それを準天頂衛星に送ることによって各個人がどの場所にいるかも確認できるようになります。

準天頂衛星の測位精度はきわめて高いので、様々な活用が可能です。例えば、私たちのスマートフォンの位置情報も、地図上に立っているその場所が表示されますので、初めて日本を訪れた外国の方も迷うことなく行動できるようにと多言語対応のアプリの開発が進められています。

そして、準天頂衛星を使って無人飛行機を飛ばして、離島に物資を運ぶ実証実験はすでに行われています。この他、高速道路料金の課金への応用です。準天頂衛星ですと走行している自動車が高速道路のどの区間を走ったかを把握できますから、その情報でクレジットカードなどから自動的に料金を引き落とすことができるようになります。

また、農業でも利用度が高く、準天頂衛星からの電波で自動制御する無人トラクターや無人コンバインによって耕運、種まき、収穫などを24時間ずっと行えることはすでに実証済です。このことは、田植えや稲刈りなど農作業は短期間に集中しますので、機械の稼働率が上がることになります。

世界中も関心を持つ準天頂衛星の活用

準天頂衛星の衛星測位サービスは、東アジア全域およびオセアニアまでカバーしますので、今、オーストラリア政府が日本政府に、鉱山でのトラック走行の自動化や農業でのトラクター運行の自動化を準天頂衛星によって行いたい、という意向を伝えてきています。

これ以外にもアジアの国々が災害対策およびビジネス面から準天頂衛星の活用に関心を示しているのですが、我が国の強味は戦後これまで一貫して平和主義を貫いてきたことです。つまり、中国から測位衛星の使用を勧められても、アジア諸国には軍事的に利用されるのではないかという警戒心があります。その点、日本については軍事的利用をしないという安心感を持っていますから、アジアの発展のためにむしろ日本政府も、積極的に準天頂衛星の共同利用を呼びかけていく必要があります。

米国のGPS衛星は、米国が有事の際には、日本では自衛隊しか利用できません。つまり、私たちのカーナビゲーションも、消防も、警察も、海上保安庁も使えなくなります。GPS衛星もインターネットも元々は米国の軍事技術です。準天頂衛星は日本独自のシステムなので、365日、24時間、私たちはいつでもそのサービスを享受できます。私は、準天頂衛星のように、我が国が世界各国が利用できる社会インフラを整備することは、世界への貢献ですし、我が国の安全保障にも資すると考え、取り組んでいます。