【国会レポート】情報と人が世界を駆け巡る時代にテロの脅威から国を守る方法とは【2015年9号】
フランスの首都パリでIS(イスラム国)による同時テロが発生し、痛ましいことに130名を超える犠牲者が出てしまいました。テロによって先進国の都市でこれほど多くの死者が出たのは2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ以来ということになります。しかもどちらのテロも、国家同士の戦争である対称戦ではなく、国家対武装集団(テロ集団)の戦いである非対称戦のために生じたものです。
今やインターネットによって情報が世界中を瞬時に駆け巡るようになりました。人類にとってこのインターネットのプラス面は大きいのですが、一方、マイナス面はアメリカやフランスでの同時テロのように武装集団が遠隔地においてもテロを起こすことが可能になってしまったということです。
もう一つ、今は世界中で人の行き来が激しくなっています。UNWTO(国連世界観光機関)が2015年1月に発表した「世界観光指標」によると2014年の全世界の海外旅行者数は過去最高の11億3800万人で、2015年は11億8000万人を超えると予想されています。
1995年には5億2700万人でしたから20年間で世界の旅行者の行き来は倍以上になったのです。加えて移民や難民の数も増えています。人の移動が増えるのは国際交流が盛んになるという意味ではプラスですが、同じくテロリストの移動も簡単になってきている点には留意しなければなりません。
ロングテールによってテロリストを募集
要するに、世界中を多くの情報および人が動くようになってきたのに比例して武装集団の動きも活発になってきたのでした。そのうえ「ロングテール」という機能を持つインターネットは武装集団によるテロリストのリクルートも容易にしています。ロングテールとは、通信販売でいえば、需要が少なくてあまり売れなかった商品でもインターネットで世界中の消費者に告知することによって利益を得られるだけの販売量が期待できる、ということです。たとえば人口10万人程度の地域では1個か2個しか売れない商品でも、インターネットで世界中に告知すれば1000個や1万個売れるようになるかもしれません。
テロリストのリクルートも同様で武装集団がインターネット使って世界中に告知すれば何十人、何百人も集まってくる可能性があり、また現実にISなどはそのようにして一定数のテロリストを確保しているようです。
ともあれ、以上の要素が重なってそれが悲惨な形で表れてしまったのが今回のフランスでの同時テロといえるでしょう。しかもフランスはEU(欧州連合)とユーロに加盟しています。そのためEU内では1つの国と同じように人と物の行き来は自由になっていますし、ユーロであればさらに資金も自由に移動しているのです。ですからテロリストもいったんEUに入れば、その後はEU内で自由に活動できます。それにEU内部の警備体制が追い付いていないために今回のフランスでの同時テロも防げなかったのでした。
水際でテロを阻止できるのが我が国の利点
では、我が国の場合はどうでしょうか。テロ防止では四方を海に囲まれているのでテロリストを水際で排除できるという利点があります。しかし、訪日外国人数は今年、2000万人近くまで伸びると予想されるほど急激に増えてきています。それに対応する通関や入国管理の要員が足りなくなってきていますので、保安・安全という観点から予算を増額することも必要です。
水際でテロリストを止める点では海上保安庁の人員と設備を強化することも欠かせません。海上保安庁は目下、尖閣諸島を含めて広範囲な領域をパトロールしています。11月に沖縄空港に隣接する海上保安庁の航空部隊を視察したのですが、その人員はパイロットだけでなくヘリコプターやジェット機のメンテナンス要員を含めてもわずか100名程度しかおりません。この100名が365日24時間警戒にあたっています。この少ない人員で広い海域を守り続けるのは大変です。水際でテロリストを止める点では海上保安庁の人員と設備を強化することも欠かせません。
また先日、インターネットのベンチャー企業を訪れました。そこは、インターネットのオープンデータや行政機関の持つクローズドデータを収集・分析することで顧客企業についての風評被害、情報漏洩、不祥事などを検知・解析し、その顧客企業に結果を報告するというサービスを行っています。この検知・解析するプログラムがそのベンチャー企業の付加価値なのです。一方、警察庁でも同様にインターネット上に流れるテロ情報の解析部門を内部に設立し運用を始めることになっています。しかしこのような警察内部での取り組みだけでなく、紹介したようなベンチャー企業等の民間の知恵も十分に活用してテロ対策の網の目を細くすることが、テロ防止のために一段と大きな効果をもたらすと考えます。
人工知能の顔認識をテロ防止に活かす
以前、AI(人工知能)の画像認識を取り上げましたが、すでにこの技術による顔認識の精度は人間を超えるようになっています。近い将来、判明しているテロリストの顔をあらかじめAIに記憶させておけば、街頭や店頭の監視カメラに映った顔からAIが自動的にテロリストを識別できる時代が来るでしょう。おそらく2020年代には実現するでしょう、それはテロリストの逮捕を容易にするなどテロ防止に大きな威力を発揮します。今回のフランスでの同時テロの犯人も警察当局は事前に知っていたのですから、AIの顔認識システムがあれば、同時テロを未然に防げたに違いありません。
ただし顔認識システムの精度が高いと、監視カメラによって誰がどう動いたかもわかります。となると今度は個人のプライバシー保護が問題になります。その場合、国民のプライバシーを保護した上で、国民の安全をどう確保するかの議論を深めなければなりません。同じ政権が続くと管理社会も強化されることになりますので、個人のプライバシー保護を考えるなら、やはり政権交代可能な政治が不可欠となります。