【国会レポート】自衛隊員の命にも関わる「恒久法」と「特措法」の違い【2015年6号】

皆さんは「恒久法」と「特措法(特別措置法)」の違いについてご存知でしょうか。「恒久法」とは効力の続く期間を限定しない法律です。これに対して「特措法」は効力のある期間を限った法律であり、時限立法という言い方もなされます。

すなわち「恒久法」の場合、一度制定すれば途中で中身を改正したり廃止したりしない限り効力がずっと続くのです。たとえば現在の民法は1896年(明治29年)に制定されて以来、一部を除いては改正されませんでした。けれども、現在の社会生活は120年前とは大きく変わっています。当然ながら同じ民法のままでは社会生活に支障が出る場面が増えてきました。そのため、今年3月31日に民法の抜本改正案が閣議決定され、約120年ぶりに内容が大きく変わることになります。

その点、「特措法」は期間限定ですから、1年、3年、5年といった期間が過ぎると効力が失われます。限定された政治課題に対応する法律とも言えます。

「恒久法」である国際平和支援法への懸念

これまでは自衛隊を海外に派遣するために、その都度、期限を定めたテロ特措法やイラク特措法で対応してきましたが、今回の安保法制では、いつでも自衛隊を海外に派遣できるように「国際平和支援法」という「恒久法」が提出されています。この法律は、国連憲章の目的に従って、我が国が国際社会の一員として、主体的かつ積極的に寄与する必要がある場合に、諸外国の軍隊等に対し後方支援を行うことを目的としています。法案では自衛隊が行う後方支援として、外国軍隊等に対する物品・役務の提供、外国軍隊等が行った戦闘行為で遭難した戦闘参加者の捜索・救助、船舶検査活動が挙げられています。

この場合、自衛隊派遣の前提条件として国連総会や安全保障理事会での国連決議が必要です。しかし、実は国連の決議にも、1990年にイラクがクエートに侵攻した湾岸戦争の際に加盟国が武力行使をする根拠となった強い決議から、2001年9月11日の米国同時多発テロに関する決議のように、国際社会に対してテロ行為を防止するために一層の努力を求めるという縛りの強くない決議まで、その内容は多岐にわたります。したがって、国連決議に基づいて、国際平和支援法を根拠として自衛隊を他国の軍隊の後方支援に当たらせるとしても、国連決議の幅が広いために、具体的にどのような場合に我が国が諸外国の軍隊に対して支援活動を実施するのか、明確ではありません。

「恒久法」では国民の納得感が高まらない

初めて自衛隊の海外派遣を定めた法律は1992年に成立した「恒久法」であるPKO(国連平和維持活動)協力法ですが、国連の統括の下に行われる活動に自衛隊が参加するものでした。その後、国連の決議に基づき国際平和に貢献しようとする有志連合国による自主的な活動の領域が生じ、我が国も米国との関係で協力する必要が出てきました。

2001年9月11日の米国同時多発テロを受けて、米国をはじめ外国軍隊等の後方支援のために制定されたのがテロ対策特措法です。次には2003年3月のイラク戦争を受けて、イラク人道復興支援特措法が制定されました。これで自衛隊はイラクのサマワに派遣されたのです。また、インド洋で米国艦船に自衛隊が給油活動を行う海上活動のために補給支援特措法も制定されました。

いずれも当時の国際情勢に鑑みながら国会で議論をして成立した「特措法」でした。法案への各党の賛否はともかく、法案の検討と国民的な理解を得る努力がなされたのです。その結果、国民に自衛隊派遣への納得感が醸成されたのではないでしょうか。言い換えれば、特措法では、なぜ法案を提出するかのそもそも論、つまり具体的な国際情勢や自衛隊を派遣する必要性から審議が始まり、様々な論点から議論が積み重ねられ、その過程で国民の理解が深まります。

ところが、今回、政府が提出した「恒久法」である国際平和支援法では、国会で十分な議論が尽くされないで、派遣の可否が採決される恐れがあるのです。国際平和支援法により自衛隊を海外に派遣する場合、日本政府はまず、自衛隊の派遣について国会に承認を求めます。承認を求められたら衆議院と参議院はそれぞれ7日以内に議決をするように努力しなければならないと同法案に明記されています。つまり衆参両院合わせて14日(2週間)以内に議決するということです。努力義務なので必ずしも14日以内でなくてもいいものの、それにしても納得のいくまで議論できる時間は取れません。

十分な議論のない自衛隊派遣は危険だ

また、これまでの特措法では、派遣期間中を通じて戦闘が行われることがないと認められる地域を「非戦闘区域」として活動領域を定めていました。戦闘が現に行われている地域からは相当後方の地域で活動していました。

一方、今回の国際平和支援法では、現に戦闘行為が行われていなければ、そこに自衛隊を派遣できることになります。つまり、今この瞬間に戦闘が起きていなくても、次の瞬間に戦闘状態に陥る危険がある地域に派兵できるようになりますので、自衛隊員のリスクは格段に高まります。

そして、これまでの自衛隊の海外派遣は米国の要請によるものがほとんどでした。米国は、自由と民主主義を世界に広めようと崇高な理想のために邁進する国です。しかし、大統領選挙で政権交代が起きると、官僚機構も総入れ替えになりますので、政策の振れ幅が大きいのも確かです。私は、これまで通り、米国の要請をいったん受け止めてから、その都度、特措法を新たに制定して自衛隊を海外に派遣することが日本外交のあるべき姿と考えます。