日本発産業革命は起こせるか。 未来は早く訪れる。
敬愛する皆さま、
私は、国立や民間の研究所を訪れ、量子、生命科学、天文学、半導体、通信、防災、地質、防衛、原子力、航空宇宙、核融合、物質・材料、建設・土木、農業、人工知能など、あらゆる領域の研究者と会話を重ねてきました。
今年(2025年)の1月も世界で最先端の量子コンピューターを研究している研究所を訪れましたが、高騰する電気代を捻出するために、暖房を落としており、室内は大変寒かったのが印象的でした。このままでは、「0(ゼロ)から1(イチ)を生み出す力」、すなわち、まだ世の中にない価値を創造して機能させる力が、日本から消滅してしまいます。私たち政治家の使命は、国民の持つ力を引き出すことです。
「日本発産業革命は起こせるか」――その思いでまとめました。ご一読いただければ幸いです。
衆議院議員 大島 敦
日本発産業革命は起こせるか。 未来は早く訪れる。
私は、2023年1月にChatGPTに質問を放り込んだとき、1994年7月に幕張メッセで行われた日本で初めてのインターネット見本市を見たときと同じ衝撃を受けました。「これで世界は変わる」と。
2025年1月、人工知能学者からは「私たちはしばしば予測を外す。5年先、10年先にできると考えていたことが、数か月後には実現してしまう」と、さらに「人の寿命は150歳まで延びる」(2024年11月、Anthropic社 CEOダリオ・アモデイ氏のエッセイに同様の記述あり)との話を聞きました。
私たちは、産業革命が始まろうとしている転換期に立っています。これからは、システムが多くの仕事を代替・補完し、人ならではの価値が問われる仕事が残ります。2030年までには、自動運転はどんな悪路でも可能になり、『ブラック・ジャック』が海外にいても遠隔で診察、診断、手術ができるようになるでしょう。看護師や介護士の「申し送り」もシステムで補完できます。量子コンピューターの計算資源を手にすれば、進歩の速度はさらに加速します。人にとって心地よい社会とは何か――それを考えたいと思います。
また、ビジネスソフトがMicrosoft Officeに集約されたように、自動運転ソフトも数社に集約されるでしょう。だからこそ、富や情報が独占されないよう、社会をそう設計することを前提とします。この変化にどう応えるか――それが政治の役割だと思います。
2050年には我が国の人口は1億人になります。2030年代には南海トラフ、首都直下地震、富士山の噴火の恐れも報じられています。これらを乗り越え、年間所定労働時間を1,850時間から1,600時間へ、通勤時間も週5時間以内へ――そんな国のあり方を構想したいと思います。
(参考)
まだインターネットはなく、モデムを使ってのパソコン通信の時代でした。私は、今でもPXKで始まるニフティーサーブのアドレスを持っています。1993年、管理職になったばかりで、製鉄所の私の係で一人一台マッキントッシュを配布したところ、優秀な若手社員がアップルトークでマックをつないで、私たちのチームは、チャットで会話しながら、エクセルのマクロを使って業務改善提案をしていました。
生成AIの登場は、私が当時読んでいたハワード・ラインゴールド『思考のための道具』に描かれていた、ダグラス・エンゲルバートの「人間の知性(知的機能)の拡張」と、アラン・ケイの「いつでもどこでも知にアクセスできるダイナブック」という構想が、いよいよ現実になった――すなわちPC(コンピューター)が本当に「思考のための道具」になったと実感したのでした。
提言1 AIの活用を促進していく
1-1 優位性のある我が国の情報を駆使する
情報は、土地・労働・資本に並ぶ「第4の生産要素」である。これまでの情報の蓄積こそが、日本の力になる。
我が国には戦前から蓄積されてきた膨大なデータがあり、しかも日本語で管理されているため、国外に対して言語面でも競争優位を有している。日本企業や国の研究機関が保有する知的財産(知財)は、特許や商標など法的に保護される「形式知」に加え、社内に蓄積された研究データ、ノウハウ、製造・すり合わせ技術、熟練技術者の経験や勘といった「暗黙知」まで多岐にわたる。これらに加え、国民皆保険制度の下で蓄積された医療データも含め、こうした情報群こそが我が国の数少ない競争力の源泉である。
1-2 AIに投入するためのデータを標準化する
AIに学習をさせるためには、データの形式(画像・テキスト・センサーデータなど)を整理し、標準的なフォーマットで蓄積する必要がある。企業ごとに異なる製造方法やすり合わせ技術、さらには国の研究所や民間企業が保持する研究データベースを、AIが学習可能な形へとデータ形式化する取り組みは急務である。これらを整備するプロジェクトを推進することで、AIの本格的な活用基盤の構築が可能となる。
熟練した現場技術者が長年の経験で身につけた感覚や勘などの暗黙知は数値や文字に落とし込みにくい。しかし例えば、AR(Augmented Reality)/VR(Virtual Reality)技術で現場の作業を再現し、IoTセンサーで動作や温度、振動などの環境データを数値として記録し、自然言語処理で口頭の指示や独り言を解析することで、こうした暗黙知を少しずつ「見える化」し、体系的に記録し共有していくことは可能であろう。日本産業の暗黙知を形式知に置き換えることは、いつでもどこでも熟練の技を再現できることになり、ものづくりのあらゆる分野での応用が可能となる。造船業の特殊溶接などあらゆる非定型的な作業も自動化できるだろう。
AIを活用し、これらの情報をすべて連関させて大規模言語モデル(文章を理解し生成するAI)を深層強化学習(試行錯誤で自ら上達する学習法)で鍛え上げられれば、2016年にAlphaGoが世界チャンピオン李世乭(イ・セドル)九段を破ったときのようなブレークスルーを、日本の産業でも実現できる(AIの進展により新たな選択肢が生まれる可能性もある)。
日本語にもこだわりたい。日本語ベースのAIをつくることも我が国の優位性をさらに高めていくからである。
1-3 AIを量子コンピューターで運用する
当面は、大量のデータを扱うAIを本格的に運用するには、GPUや量子コンピューターなどの最先端計算資源も必須だ。国主導でスーパーコンピューターや量子計算環境の整備を進め、大学・研究所・企業が共同で使える基盤を構築していく。
そして、さらなる飛躍のために、2030年までに100万量子ビット級という野心的目標の量子コンピューターの実用化を目指したい。AIを活用して産業界・医療機関・国立研究所などが保有するあらゆる情報を連携させることを目指す。そのことで、生命科学や核融合発電の実用化に向けた技術課題の克服など、飛躍的な進展も期待できる。
光電融合技術を用いた通信ネットワークは、従来のインターネットと比べて遅延がほとんど発生しない。情報を圧縮せずに送信できるため、見えない波長の光や聞こえない周波数の音まで伝送でき、遠隔診断や遠隔手術を、医師と患者が同じ空間にいるかのような臨場感で行える。オフィスでの仕事も同じだ。オーケストラの各奏者が自宅にいながら、指揮者がカメラ越しにタクトを振る演奏会さえ可能になるだろう。インターネットが新たなビジネスを生み出したように、光電融合技術によって、知のネットワークを構築できれば、かつてないイノベーションが喚起される。
さらに、AI、量子コンピューター、そして光電融合通信インフラが緊密に連携する時代が到来すれば、国民・企業・政府のすべてがこの基盤を活用し、それぞれの持っている力を発揮できるだろう。
(参考)
「私は、1995年(正しくは1994年)からずっとインターネットを使っていまして、どうして私の一生がこの1960年代の技術で終わらなければならないのかとずっと研究者に聞いてきました。1960年代、米国の国防総省が開発したこの技術で、その次がないのかと。NTTの方に聞いたところ、『大島さん、こういう技術がある』と、2021年の春先に聞いたのが光電融合なのです。これは日本の産業基盤を変える技術だと思っています。産業基盤を変えます。これは全然違います。つまり、遠隔での手術ができたり、あるいは工場の例えば圧延ラインのオペレーションの作業を自宅でできたり、もう日本の産業そのものが変わるというのがこの技術でして、是非、この光電融合技術、これはシームレスに、時間の遅れがなく、そして情報を圧縮することなく送れて、これで日本の産業基盤を、2020年代後半から2030年代に実装できたとしたら、私たちの国の在り方そのものが変わると思います。」(2022年2月7日 予算委員会)
1-4 中国にはその強みと弱みをきちんと認識して対処していく
中国の人工知能企業DeepSeekは、生成AIモデルのソースコードを一部オープンソースで公開している。一部とはいえ、これまで聞かなかったことだ。DeepSeekの創業者(CEO)梁文鋒(Liang Wenfeng)は、インタビューに答えてこう述べている(2024年7月18日)。
「クローズドコードによってつくられる障壁は一時的なものだ。オープンソースと論文の公開で実際には何も失うものはない。技術者にとってフォローされることは非常に満足のいくことであり、実際、オープンソースは商業的というよりも文化的な行動だ。与えることは追加の名誉で、このような企業は文化的な魅力も持っている。」
ChatGPT、Gemini、DeepSeekなどの生成AIは、それぞれの設計思想/ソースコード(プログラムの設計図)やソースコードに基づくエンジン(AIの中核部分)は異なり、集めた情報から推論して答えを導き出す。したがって分野によって得意や不得意がある。私の知人のコンサルタントも、複数の生成AIを使い分けて業務を進めている。
どのような答えを導き出すかは、サービス提供者側のチューニング(調整)に委ねられる。つまり、エンジンの優秀さとどんな答えを導き出すかのチューニングは分けて考えた方がよい。F1に例えるなら、設計思想としてのソースコードにもとづきエンジンが作られ、レース環境(コースや天候)に合わせて調整・最適化される、という理解が分かりやすい。
中国発のDeepSeekについては、2025年1月に私の知人である人工知能研究者が論文を読み、「イケてる」と評価したように、研究報告の上では高効率かつ競争力が示されている。他方で、主権や歴史など機微なテーマに関しては、中国側に有利な回答バイアスが指摘されている。したがって、ソースコードに基づいて具体化されたエンジン(基盤実装)の性能評価と、運用上のチューニング(使い勝手・応答方針)は切り分けて評価するのが望ましい。
2025年10月、大手製薬会社の研究所で、AIを用いた新薬開発について話を聞いた。公開論文を読み、その考え方(ソースコード)を同社のAIに取り入れながら開発を進めているという。AIの学習に用いるデータは、同社が保有する社内データだ。今後は、AIに関する最新の研究成果を継続的に取り込み、活用していくことが競争力を保つことにつながると理解した。F1の世界で、ターボチャージャーなどの部品を改良して性能を高めるのと同様に、AIのエンジンも構成要素を改良・更新することで進化していると理解すると分かりやすい。
ソースコード(プログラムの設計図)を公開すると、使いやすくなり、ほかのソフトともつながりやすくなって、開発のスピードも上がる。だから、その分野で主導権を取りやすくなると考える。ただし、公開するだけでは十分ではない。データ量、計算する力(サーバーや半導体など)、人材、そしてルールの決め方(ガバナンス)がそろって、はじめて強さを保てる。最近のアメリカでは、短期の利益や安全保障を理由に、いくつかの分野で非公開にする流れが見られる。一方で、オープンな動きも依然として強い。中国も、分野によっては公開をうまく使っているが、すべてが開かれているわけではないとの指摘もある。ですから重要なのは、「どの部分を公開し、どの部分を非公開にするか」をだれが上手に設計し、国際的な標準づくりをどこで主導できるかという点だと思う。この設計に成功した者が、最終的に主導権を握るだろう(これは一つの仮説です)。
2025年1月に蘇州を訪問し、日産自動車が運営する自動運転タクシーに試乗した。車に搭載されたセンサーが道路状況を把握し、右折や左折もスムーズかつ安定している。日産自動車の責任者に伺ったところ、自動運転タクシーは事故を起こすことがなく、人が運転するよりも安全だと話していた。同社は中国のソフトウェア会社と提携し、開発を進めている。
2025年8月に北京で、Alphabet傘下のWaymo(ウェイモ)をスピンアウトして、自動運転のソフトウェアを開発している会社を訪問した。同社は、既に75万台を自動運転のレベル2++で走らせていて、そのセンサーデータを日々入手しながら開発している。そのデータ量は圧倒的だ。中国では、自動運転の開発は見えてきたので、研究者がロボット開発に移ったとも聞く。
14億人の人口規模は多くの優れた研究者を生み出せるし、潤沢な資金を投入できるということも中国の強みだ。だから物量でいける研究開発は伸びていく。
しかし、技術をすり合わせたり調整したりする力は、とくに半導体材料や装置・高精度工作機械のように精密に調整し統合する能力が問われる領域では、日本企業の優位が続いている。中国は、言論や学問の自由には制度的制約が指摘されており、自由闊達な議論の風土には限界があるとの評価がある。これは中長期には中国の科学技術・イノベーションの足を引っ張ることになるとも考えられる。
(参考)
宿泊先のホテルには、習近平氏の分厚い著作が5冊も置かれていました(2025年8月)。中国共産党の幹部に読んだことがあるかを尋ねたところ、幹部になると2ヶ月にわたり缶詰めで読み、討論すると伺いました。試験があるのかと聞くとあるとの答えでした。思想教育が徹底されています。また、選挙によって国家指導者が選ばれることはなく、官僚機構から選出されるので、周りに気をつかい、上司を忖度しながら細心の注意を払う必要があります。中国は巨大なるサラリーマン国家で、様々な発言には自己保身が前提としてあると理解するとわかりやすいと思います。私たちの社会のあり方とは根本的に異なります。したがって、イノベーションに必要とされる自由闊達な議論の風土が、社会に根付いていないと指摘されています。
いずれにせよ我が国としては、そうした強みと弱みをきちんと認識して中国に対処していかなければならない。
1-5 「Human with AI」という日本の感性を活かしていく
欧米は「AI vs Human」の国だ。ターミネーターのような恐ろしいロボットが攻めてくるという発想が欧米人の思考の根底にある。一方、日本は「Human with AI」という感性の国であり、日本人はAIという人間以外の知能も身近で自分を助けてくれるという文化圏で育っているのだ。
それで日本の生産現場では、人間同様の名前を付けたロボットを稼働させているのだろう。これは鉄腕アトム以来の文化とも言える。こうした日本の文化を大事にしていくことが、我が国としてもAIやITとの共生において不可欠だ。
今後、AIもコモディティ化・小型化・オープン化が進んでいき、自分のスマホに自分だけのAIが入る時代もやって来る。それを幸せな時代にするにも、やはり「Human with AI」という感性を活かしていくことが大切なのである。
1-6 AI活用人材を拡充していく
2015年8月25日、人工知能学者の松尾豊先生を民主党にお招きし、深層学習(ディープラーニング)についてお話を伺った。私は、赤ちゃんは生まれた直後、像は見えていても意味づけはできず、やがて母親の顔を認識できるようになる、その過程をプログラムで実現した技術だと理解した。工場の生産ラインや検査工程に組み込めば、生産性は飛躍的に向上すると直感した。もっとも、当時の民間企業の反応は鈍かったと思う。
AI活用人材とは、AIを活用して企業の効率化を図れる人たちのことである。AI分野の研究者たちは、工業高校や高等専門学校(高専)にはとてもいい人材がいると高く評価している。そういう人材とAIが結びつけば企業は効率化して生産性もこれまでにも増して上がっていく。
日本でAI活用人材が不足している背景には、工業高校と高等専門学校が注目されていないことも大きな要因となっている。工業高校や高等専門学校の拡充・発展を支援し、AI人材の育成を加速させていく必要がある。
また、製薬会社の経営者から、生命科学(バイオ)に特化した高等専門学校(高専)の設置を望む声を伺った(2025年8月)。高等専門学校は中学卒業後に入学する5年一貫教育で、実験・実習を重視するため、高校から大学への入試に追われず早期から専門性を磨ける。
今後は、高専5年+大学(3年次編入)2年+大学院2年という「5‑2‑2」か、大学2年と大学院2年を統合して「5‑4」の育成ルートを選択肢として整備し、大学編入を通じて学士・修士まで一気通貫で育成する体制を広げたい。あるいは、飛び級してそのまま大学院に進学する制度も必要である。
沖縄科学技術大学院大学(OIST)に併設し、同大学の最先端研究の知見を取り入れたカリキュラムで授業を行う、生命科学に特化した高等専門学校の創設を提案したい。
さらに、日本は総人口約6億6千万人を擁するASEAN10か国(親日国であるバングラデシュを含めれば8億3千万人)から最も信頼されるパートナーと評価されている。ASEAN諸国の高校生や大学生に向けても、AIや量子の分野で人材育成のための支援を強化する。また、AIおよび量子コンピューターをはじめとする利用環境を提供するプラットフォームを整備するなど、情報共有と人材育成を軸にネットワークの拡充・強化を進めることも重要である。
提言2 基礎研究で「0(ゼロ)から1(イチ)を生み出す力」を蘇らせる
2-1 我が国の製造業を復権するには、研究開発基盤と投資の予見性
54年前の1971年8月15日、アメリカのニクソン大統領は、金とドルの交換の一時停止、10%の輸入課徴金の導入などを宣言した。その後、1973年には世界経済は変動相場制に移行した。
「本日付で、合衆国へ輸入される品物に10%の追加課税を行うことを決定しました。しかし今日では、我々の援助もあって、ヨーロッパやアジアの主要工業国は活力を取り戻し、我々にとって強力な競合相手になっています。しかし、他国が経済的に力をつけた今こそ、世界各地で自由を守るための負担をそれぞれが公平に分担する時期に来ました。」(ニクソン大統領の演説は、1971年8月15日にテレビおよびラジオを通じて国民向けに行われた。)
トランプ大統領も今年、製造業をアメリカ国内で復活させるため相互関税を打ち出した。これは国内の製造業が衰退してしまったことへの強い危機感の表れと考えられる。(両大統領の一律10%の課徴金は、1917年の「敵対通商法」が改正された法律が根拠となっている。)
対して我が国の製造業はまだ健在である。ボーイングに代表される航空機産業の部品製造は、日本を抜きにしてサプライチェーンを構築することはできない。実際、国内の航空機部品メーカーは現在も多くの受注を抱えている。新型コロナウイルス感染症の拡大により世界的に発注が止まった際、欧米の航空機メーカーは大規模な人員削減に踏み切った。一方、我が国では雇用調整助成金を最大限に活用し、熟練した現場の技術者を守り抜いた。一度工場を閉じれば、積み上げてきた技術やノウハウ、現場の技能が失われてしまう。また、量子コンピューターや核融合発電の研究者から話を伺うと、日本でしか製造できない部品が存在することを改めて実感する。
しかし、このまま放置することはできない。熟練した技術者は高齢化が進み、ものづくりに憧れを抱く学生も減少している。それを防ぐためには、工業高校や高等専門学校への支援を強化するとともに、子どもの頃から「ものづくりは面白い」と実感できる教育や、実際に体験する機会を充実させて、ものつくり人材の裾野を広げることが重要だ。
そして何よりも、「何もないところから新しいものを生み出す力」、すなわち「0(ゼロ)から1(イチ)を生み出す力」を蘇らせなければならない。我が国ではこの力が失せている。
バブル崩壊後、極めて慎重な経営をしてきた結果、中央研究所でも研究を強化することが難しくなり、「0(ゼロ)から1(イチ)を生み出す力」が失われてしまったと思われる。
一方、東工大の西森秀稔教授の論文に着想を得て、2011年に世界で初めて量子コンピューターを世に出したカナダのD-Wave社が、研究開発に投じた資金は10年間で150億円であった。日本企業にとって巨額とは思われない。なぜそのような投資に我が国産業界が躊躇したのかは、検証する必要があろう。
政府が研究体制で「選択と集中」を重視してきたことは、研究現場の環境変化に拍車をかけた。あわせて、国の研究所は独立行政法人(のち国立研究開発法人)へ、国立大学は国立大学法人へと法人化された。その過程で基盤的経費(運営費交付金)の見直しが行われ、国立大学法人では中期目標期間に毎年度1%の効率化(減額)が導入された。私がヒアリングした研究開発法人では、経費の効率化(減額、毎年1%から2%)に毎年真剣に取り組んでいる。
しかも、民間では、短期的には収益に貢献しない、コストがかかるといった理由で中央研究所の強化をためらったのではないか。こうして、いわば官民の広い研究領域という肥沃な大地が失われてしまった。
研究には、選択と集中に偏るのではなく、幅広い多層的・学際的領域を組み合わせて基礎研究を着実に推進し、肥沃な土壌を築いたうえで芽生えた多彩な新芽に投資することが政治の使命である。
また、そもそも研究室についても国内に多くの領域の研究室がないと、我が国全体として最先端の研究に取り組めない。多彩な研究室を増やしていくことも必要である。
(参考)
「私は1995年に勤めていた鉄鋼会社を辞めました。38歳で係長でしたが、当時何を考えていたか。ひとつは『もう二度と銀行からは金を借りない』と。バブルがはじけて銀行は連日取引先に『金を返せ』と言ってきた。もうひとつは『二度と人は雇わない』と。リストラという、ものすごく大変な仕事を先輩の人事課長はやっていた。人の職場を奪うということがどういうことなのか、骨身にしみて感じました。ですから二度と人は雇わないと。もう一つは新規事業をしないと。いろいろな投資がうまくいきませんでしたから。
銀行から金を借りない、人は雇わないということに、2000年代の日本のサラリーマン経営者は徹したわけです。そして労働法制を緩和して、景気変動はすべて派遣労働で対応した。また失敗したら自分の経営責任が問われるから新規事業はやらない。そうやって内部留保を貯めて無借金経営にしたのが2000年代です。ですから2008年のリーマンショックのときに、日本の経営者は『よかった』、『内部留保がこれだけある』と。消極的な経営が一番自分の身分を守るということです。」(2022年2月7日 予算委員会)
サラリーマン経営者の心象風景を理解しなければ、日本経済は語れません。今の上場企業の経営者の皆さまは、30歳前後に私と同じ経験をしています。
「日本資本主義の敗北を初めて感じたのは、1995年のことです。勤務していた鉄鋼会社の情報システム部で、ハイテクベンチャーの投資案件を見ていました。自宅からマックを会社に持ち込み、先輩技術者にイーサネットへ接続してもらい、ブラウザーソフトとしてモザイクやネットスケープのベータ版を使って投資先企業の情報を確認していました。四半期ごとに、アメリカから投資先の会社が来日し、開発状況の説明とさらなる出資を求めてきます。現金が燃え尽きる前に製品を市場に出せるかが勝負です。投資に当たっては、技術を評価できることも重要だと思いました。そのとき私は、ベンチャー投資とは、案件ごとにまるでルーレットのようにリターン倍率が2倍から36倍まで大きく異なり、複数社に分散投資し、年間を通じてポートフォリオ全体で利益が出ていれば成功なのだと理解しました。
売上約20億円規模のシリコンバレーのハイテクベンチャーに投資し、その会社はやがて売上約2,000億円規模へと成長し、ターミネーターやジュラシック・パークのCGを作成するワークステーションを製造していました。株主総会が開かれたのは、カリフォルニア州マウンテンビュー(現在のGoogle本社所在地)で、平屋建ての社屋のカフェテリアが会場でした。壇上では、当時のCEOであるエド・マクラッケン氏がプレゼンテーションを行い、会場にはネクタイを締めた小学生の株主が二人いました。彼らが『インディゴ(Indigo)』というワークステーションのマーケティング戦略について質問し、CEOがそれにとうとうと答えていく、その光景を目の当たりにして、受験偏重の学習スタイルでは勝てないと、日本資本主義の敗北を痛感しました。このビジネスの世界では、子どものころから家庭の食卓(ちゃぶ台)での話題が事業や金利、投資であり、そのような環境で鍛えられていなければ難しいのだと思いました。」(2021年12月15日 経済産業委員会での発言に加筆)
2000年から2024年までの間に、就業者に占める雇用者(サラリーマン)の割合は83.1%から90.3%へと約7ポイント増加しています。事業を営む家庭で育つ人は減っています。
2-2 理工系の研究室に毎年200万円から300万円を助成する
具体的な一つの施策として、日本の理工系のすべての研究室に毎年200万円から300万円を助成することを提言する。1万の研究室に配ったとしても200億円から300億円だ。国の予算規模からすると大した規模ではなく、それでも年間200万円から300万円の助成金があれば確実に我が国の研究は進んでいく。
ただし我が国の大学の場合、教授がいて准教授がいるというヒエラルキー構造になっているため、従来は助成金も教授だけにしか渡されなかった。けれども、研究の第一線にいるのは教授も准教授も同じなので准教授にも満遍なく助成金を配るべきだ。それは大学の研究者たちが望んでいることでもある。
また、0(ゼロ)から1(イチ)を生み出す研究は成果が出るまで長い時間がかかるので、助成金の配布は10年、20年という長期的なスパンで行わなければならない。
2-3 基礎研究の国際会議を我が国で5年に1回開催する
研究室が希望すれば、5年に1回、我が国に各国の研究者を招聘して、基礎研究の国際会議を開くための予算も付けるべきである。このことで研究領域の研究者の人脈が広がっていき、その領域での国際的な主導権が確保でき、研究の大地は肥沃になっていく。
2-4 アカデミアと民間企業や国の研究所との交流を進める
最先端の研究領域では、学術と安全保障との区別が難しくなっている。例 えば、天文学で、より遠く、より鮮明に見る研究は、一面では安全保障領域でもあり、国際的なプロジェクト組成では、どの国と組むべきかは議論の対象となろう。
アカデミアの研究者の最先端の知見を民間企業や国の研究所で活かすこともイノベーションを促進することになる。アカデミアの研究者が民間や国の研究所で研究開発することを進めたい。その際には、身分は維持しながらも、給与については、その期間は民間企業や国の研究所から受け取ることになる。
アカデミアには「研究の自由」と「公開の原則」があるのに対し、民間企業や国の研究所は、研究開発には到達目標が設定されている場合があり、プロジェクトマネジメントが求められる。公開原則についてもアカデミアとは異なる対応があると考える。
提言3 Policyとは何か(科学技術の政策に対し政治家として何を言うのか)
科学技術研究において、基礎研究については、研究の自由度や探索範囲が広いほど、予想外のブレークスルーが生まれる可能性が高まることを基本としたい。政治が「この研究テーマに限定せよ」と決めすぎると、研究領域の多様性が失われ、長期的にイノベーションの芽が摘み取られる。言い換えれば、現場の研究者は政治の目を気にしすぎて本質的な挑戦やリスクテイクを避けるようになる。
次に、研究成果の社会実装では、科学技術の研究開発は社会的インパクトがあり、具体化にあたっては、中長期的視点が必要な領域だ。そこで政治家が決定すべきは、国家としてどのような大きなビジョンを持つのか、どの分野にどの程度の資源を投下するのかなど大枠の方向性や優先順位である。科学技術には巨額の投資が必要となる場合があるので、政治家は必要な予算規模や税制優遇措置、法的支援などを整備する役割を担う。
国が担うべきは、「0(ゼロ)から1(イチ)を生み出す」真のイノベーションの創出と、SPring-8をはじめとする最先端の計測装置(現時点では、世界最高の解像度ではないものの)や、光電融合技術で各家庭までつなぐネットワーク構築など、インフラの整備である。その上にこそ、民間のイノベーションが喚起される。
最後に、国が求める到達目標については、真に挑戦的でなければならない。そして、やり遂げるという強い意思こそが重要である。
(参考)
2025年10月2日、ラピダス社を訪問しました。同社の露光機はオランダのASML社製の極端紫外線(EUV)露光機で、商用供給できるのはASML社のみとされています。次世代半導体製造のキーテクノロジーです。一方、日本でも2000年代以降、産総研を含むコンソーシアムがEUV露光装置の開発に取り組みましたが、装置本体の量産実用化には至らず、関連機関は2019年に解散しました。
提言4 日本発産業革命を起こす
4-1 投資の予見性について
「政治は経済力によって政策の自由度が決まり、経済はその国が持っている科学技術の創造力を超えては発展しない。そして、言論の自由があって、人々の独創的な発想が喚起され、ビジネスでのイノベーションが起こる。」(2021年、2024年衆院選での私の選挙公報)
NECは、出入国在留管理庁向けの顔認証システムを受注するなど、公的分野での採用が続いている。こうした基盤が研究開発の安定継続を可能にし、同社の「世界最高水準」の性能を支えているとみられる。
準天頂衛星システム(QZSS「みちびき」)は、2025年度の7機体制運用開始に向けて整備が進んでおり、2030年代後半には11機体制への拡張が政府方針として示されている。各衛星の設計寿命は概ね15年で、寿命到来に応じた計画的な更新が必要だ。こうした長期の整備・更新サイクルは、産業側の投資の見通しを支える重要な要素だ。実際、「みちびき」の7機から11機体制は宇宙基本計画の改定・工程表に位置づけられており、これが民間・大学の取組拡大につながっている。
核融合の研究所を訪問した際、研究者の方から「国として実験炉の建設を正式に決定してくれれば、重工メーカーは研究者・技術者の採用を拡大し、大学も研究室の体制強化に踏み切れる」と伺った。本来は民間が自ら予見性を見いだすのが望ましいものの、国が長期計画と予算で「投資の予見性」を示すことの重要性を、あらためて実感した(2022年11月)。
政府が閣議決定や法律で長期プロジェクトを明確化し、工程表に沿って不退転で進めることは、企業の投資の予見性を高め、研究開発投資と人材育成(アカデミア連携を含む)を加速させる。
(参考)
科学技術・宇宙政策担当大臣答弁「大島委員からお話にあったとおり、まさに委員が宇宙政策担当の、政府の方で、内閣府でお務めいただいていたときに、まさにこの準天頂衛星システムの『みちびき』の初号機が打ち上げられたものと認識しています。」(2022年2月 予算委員会)
4-2 現時点で、競争のルールを変えうると考えるプロジェクト
4-2-1 2030年までに100万量子ビットの量子コンピューターを開発する。
量子コンピューター開発は、現在でも数千から数万ビット(量子ビット)規模を目指す研究が活発であり、「100万量子ビット」を2030年まで開発することは、世界的にも極めて野心的な目標であるが、このスケールの計算資源がないとすべての領域でブレークスルーは生まれない。ハードウェアやソフトウェア、インフラ面での投資が膨大になると予想されるが、日本が先んじることで、我が国の優位性を保つ。
量子コンピューター本体の価格、関連設備(極低温冷却システムなど)の設置費用、運用要員の育成コストなど、単体でも相当な投資が必要であり、多数の研究機関や企業に導入するとなると、インフラ面・人材面の整備コストも含めて大きな額になるが、様々なタイプ(超伝導、イオントラップ、光量子、スピン、トポロジカル、中性原子、アニーリング)の量子コンピューターがあり、それぞれを競わせることが、開発を促す。光量子コンピューターのように常温でも稼働できるタイプもあり、コスト圧縮のブレークスルーも期待できる。
(参考)
「私が目指すスペック、2030年までに100万量子ビットを達成し、研究者や民間企業に計算資源を開放し、2035年までに研究所や民間企業に導入し、2040年代には一家に一台を目指したらどうかと考えております。極めて挑戦的なゴールですけれども、国が資金にも後押しするのであれば私は可能だと思える開発目標だと考えておりまして、だからこそ圧倒的な競争有利を保てると考えています。」(2025年4月2日 経済産業委員会)
NTTは2025年11月18日、東京大学発ベンチャーのOptQCと連携協定を締結し、2030年までに100万量子ビット級の光量子コンピューターの実現を目指すと発表した。
4-2-2 2030年代までに、各家庭まで時間遅延のないネットワークを整備し、世界で最も高速かつ大容量で安定した通信インフラを実現する。
現行のインターネット回線では遅延(タイムラグ)が避けられない。また、人が見えない色や聞こえない音は省いて、圧縮してやり取りする。情報を圧縮することなく、光の速度で安定的に通信できるインフラを整える。
現在のところ、光電融合技術は、光通信と電子回路を高密度に統合することにより、大容量かつ超高速通信を実現する最先端技術である。これを世界に先駆けて、日本の基幹ネットワークとして敷設することで、イノベーションのインフラを整備する。
4-2-3 2030年代に量子暗号通信で結ぶ宇宙でのコンステレーションを欧州や米国を巻き込んで展開する。
衛星通信を用いた量子鍵配送(QKD)などの量子暗号通信は、すでに中国などが実験衛星を打ち上げるなど先行事例がある。大規模な衛星コンステレーションを構築することで、完全秘匿のネットワークを価値観を共有する国との間で構築する。
4-2-4 海中での位置測位が正確に行える技術開発を進める。
電波が届く地上や空中、宇宙空間では、位置を正確に測位することができるが、電波の届かない海中での測位は難しい。海中で音や光を出すことなく、位置を正確に測位できれば、応用領域が広く、日本の優位性につながる。例えば、無人潜水艦の運用が可能となり、資源探査や島嶼部防衛にも資する。この分野で、ブレークスルーを起こし、メーター単位での測位システムを確立する。
4-2-5 2030年代までに核融合炉の実証炉を建設、核融合炉発電を実現すれば、我が国がエネルギー輸出国になる。
国際協力プロジェクトであるITER(国際熱核融合実験炉)の建設・研究費用は、累計で2兆から3兆円規模(約200億から300億ドル)とされる。しかし現在は、国際共同開発から、国単独あるいはベンチャー企業による開発へと潮流が移りつつある。とりわけブランケットの素材開発などは、量子コンピューターの計算資源を活用することで新たなブレークスルーが期待され、開発スピードは急速に上がっている。核融合炉の開発は、通常、実験炉→原型炉→実証炉→商業炉という段階を踏むが、世界的な競争速度を踏まえれば、ITERで得られた知見を生かし、日本が単独で実証炉を開発・建設する。
核融合にはトカマク、ヘリカル、レーザー、ステラレーター方式など複数のアプローチが存在し、それぞれに長所がある一方、どれが商業化で優位となるかは未確定である。ゆえに、技術成熟度を段階的に評価しつつ、複数方式に分散して十分な研究資金を供給し、相乗効果を狙う。
また、核融合発電プラントの製造・建設は、従来にない最先端の部品開発や建設段階でのすり合わせ技術など、我が国のものづくりの力を遺憾なく発揮できる分野である。核融合炉プラントを輸出できるようになれば、広範なサプライチェーンを通じて国内産業に大きな波及効果をもたらし得る。
4-2-6 地熱発電技術のブレークスルーで約23GWの発電が可能となる。
技術革新には、AIを動かすための計算資源は欠かせない。光電融合技術でデータセンターの消費電力を100分の1まで軽減することは可能であるが、地熱発電は、中期的に電力を生み出す有効な電源だ。
従来の地熱発電は、地下の蒸気・熱水(地熱貯留層)と高温熱源の組み合わせが必要で、適地は火山地帯などに限られ、有望地域の多くが国立・国定公園や温泉地と重なるため規制・合意形成が開発の制約となってきた。しかし近年、方向性掘削・計測の高度化や油やガスの掘削技術の転用により高深度掘削と造成技術(EGS:強化地熱システム〔Enhanced Geothermal System〕等)が進展し、地下熱の活用範囲が拡大している。
クローズドループ(閉鎖循環)では、地表から数千メートル級の井戸を掘り、地下で多分岐水平坑井等で接続した密閉回路内に作動流体(水等)を循環させる。地下の既存水源に依存せず熱を伝導主体で回収し、地上の熱交換器・バイナリー発電設備(熱水などの低温の熱源と、水よりも沸点の低い有機媒体の2つの熱サイクルを利用して発電する設備)でタービンを回す(地下へ流体を放出しない)。ドイツ・ゲーレッツリートではEavorTechnologies社(日本からは中部電力、鹿島建設も出資)が商用規模でのプロジェクトを進めている。EIB(欧州投資銀行)融資やEUイノベーションファンドの支援も受けている。
日本は地熱資源量が世界第3位で、導入ポテンシャルは約23GWと試算されている(原発約23基分に相当)〔原発1基=100万kW(=1,000MW)が一般的な換算〕さらに、経産省の次世代型地熱推進官民協議会資料では、EGS・クローズドループ・超臨界等を含む次世代型のポテンシャルを約77GW(原発約77基分に相当)としている。
(参考)
経済産業委員会(2025年5月9日)で、私が、1)日本の地熱資源量(世界3位)確認、2)「原発23基分(1基100万kW)」の試算可能性、3)クローズドループへ1,000億円規模支援の必要性等を政府に質したことが委員会ニュースに記載されています。1,000億円基金を、ループ式実証、研究開発、リスク保証に充てれば、実装するまでの時間が短縮され、国内でのサプライチェーン強化を同時に進められます。
4-2-7 民間旅客機プロジェクトを再立ち上げて、2030年代にアジアマーケットに投入する。
航空機の型式証明は、検査する細目が決まっているわけではない。ボーイングとエアバスの検査官がお互いに認め合っていて、属人的にこの検査官が了解しているのであれば、この型式証明は互いに認められることになる。したがって、両社検査官のギルドに入れなければ、世界で航空機は販売できない。中国は、ギルドに入れないので、自国14億人の中で、航空機を製造して飛ばし、圧倒的な飛行時間が無事故であれば、そのこと自体が型式証明になる。そうすると将来、ボーイングやエアバスの独占的な地位と競争力を失うことになるだろう。したがって、ボーイングやエアバスと協力して、競争力のあるサプライチェーンを構築する。
三菱重工MRJの量産準備に向けて、三重県松阪市では2015年に中小企業10社が「航空機部品生産協同組合(松阪クラスター)」を設立し、切削から表面処理・塗装、検査までの一貫生産体制を整えた。 同クラスターは2017年10月からボーイング各機種向けの機体構造部品の量産を開始し、MRJ(のちSpaceJet)の開発中止(2023年2月)後も、民間機部品の一貫生産拠点として稼働を継続していると聞いている。 このように、航空宇宙産業は、日本のものづくり基盤を国内に維持・発展させるために不可欠な産業である。
4-2-8 量子コンピューターの計算資源を確保できれば、科学技術は想定を超える速度で進展し、未来は早く訪れる。
まず、量子アニーリング計算を物流に導入すれば、事務用品から大型工作機械に至るまで、国内で流通するあらゆる物品の積載計画、配車、経路選定を瞬時かつ高頻度で大規模に最適化でき、わが国の物流システム全体の高度化につながる(2023年3月10日、経済産業委員会)。そして、物流の最適化基盤を整備、標準化できれば、海外の巨大プラットフォームへの過度な依存を低減し、付加価値の国内循環を促して富の流出を防ぐことにもつながる。
そして、量子コンピューターの計算資源を確保できれば、光合成のメカニズム解明が進み、人工光合成により太陽光と二酸化炭素と水から酸素や水素、炭水化物を生成するプロセスの実現が期待でき、さらに化石エネルギーに依存しない化学肥料の製造法を見いだす可能性もある。(ミチオ・カク著『量子超越』)
まとめ 目安は以下のとおりである(概算の規模感として参照されたい)。
• 100万量子ビット量子コンピューター開発:1兆から2兆円
• 量子コンピューター導入(研究所・企業):数千億から1兆円
• 光電融合ネットワーク網:数千億から1兆円
• 量子暗号衛星コンステレーション:数千億から1兆円
• 核融合実験炉:2兆から5兆円
• 次世代地熱発電:1,000億円から1兆円
• 民間旅客機プロジェクト:1兆から2兆円
これらを同時に推進するには、国の歳出計画、産業界の投資、国際連携による費用分担の設計など、綿密な戦略立案が不可欠である。着実に進め、ゲームのオーナーの地位を確保できれば、日本は競争優位に立つことができる。
(参考)
1)マイナンバーカードの普及のために約1兆4,000億円を投じましたが、保有率は約8割、マイナ保険証の登録者は国民の約7割にとどまっています(2025年10月時点)。
2)コロナ関係予算について、大臣は「財政支出の規模は合計で201兆円程度となります」と答弁しています(予算委員会・2022年2月7日)。
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日本人として初めてジョージ・ソロス氏のパートナーとなった草野豊己氏から、ソロス氏に初めて会った際にかけられた言葉をうかがったことがあります。「君のシナリオを聞かせてほしい」と。
ソロス氏も、中長期を含む今後の経済・市況の動向について自らのシナリオを持ち、草野氏のシナリオに耳を傾けることで、その妥当性を検証しているのだと理解しました。
このエッセイは、日本生産性本部が事務局を務める令和臨調の科学技術イノベーション部会において、野依良治先生、常田佐久先生、川添雄彦先生、佐々木雅英先生、松尾豊先生、今井翔太先生といった専門家の先生方や、超党派の国会議員の皆さまとの意見交換に刺激を受け、私の考えをスケッチしたものです。内容は、私自身のストーリーです。皆さまのお考えもぜひご教示いただければ、無上の喜びです。(2025年5月作成、同年11月27日改定)
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最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。
1990年当時、ハノイにはガソリンスタンドがなく、道端で瓶入りのガソリンが売られていました。ホーチミン市(旧サイゴン)とハノイで十を超え、二十に迫る公団を訪問し、総裁との面会を重ねました。会合はいずれも時間通りに始まり、具体的な成果を求める内容だったと記憶しています。また、商社のベトナム人スタッフが「ソ連製のミサイルは性能が十分でなく、自分たちで改造していた」と話していたことを思い出します。
もしベトナム戦争がなければ、タイに向かった資本はベトナムにも投資され、同国はさらに発展していたのではないか、当時はそのように思いました。
この見立ては日本にも当てはまります。中国が共産主義国家となり、東西冷戦下で日本は西側陣営の防波堤と位置づけられ、資金が日本に投じられたのだと。もし国民党が勝利していれば、そのマネーは日本を通り越して中国に向かい、中国が早期に発展していたのではないか、とも考えました。
しかし、中国は共産化後、大躍進から文化大革命が終わる1976年まで停滞が続きました。その時期は日本の高度成長期と重なります。
本年(2025年)は、戦後80年です。私は、戦争という極限状況の中で技術革新を生み出した人材が、戦後の経済発展を支えたと考えます。80年前、金融を含めて国は破綻しましたが、科学技術によってイノベーションを起こせるだけの人材の蓄えはあったのではないでしょうか。
顧みるに、このまま日本が財政破綻に陥れば、復元を支える科学技術の力を欠き、外貨を稼ぐ魅力的な製品を生み出せず、食料も防衛装備品も十分に自給できないまま、貧しい観光立国にとどまり、ひいては「自国のことを自国で決められない国」に陥りかねないと、強い危機感を抱いています。
分かりやすくお伝えするため、あえて強めの表現を用います。「財政が破綻するまで、『0(ゼロ)から1(イチ)』を生み出すイノベーションのために研究開発投資へ舵を切る時が迫っているのではないでしょうか。たとえ財政が破綻しても、次を生み出せる人材さえ残っていれば国は再興できます。」
もちろん、研究開発投資は実体経済を動かします。投資シナリオを明確にし、実行計画と資金配分を最適化できれば、投資の予見性が高まり、民間投資が呼び込まれ、これまでにない価値が創り出され、社会や経済の仕組みが変革されます。その結果、既存の常識が揺らぎ、新たな挑戦が生まれ、一人ひとりの能力が引き出されます。ですから、徹底的に投資すべき、と考えています。
以上
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