【国会レポート】日産自動車が運営する自動運転タクシーに試乗【2025年2号】
2025年1月に上海と蘇州を訪問し、日産自動車が運営する自動運転タクシーに試乗しました。比較的混雑していないサイエンスパーク内での運行で、乗車・降車場所はあらかじめ決められており、アプリで呼ぶと目の前まで迎えに来ます。現在のところ、運転は自動ですが、ドライバーが運転席に座っています。
車に搭載されたセンサーが道路状況を把握し、右折や左折もスムーズかつ安定しています。日産自動車の責任者に伺ったところ、自動運転タクシーは事故を起こすことがなく、人が運転するよりも安全だと話していました。同社は中国のソフトウェア会社と提携し、開発を進めているそうです。
私の理解では、まずは交通量が比較的少ない道路でデータを収集し、徐々に運行エリアを拡大しながら、将来的には一般道でも自動運転が可能になることを目指しているようです。様々な技術的な課題を乗り越えて、2030年までには実用化されると考えます。この話を大手タクシー会社の経営者に伝えたところ、将来の自動運転タクシーを見据えた事業運営を想定されていました。
自動運転タクシーに試乗して、これまでの延長線上ではなく、新しい世紀に突入していると改めて実感しています。こうした未来を考えると、自動運転が社会に与えるインパクトは大きいといえます。
自動運転で変わる社会
以前、都内の大手タクシー会社が運営する、大卒の若手社員のみで構成された営業所を訪れたことがあります。配車アプリの普及により、ベテランドライバーと新人ドライバーの収入格差が解消され、新人でも年収500万円以上を無理なく稼げる環境が整っています。
2010年代にスバルが衝突防止システム「アイサイト」を搭載した自動車を販売し始めてから、自動車板金業を営む知人から「事故が起きにくくなり、仕事が減少した」と聞いたことがあります。現行の技術でも、一台一台の自動車やオートバイの位置を衛星の電波で正確に測位し、すべての車両が今どこを走っているか把握することは可能です。
今後は、台風などの過酷な天候や、雪道・悪路といった多様な路面状況にも対応できる自動運転が、遠くない将来に一般化していくでしょう。
そうなると事故はほとんど発生しなくなることが期待され、交通量を予測しながら刻一刻と一台一台が最適な経路を選択すれば、交通渋滞も大幅に緩和されると予想されます。
こうした社会変化の背景には、人工知能の研究や技術革新が深く関わっています。
人工知能研究の飛躍が社会を変える
10年前、東京大学教授であり、日本の人工知能研究の第一人者である松尾豊先生を国会にお招きし、「ディープラーニング(深層学習)」という人工知能理論について説明を伺いました。その際、私は、赤ちゃんが生まれたときは母親の顔を認識できなくても、何度も接するうちに「この顔は母親だ」と理解する過程をコンピューターがディープラーニング(深層学習という理論)で再現している、と理解しました。
この理論を製造業の生産工程や検査工程に導入すれば、生産性が飛躍的に向上すると直感しましたが、当時、民間企業では大きな注目を集めるには至りませんでした。
しかしその後、2016年には米グーグル傘下のDeepMind社が開発した囲碁AI「AlphaGo(アルファ碁)」が世界最強の棋士である韓国のイ・セドル九段を4勝1敗で下し、世界に衝撃を与えました。さらに2017年には、将棋AI「Ponanza(ポナンザ)」が佐藤天彦名人を破り、AIが人間のトップ棋士を凌駕する時代が到来したのです。
こうした成果を支えているのが、当時松尾豊先生からご説明いただいた「ディープラーニング(深層学習)」という理論です。現在では、自動車の自動運転やチャットGPT(一般に普及している人工知能)など、多くの分野で活用されています。
囲碁や将棋の対戦記録や自動車の走行記録、インターネット上の膨大なデータをコンピューターに学習させ、コンピューター内で対戦や運転を仮想的に繰り返すことで、人間の思考や判断、行動を高精度で予測・最適化できるようになりました。
では、自動運転をめぐる課題と可能性は何でしょうか。
自動運転の課題と可能性
自動運転の分野では、車に搭載されたセンサーで集めた膨大な交通データ(ビッグデータ)を活用し、より使いやすく安全なソフトウェアを開発・提供する企業が、自動車メーカーやユーザーから大きな支持を集めるでしょう。その結果、こうした企業は大きな利益を得ることになります。
この状況は、パーソナルコンピューター黎明期のソフトウェア競争を彷彿とさせます。当時は各社から様々なワープロソフトや表計算ソフトが競って開発・販売され、まさに群雄割拠の時代でした。しかし現在では、それらの機能はすべてマイクロソフトの「Office」製品に集約されています。同じように、自動運転のソフトウェア分野でも、最終的には一社が市場を独占する可能性が高いでしょう。
ただし、たとえ利便性が高くても、それが外国企業の技術である場合、国の安全保障の観点から依存してよいのかという疑問が残ります。さらに、利益が一社に集中してしまう富の偏在の問題も無視できません。また、電源が落ちた場合にはすべてが停止してしまうリスクもはらんでいます。 こうした課題については、科学技術の推進のみならず、富の集中とその適切な分配にもしっかりと取り組んでまいります。