月刊誌「経済界」で衆議院議員 大島 敦のインタビューが取り上げられました。

インタビューの中で、大島氏は度々「取材」という言葉を使った。経済政策立案のために、少しでも時間ができれば徹底的に現場を回り、当事者を訪ね、対話している。それを持ち帰り政策を書き上げる。まさに「取材」だ。今回挙がっただけでも、訪ね歩いた先は、科学技術会合、大手情報通信企業、民間下請け企業、国際交流機関等々。大島氏の経済政策が最前線のもので説得力を持つのはそうした現場主義から来ている。野党の経済政策は非現実的と批判されることが多いが、大島氏のそれはそんな批判を跳ね返すのではないか。

聞き手=ジャーナリスト 鈴木哲夫

政治は経済力によって政策の自由度が決まる

大手企業の相次ぐ賃上げ、岸田政権はこれを経済政策の成果と強調し好循環へ踏み出したとしている。しかし、賃上げは中小や末端まで広がってはいない。一時は4万円を突破した株価もその後は不調気味。進む円安で海外からの原材料は高騰し物価高は止まらない。生活経済に好循環の実感は薄い。日本経済に、もっと政治が介入すべきと政策提言するのは大島敦衆議院議員。自身の民間経験でのノウハウや理念から、岸田政権の経済政策の根本的な問題点を指摘する。

経済の発展には言論の自由が欠かせない

―― 現在の岸田政権の経済対策をどう見ているか。

大島 安倍政権から岸田政権まで盛んに言われてきたものの、下請けの価格転嫁が進んでいない。実質賃金もアップしていません。これが問題です。

―― 今、やるべき経済政策はどんなものか。

大島 私は「権力は抑制的に使うべき」という立場です。しかし、今の日本経済には政治が大きく手を入れた方がいいと思います。例えば、株式市場で日銀や年金機構などの公的機関が保有する株式は17%に相当します。日銀が持っている7%を政府が簿価(37兆円)で買い取り第三者機関に預け、価格転嫁などを株主の立場から提言する。これはやや極端な例ですが、それくらいのことをできるのが政治の力です。

―― そもそも日本は経済を成長させる力が弱まっていないか。

大島 私の持論は「政治は経済力によって政策の自由度が決まり、経済はその国が持っている科学技術の創造力を超えては発展しない」ということ。1995~2019年の主要国における大学部門の研究開発費の推移は、EUが2・3倍、アメリカ2・1倍、中国は16・4倍、日本は1・1倍。そして、研究開発費の推移とサラリーマンの給与の上がり方も連動しています。つまり、イノベーションが起きていないから、日本は給与が上がらないわけです。

また、私は「言論の自由」も国や経済の発展には欠かせないと思っています。言論の自由があって、人々の独創的な発想が喚起され、そしてイノベーションが起きるという循環です。

―― 経済に言論の自由という論理を絡めていることはとてもインパクトがあり面白い。

大島 かつて福田赳夫総理が「日本経済は全治3年」と言っていましたが、今や全治10年、20年という状況ではないでしょうか。残念ながら今の日本には売る物がほとんどなく、経済が弱りきっています。国家の安全保障の観点でも基礎技術を持っていることは重要ですが、日本はそれも不十分です。例えば、半導体の露光装置。世界的なメーカーはオランダのASMLですが、15年前に産総研(産業技術総合研究所)は同じ研究をしていたのです。しかし、資金面を理由に政府は止めてしまった。半導体に限らず、高度な技術を持っていれば今頃、世界で優位に立てたわけです。

かつての日本経済は下駄を履いた発展だった

―― 政府が安全保障技術などに十分に投資してこなかった理由は。

大島 ソ連の崩壊以降、日本は産業政策を変えました。言ってみれば、世界が1つになったと勘違いをしたわけです。東西対立がなくなり経済活動が自由になってみんなハッピーになると素朴に信じた。結果的に、経済活動をどんどん自由化していったのです。ところが世界各国の対応は少し違いました。すべてを自由化したわけではなく、安全保障の観点で重要だと判断した分野では、自国の産業を保護したのです。アメリカは典型です。独自に原潜やミサイルを内製で作っているわけです。航空機も全部内製化してきた。

私は日本鋼管に勤めていましたが、先輩が鉄鋼の労働組合にいて、ラスベガスであったアメリカの鉄鋼労働組合の会議に出席した際の話を聞いたことがあります。その時、アメリカの労組幹部ですら「私たちは国の安全保障で守られている」と明確に言ったというのです。アメリカはいくら自由貿易だと言っても、安全保障の観点から残すべき領域とそうではない領域は分けているということです。日本は自由貿易にすればみんなハッピーになると勘違いして、安全保障への投資を止めたわけです。

―― 日本はその幻想のまま30年間やってきていると。

大島 そうです。日本は経済への考えを見直した方がいい。かつての日本経済は下駄を履いた発展だったのではないかとすら思うわけです。実際、明治維新の頃でも世界に占めるGDPの規模は3%程度で、現在とさほど変わらない水準です。むしろ高度成長期の10%前後の数字が異常だっただけではないか。こういう仮説を立てて、島国という立地も生かし、外国の影響を受けないような国家経営が必要なのだと思います。

―― 安全保障というのは戦争だけではない。たとえばコロナのような感染症も有事であり安全保障という視点が必要ではないか。

大島 私は2006年に新型インフルエンザについて、ワクチンは戦略物資だと委員会で発言しました。半年後には、アメリカでもイギリスでもワクチンの投与が始まった。しかし日本では間に合っていない。ワクチンをはじめとする医薬品開発の力は国家戦略と大きく関わります。極論を言えば、ガンを治す薬を開発できれば、世界最大の戦略物資になるわけです。三菱重工のMRJをめぐる一件でも同じようなことが言えます。重要だったのは飛行機を飛ばすことよりも、型式証明を取得するなど仕組みを作ることでした。それができれば、三菱以外の大企業や、ベンチャー企業だって航空機産業に参加でき世界に売れるものが作れるようになったはず。それなのに政府は500億円しかお金をかけていない。国がやるべきことは、こうした産業のインフラを作ることです。

“人としての付き合いが政治”

―― 経済から少し離れるが、このところ自民党の裏金問題処理をはじめ、政策でも少子化対策や防衛費増額、増税など政権への国民の不信は高まっている。どう考えるか。

大島 政治、政策の実行力は国民からの信頼が前提にあります。たとえば今回のマイナ保険証についても、法制化すれば2兆円も使わずに済むわけです。政治に自信がないから、ポイントが付くとか価格誘導的な政策ばかりになる。与党としての矜持がない。消費税導入のときは、竹下登さんがしっかり実行した。「難しいことは分からんがあんたに任せる」という有権者からの信頼があったのです。究極的には、政治は理屈ではなく人物ですから。国会は理屈で収まらない問題があがってくる場です。理屈で収まる問題は、優秀な役所の人が解決します。竹下登さんは「国会の中を靴が擦り切れるほど歩け」と言いました。つまり、人に会って話す、人としての付き合いが政治なわけです。そういう政治家は国民からの信頼も生まれます。

―― 信頼がないから政策が真摯に進まない。マイナカードについても、管理されて悪用されるのではないかという不信感がある。

大島 政治に対する信頼がない限り、そういう国民が抱く疑念はなくならない。多くの政治家は選挙に勝つためにばらまいて、耳障りのいい政策をやればいいと考えている。子育て支援金だって、社会保険の枠内で考えるのではなく他のやり方があるはずです。

―― 社会保障の財源、たとえば年金などは負担する現役世代が減っていく中で、財源は消費税でなどといった意見もあるが、自民党はそういう議論を避けている。

大島 そうですね。財源で言えば、たとえば軽減税率をなくすと1兆円税収が増えます。いま盛んに言われている給食の無償化にかかるのが6千億円ほどなので、これが賄えるということです。簡単ではありませんが、軽減税率をやめて一律で10%にしようという正面からの議論がないのです。やっぱりみんな選挙に勝ちたいからそういう話はしたくない。

―― でも、大島さんはこういう話をしてもなお、選挙で勝ってきている。

大島 落選してもいいから、国のためになる法案は通す。これが本来の政治家の仕事です。それが嫌なら、日頃から地元で選挙運動をしっかりして民意を取れという話です。

―― 消費税については民主党政権時代に三党合意があって、社会保障の財源にも使うから税率を上げようと、そして国民もそれならばと多くが納得した。でもその後、税収の使い道が国民の納得のいくものになっていない。

大島 当時は新聞などマスコミ各社も社会保障まで含めた安定的な財源確保の一つとして消費増税はありという論調でした。ただ、あのときの増税の際は、思い切って全額をまるまる国民に還元すべきでした。すべて社会保障や教育などに使うとか。それがあれば、きっと今頃消費税に対する国民の意識や考えも大きく変わっていたでしょう。これは政治家としての勘とでも言うべきもので、国民と向き合っているからこそできることです。私は社会保障に関しては安定財源で、他は赤字国債でいいと思っています。

―― 赤字国債は具体的にどのようなところに。

大島 たとえば公教育です。現在、教員採用試験の受験者はかなり減少しています。現場に聞くと、昔だと採用しなかった人も合格させないと組織が回らないという話もある。公教育が教員不足ならお金持ちは子供を私立学校に通わせます。ただ、そこで格差が発生してしまう。公教育が充実するように先生たちの待遇も見直さないといけない。それは何も給料だけではありません。私の地元の商工会議所とハローワークが合同イベントを行った際に、行列ができている会社がありました。その理由を聞くと、賃金だけではなく残業が少ないことや有給がとりやすいこと、そして将来この仕事がどんなキャリアにつながるかという点を求職者は見ているというのです。なので、先生に対してもただ給料を上げればいいのではなく、働き方改革などの大きな見直しが必要です。こういうことは将来への投資ですから、必要な経費は赤字国債を使ってもいいと思います。

―― 大島さんが考える今後日本の政治の進むべき方向は。

大島 やはり、科学技術やイノベーションが生まれるような投資が必要だということです。1983年から87年まで、私は日本鋼管の社員としてドイツに駐在していました。その時にある人から進められ、『テクノクラシー』という本を読みました。その本には、科学技術が飛躍的に伸び、そこに追いつけないソ連は崩壊すると書いてありました。そして本当にソ連は崩壊した。科学技術を見ていれば国の栄枯盛衰がわかるのだと学びました。日本は、まさに現在、他国に比べて科学技術が伸び悩むかつてのソ連のようです。崩壊することはないでしょうが、衰えて小さな国になる可能性がある。本当に、ここ30年間の予算編成は間違っていた。結局、財務当局に文科省も厚労省も論破されてしまう。そこは政治が守らなければならない領域だと感じます。今後も、このような政治の役目を果たしていきたいと思います。

すずき・てつお 1958年生まれ。フジテレビ政治部、日本BS放送報道局長などを経てフリー。30年にわたって永田町を取材、豊富な政治家人脈で永田町の人間ドラマを精力的に描く。テレビ・ラジオでコメンテーターとしても活躍。近著に『ブレる日本政治』(ベストセラーズ)、『政治報道のカラクリ』(イーストプレス社)など。