【国会レポート】介護の負担を大きく軽減できる日本のロボット技術と医薬開発【2014年10号】

情報関連の技術は日々目覚ましい勢いで進歩を遂げています。国会の本会議や委員会での議事録も数年前から音声自動入力で作成されていますし、将棋のプロ棋士もパソコンに負けるようになりました。東京オリンピックが開催される2020年代になると翻訳や通訳、医療診断なども自動化されるでしょう。政治家もそのような時代の変化を見据えながら政策を考えていかなければなりません。そのために私はつねに最先端研究を行なっている研究所や企業を訪問しています。

今回はロボットスーツに注目しました。これは骨格型や衣服型をしている、身に付けるロボットです。電力や空気圧によりモーターや人工筋肉を動かすことで人間の手足の動きをサポートするので、ロボットスーツを装着すれば、重い荷物でも簡単に持つことができ、動きが不自由になっている手足でも動かすことができます。そのため、介護や医療の現場、物流業、サービス業などにロボットスーツを導入することによって人間の肉体的な作業が軽減されるわけです。

微弱な電流をとらえてロボットが動く

このロボットスーツの分野で最先端を走っているのが茨城県つくば市のサイバーダインという企業です。(社長は筑波大学システム情報系教授でもある山海嘉之氏)。充電池で動くHALという名称のロボットスーツをすでに実用化しており、下肢タイプ(腰と両足に装着)と腰補助タイプ(腰に装着)という2機種が実用化されています。動く仕組みはこうです。人間が手足を動かそうとすると、その意思は脳から筋肉への微弱な電流によって伝えられるのですが、この電流は人間の皮膚表面にも出てきます。したがって人間がHALを装着すれば、そのコンピューターが皮膚表面の微弱な電流をとらえてモーターを駆動させ、人間の手足の動きを補助することができるのです。

HALは今、介護のリハビリ用に約400台がレンタルで貸し出されています。レンタル方式なのはロボットスーツの進化は速いのでつねに最新版を使ってもらうためです。脳梗塞や脳出血による障害が残ったら、その患者にはリハビリを行なって回復を図ってもらわなくてはなりません。ただし人間だけのリハビリには強い意志が必要なために挫折してしまう人も少なくないのですが、そのときに力を発揮するのがロボットスーツなのです。つまり、要介護者がHALを装着すると両足を楽に動かせるので、要介護者は強い意志がなくてもリハビリを続けられます。こうしてリハビリを続けていけば、そのうちHALを装着しなくても足が動かせるようになるわけです。それで寝たきりでなくなって自活もできるようになりますから、家族の介護作業の負担ばかりか、介護保険への国の財政負担も軽減されていきます。

ドイツの公的保険機関ではHALを医療保険の対象にしているのですが、これもHALによって寝たきりを解消するとともに介護士の付き添い費用なども減らせるため、財政負担が軽くなるという判断からです。

財政負担軽減と世界への貢献につながる

さらに介護に関連していえば、2012年度には65歳以上の要介護認定者のうち認知症高齢者の割合は約60%にも達しており、特に認知症については日本の介護費用(2012年度は8.4兆円)の中で特に大きな比重を占めています。世界的に見ても認知症の患者をケアするコストは莫大です。国際アルツハイマー病協会では「認知症のケアの世界的コストは2010年の世界のGDPの1%、6040億ドル(現レートで約70兆円)を超える」としています。したがってアルツハイマー予防・治療の薬を日本で実用化できれば、国内の介護のコストを劇的に下げられるばかりか、海外に対しても貢献できるのですが、私が特に有望だと感じているのが理化学研究所でのアルツハイマー薬の研究です。こうした薬が実用化されれば認知症患者も劇的に減って介護の負担も大幅に軽減される事になります。

こう見てくると、ロボットスーツ活用による肉体の回復という側面とアルツハイマー薬による脳の機能の維持という側面において介護問題を積極的にとらえることもできるのではないでしょうか。今や介護問題は日本やドイツだけではなく世界共通の大きな問題になってきています。日本がロボットスーツの技術とアルツハイマー薬の両方を他の国々に提供していけば大きな国際貢献になるのです。しかもそれは我が国の収益アップにつながり、それだけ財政負担も軽くできます。今後、介護を後ろ向きとらえるのではなく、介護関連の技術と医薬を積極的に日本の産業競争力アップにつなげていかなければなりません。

ロボットで今後の人手不足にも対応する

サイバーダインに話を戻せば、山海氏がこの会社を設立したのは、リスクを取ってロボットスーツを事業化してくれるような企業がなかなか現れなかったからです。そこで自ら1000万円を出資し、2004年にサイバーダインを設立したのでした。2014年3月に株式市場のマザーズに上場したところ、上場前には60億円だった株式の時価総額は上場後には3000億円を超えるほどにもなってしまいました。市場はサイバーダインの企業としての価値をそれだけ高く評価しているのです。今後、HALを用いた病院での臨床データを蓄積して医療分野にも事業を広げていくという計画を持っています。

ところで、ロボットスーツは人間の力仕事を補助するのですから、介護や医療だけでなく工場作業や配送業、サービス業などでも使われるようになっていくはずです。しかも今や少子化が進んできて、そうした業種での人手不足が目立つようになりました。この人手不足はこれからどんどん深刻になっていくでしょう。その点からもロボットスーツあるいはその他のロボットの実用化の推進が求められています。人手不足を補うために移民を入れるという話もあるものの、人手不足への対応にはまずロボットの活用が先ではないでしょうか。

ロボット産業に関連していえば、私の地元の将来にも大きな可能性があります。2014年6月に桶川から神奈川県海老名市まで圏央道が開通しました。2015年には同じく藤沢市まで開通するだけでなく、上尾道路の上尾~桶川間も開通します。上尾道路の全線が開通すれば南北がつながり、東西をつなぐ圏央道と併せて私たちの地元は関東の交通の要となるのです。サイバーダインのあるつくば市との行き来も容易ですし、さらに圏央道は数年後には成田空港まで延びるので海外に行くのも楽になります。

それで私が副大臣のとき、大学の先輩でもある黒岩祐治神奈川県知事から「神奈川県をロボット特区に指定してほしい」と要望され、担当副大臣としてロボット特区の指定を取り付けたのですが、その結果、神奈川県は生活支援ロボットの実用化や普及を促進する取り組みを行なえるようになりました。こうした動きと連携することで、私の地元の圏央道沿線にもロボット関連企業の集積を進めることができます。地元へのロボット関連企業の誘致にも積極的に取り組んでいくつもりです。