【国会レポート】政策転換が招いた米価急落と耕作放棄地の増加【2014年9号】

周知のように2014年産の米価が全国的に急落しています。農協からコメ農家に支払われる概算金(仮渡し金)は埼玉県の場合でも昨年がコメ60キロあたり1万2100円に対し今年は8000円程度まで下がっています。これは概算金ですから最終的には調整があるものの、それでも3000円近く安くなるでしょう。コメ農家の経営は大打撃を受けることになります。

なぜこうなったのか。それを述べる前にコメ農家の現状にふれておくと、私が地元のコメ農家の方々に取材したところ、コメ専業なら20ヘクタール(6万坪)以上作付けすれば経営が成り立つとのことです。逆にいえば、それ以下の面積では経営が苦しいのですが、それでもサラリーマンを退職した後に親からコメ農家(主に作付面積1ヘクタール《3000坪》以下から5ヘクタールの層)を引き継いでいる人たちが少なくありません。というのも先祖からの農地を守るという強い意志があるからです。そのお陰で農地が維持され休耕田化が防止されてきました。

コメ農家の大規模化を促進した民主党の政策

こうしたなかで2009年に民主党が打ち出したのが、農家への戸別所得補償制度でした。この制度では農家が生産調整(減反)に協力すればコメの作付面積10アール(300坪)あたり1万5000円の交付金を出す「固定払い」に加えて、米価が基準価格を下回ったときにはその差額分を支給するという「変動払い」も設けました。その結果、たとえば2010年にも米価が大幅に下がったのですが、この「固定払い」と「変動払い」の両方が交付されたことで農家所得が補償され、田畑を維持することができたのです。

また、この制度によって促進されたのがコメ専業農家の大規模化にほかなりません。前述したように、小規模では経営が成り立たないため、自分の農地を他のコメ専業農家に貸したいという人も増えてきました。一方、作付面積が20ヘクタール(6万坪)を超えれば経営が成り立つので、もっと大規模化したいというコメ専業農家も少なくありません。戸別所得補償制度の導入で米価下落のリスクがカバーされた結果、大規模化したいコメ専業農家が安心して集約化を進めることができました。これは「静かな農業の構造改革」とも呼べるでしょう。もう3~4年間、戸別所得補償制度が続いていけば日本の田の大部分が大規模なコメ専業農家の下に集約されたと思われます。

強制着陸策となった新農業政策

ところが、2013年12月、現政権は2014年度から新農業政策に転換すると表明しました。これで「固定払い」は1万5000円から7500円へと半減し、米価が基準価格を下回ったときにはその差額分を支給するという「変動払い」も廃止されることになったのです。また、戸別所得補償制度の縮減による休耕田の増加を防ぐため、食用米から家畜用の飼料用米(多収性米)などに転作した農家に対しての交付金を10アール(300坪)あたり最大10万5000円まで引き上げ、飼料用米(多収性米)などへの転作促進も図りました。ただし新農業政策に転換しても農業予算はほぼ同規模であり、交付金などの配分が変わっただけにすぎません。

現政権の新農業政策が表明された直後、私はこれが農業にどのような影響を及ぼすかを知るために、国会事務所に地元のコメ農家の3人(それぞれ1ヘクタール《3000坪》、10ヘクタール《3万坪》、50ヘクタール《15万坪》の農地でコメを生産)と農林水産省を招いて意見交換の場を設けたのでした。ここでの結論は、新農業政策は小規模のコメ農家を直撃するハードランディング策(強制着陸策)であるということが明らかになりました。

というのも、食用米から多収性米への転作はコストがかさむので難しいからです。多収性米は、茎が太いためにそれに対応したコンバインに買い換えなければならず、肥料もより多く投入しなくてはなりません。もともと経営が成り立っていない小規模農家でそんな費用を出せるはずがなく、転作交付金の多少の積み増しではとてもまかなえないのです。

したがって、その農地は転作も進まず農業も行なわれず、草ボウボウの耕作放棄地になります。しかも、この休耕田化のスピードも速くなるため、大規模化したい農家による農地の集約も間に合わなくなってしまいます。

休耕田対策と農地転用の促進が早急に必要

多くの小規模のコメ農家は、来年の作付けをどうするか悩んでいます。このままでは、人件費どころか減価償却費も捻出できない恐れがあるので、廃業する農家が急増することが予想されます。いったん耕作放棄地にしてしまうと再び農地として使うのは困難になります。まず、今後も農業を継続していただくためにも戸別所得補償制度を復活させることが必要です。また、仮に稲作を諦めるにしても、農地として貸し出せる状態にしておかなければなりません。当面、夏に数回程度はトラクターで耕運し農地としても維持するということであれば、国が助成措置をしてもいいのではないでしょうか。

もう1つは、農地の転用に対する規制を緩くすることです。地元では今、圏央道や上尾道路がかなり整備されてきました。湘南、筑波、成田空港などへとつながる圏央道沿いには活気が出てきて、圏央道沿いなら事業所や工場、研究所などを建てたいという企業の要望も強くなっています。道路整備には土地の買収に税金がかかりますが、農地転用を認めればそこに民間企業の資金が投じられるわけですから経済の活性化にもつながります。

政治がこの規制緩和に取り組まなくてはなりません。日本の農業政策をもう一度見直すだけでなく、日本経済の活性化にも結び付けていきたいと考えています。