【国会レポート】米国視察(後編)誰でも起業に投資する時代に【2014年8号】

米国のニューメキシコ州アルバカーキーはテキサス州ヒューストンとカリフォルニア州サンフランシスコのちょうど中間に位置する高原の街です。そこから車で2時間行くと原子爆弾開発で有名なロスアラモス研究所があります。今では当たり前になっていますが、目標を持ったプロジェクトを決められた期限までに終了するという革新的な研究手法を最初に編み出した研究所としても有名です。

私はここでロスアラモス研究所長と面会するとともに、福島第1原発の事故原子炉の内部を見られるようにする実証実験も視察することができました。これは宇宙から降り注ぐ素粒子の活用し、素粒子によって原子炉の分厚い金属を透過して炉心の様子を映像化することができます。基礎研究の積み重ねがなければできない技術です。

日本企業によるロスアラモスでの実証実験

次にロスアラモスの街で行なわれている日本のNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のスマートグリッド(通信・制御機能を活用して送電調整のほか多様な電力契約や節電等を可能にする電力網)も視察しました。ここは2012年から動き出し、東芝、京セラ、伊藤忠商事、NTTファシリティーズ、シャープ、日本ガイシ、NEC、日立製作所などの日本企業が参加して、太陽光発電や蓄電池を使っての送電調整の実証実験を行っています。米国内で高い評価を受ければ、世界中からの製品の引き合いも大いに期待できるのです。

環境はよくてもグーグルの仕事は厳しい

最後のサンフランシスコではその南東に位置するシリコンバレーを訪れました。ただしシリコンバレーは俗称であって、IT産業の研究所や関連企業が集まっているサンノゼ、マウンテンビュー、クパチーノなどの都市から成る地域全体を指しています。グーグル本社にも行ってみました。グーグル本社の敷地は広大な森のなかにあってまるで大学のキャンパスのようでした。高くても3階程度の建物が森のなかに隠れるように建っており、社員たちは敷地のなかをグーグルの色でペイントされた自転車に乗って移動しています。サッカー場やスポーツジムも完備しているほか、社内のレストランでは社員およびその友人はすべて無料だそうです。

またグーグルではそれぞれのリーダーの下で各種のプロジェクトが進められています。あるプロジェクトのリーダーの下で働いている部下が別のプロジェクトのリーダーから誘われた場合、その部下が望めば、現在のリーダーには何の断りもなく別のリーダーのプロジェクトに移動できると聞きました。となると、リーダーも優秀な部下が引き抜かれないように努力しなければなりません。

大学のキャンパスのような場所に社員にとって至れり尽くせりの環境が用意されている反面、仕事では成果が強く求められているわけで、何とも厳しい会社ではあります。

起業家による投資家への活発なプレゼン

シリコンバレーには世界中から起業しようという優秀な人たちが集まってきます。同時にそういう人たちに対して投資する人たちも少なくありません。私は会社に勤めていた20年前、会社として投資をしたベンチャー企業であるシリコングラフィックス社(3次元画像処理のパイオニア)の株主総会に出たことがあります。当時はベンチャーキャピタルや大企業よる投資が大半だったのですが、今、アメリカでは数百万円から数千万円単位の投資を行うサラリーマン層も増えてきました。

その投資関連でシリコンバレーにおいて盛んに行なわれるようになっているのがピッチ(Pitch)と呼ばれるイベントです。これは、事業のスタートアップ資金を募るために起業家が投資家に向けて行なうプレゼンテーションを指しています。

今回、私もこのピッチに向けてのプレゼンテーションを練習する場に立ち会いました。多数の投資家を前にして何人もの起業家がいかに自分の事業モデルが優れているかを3分間で訴えるのです。ですから起業家が20人なら1時間、30人なら1時間30分、ずっとプレゼンが続くことになります。たった3分間でその事業の善し悪しが投資家にわかるのかといえば、私の印象ではやはりわかると思いました。逆にいうと3分間で投資家のハートをつかめない事業モデルはヒットしないのではないでしょうか。プレゼンが終了すると、投資家は見込みのありそうな事業を提案した起業家と相対で交渉します。その結果、具体的な投資が決まっていくのです。

多くの面で米国の力は圧倒的である

シリコンバレーには起業家にビルの部屋を貸す家主もいます。私が会ったのは、グーグルが創業したばかりで社員もまだ3人だけだったときに部屋を貸したという家主です。

所有するビルはヨーロッパの電機メーカーのフィリップスの社屋を改築して建てられています。このビルの部屋は仕切りがなくオープンスペースで、今もグーグルのように起業前あるいは起業したばかりの会社が入っているほか、一般の企業や団体の店子もいます。日本関係ではパナソニックの駐在事務所や福岡県の事務所も入居していました。日本企業が入っているのはこのビルならシリコンバレーの動きを把握できるからだそうです。

今回の米国視察ではエネルギー、最先端研究、起業などの現状にふれることができました。それらも含めて多くの面で米国の力は圧倒的ですから、私も、米国経済は今後当分の間、好調に推移していくだろうとの思いを強くしたのでした。