【国会レポート】中東のパレスチナに対して日本はどんな貢献ができるのか【2014年6号】

私はこの夏、超党派8人の国会議員団の一員としてイスラエルとパレスチナを訪問しました。イスラエルは国際的に国家として承認されていますが、パレスチナには自治政府はあるものの国際的にはまだ国家とは認められていません。

イスラエルは四国ほどの広さ(人口約800万人)で、宗教はユダヤ教が75%です。一方、パレスチナは、三重県くらいの広さの西岸地区(同約280万人)と東京23区の6割程度の広さのガザ地区(同約170万人)に分かれています。アラブ人が主で宗教はイスラム教が92%です。

イスラエルの緊張感溢れる日常生活

今回の訪問の直前にイスラエル軍とガザ地区を実行支配しているイスラム原理主義組織ハマスとの間で戦闘が激しくなりました。6月末にイスラエル人少年3人が、7月初めにパレスチナ人少年1人が相次いで殺害されたという事件をきっかけに、イスラエル軍はガザ地区への空爆を開始し、ハマスはイスラエルに対してミサイル攻撃を始めたからです。

私たちがエルサレム郊外で昼食をとっていたときも突然、空襲警報が鳴り出しました。それですぐに建物の安全な場所に避難し、しばらくして外に出てみると、真っ青な空に迎撃ミサイルの雲の跡がジグザグ模様で残っていました。

つまり、ハマスがガザ地区から打ち込んだミサイルをイスラエル側はミサイル防御システムによって打ち落としているのです。イスラエルのミサイルは精度が高く、ハマスのミサイルの8割方は打ち落とされるとのことでした。日常生活は緊迫した空気に包まれています。

今回のイスラエル訪問の主な目的は(第2次世界大戦中にリトアニアの日本領事館でナチス・ドイツから逃れようとするユダヤ人を脱出させるために大量のビザを発行した)杉原千畝氏を記念するレリーフをイスラエル政府に寄贈し、同氏のビザにより逃れることができた方にお会いすることでした。イスラエルでの日程が終了すればそのまま日本に帰国することになっていたのですが、私1人だけ残ってパレスチナまで行くことにしたのです。なお、私の帰国後、副大臣や政務官のイスラエル訪問の予定は戦闘激化のためすべて取り止めになりました。

パレスチナの国づくりに日本が協力

日本製の四輪駆動車を改造した5トンもある防弾車に乗り、パレスチナの西岸地区をパレスチナ日本政府代表部の大使とともに視察しました。パレスチナ最大の難民キャンプも視察する予定でしたが、何があるか分からないとのことで断念せざるをえませんでした。

パレスチナでは常に水が不足していて、農業も地下水を汲み上げて行っています。今回、日本のODA(政府開発援助)で完成した下水処理施設を視察することができました。下水処理した水をふんだんに使って処理施設をオアシスのような緑の空間に変えれば、日本の貢献もはっきりと分かってもらえるようになるでしょう。このほか、農産物加工団地を造成している現場や遺跡に併設したビジターセンターなど日本からの支援を直接見ることができました。

イスラエルは親日的な国なので私も好印象を持ったのですが、パレスチナ側からイスラエルを見るとパレスチナの立場も理解できます。

紛争終結後は民政の安定が課題

ガザ地区を実効支配しているハマスは武装集団でもあり、パレスチナ自治政府の意向を無視してイスラエルに対してこれまで何度も武力闘争を挑んできました。このイスラエル対ハマスと同様に、世界各地で今起こっている武力紛争はすべてといっていいほど国家の軍隊対武装集団(あるいはテロ集団)の戦いになっていることが分かります。

ところが、軍隊はあくまでも国家間の戦争のための組織です。武力によって武装集団をいったんは制圧できるとしても、以後の治安維持ができないため、武装集団も勢力を盛り返してしまいます。それで武力紛争もなかなか終わりません。国の安定を考えれば、紛争終結後の民政の安定のためには警察力をどうやって充実させていくかが大きな課題となっているのです。

これまで日本政府はシンガポールやインドネシア、ブラジルなどへの交番制度導入に全面的に協力してきました。その結果、殺人事件の減少や非行防止で目に見える効果が出ています。

もちろん交番制度でテロ活動を直接抑えることはできません。また、導入には受け入れ国の体制もある程度しっかりしていなければなりません。けれども、交番制度が定着すれば民政は安定しますし、それは国の安定にもつながっていくはずです。パレスチナ自治政府が行政を執行している西岸地区についても、交番制度導入を働き掛け、かつそれを定着させることができれば、中東和平の一助になると考えます。

人道的支援を支えるパレスチナ研修生OB

一方、これまで日本政府は、太陽光発電、観光、選挙管理、上下水道、農業、母子保健など様々な分野でパレスチナから4400人(うちガザ地区からは400人)の研修生を受け入れてきました。現地では日本で研修を受けた研修生のOB会も結成されています。この度の紛争では、日本政府は、国連の枠組みでガザ地区への人道的支援を行なっています。ガザ地区の研修生OBとインターネットでテレビ会議を行い、その場で具体的に求められる救援物資を送っています。テレビ会議に臨むガザ地区の研修生OBの皆さんはヘルメットを着用しており、そうしたことからも現地の逼迫感がひしひしと伝わってくるそうです。

我が国は多くの国から研修生を受け入れてきました。各国に組織されているこのOB会のネットワークこそ我が国のソフトパワーなのです。地道な取り組みで培われたこのネットワークは我が国の存在感を高めるばかりか、平和な国際社会の構築にもつながっていくに違いありません。