【国会レポート】日本の産業発展を促していく3Dプリンターの大きな可能性【2014年5号】
政治は経済に影響されます。科学技術の成果はあらゆる場面で活用され、経済の動向を左右しますから、科学技術の動向をしっかりととらえておけば経済および政治がどうなっていくかも想定できるのです。そこで私は、最先端の研究や技術を見極めるために、時間を見付けては理化学研究所をはじめ官民を問わず多くの研究所を視察しています。今年もすでにJAXA(はやぶさを打ち上げた機関)や産業総合技術研究所に出向き、後者では朝9時半から夕方5時半まで12の研究テーマについて各研究者との意見交換を行いました。
そうした先端技術のなかで私が目下、強い興味を持っているのが3Dプリンターです。残念ながら最近3Dプリンターによる銃製作の容疑で国内初の逮捕者が出てしまいました。これは負の側面ですが、しかし3Dプリンターには産業発展を促す可能性があります。
樹脂原料と金属原料の2種類の機械がある
3Dプリンターとはコンピュータの設計データをもとにして立体の物を作り出す装置です。樹脂(プラスチック)や金属粉末を原料にし、まるで紙にプリンターで印刷するかのように原料を噴射して立体物を形成していくため(金属粉末の場合はレーザーで焼結させる)、この名前が付いています。樹脂を原料に使う3Dプリンターがアメリカ・カリフォルニア州で発祥し普及してきたのに対し、金属のほうは今のところヨーロッパのメーカーが世界で100%近いシェアを持っています。しかもドイツのメーカーがその8割以上を握っているのです。
従来、3Dプリンターについては金型(型枠)を作らないで済むため少量生産のコストを低減できるのが最大の利点といわれてきました。つまり、従来の工場生産では金型を作ってから製品を作るため少量生産では割高になるからです。
しかし3Dプリンターであれば金型や削り出しでは実現できない複雑な形状の製品も作れますから、コスト面ばかりか品質面でも大きな利点が得られるのです。たとえばメッシュ(網)の球体のなかにもう1つの小さな球体を入れたり、隙間のあるハニカム構造といった複雑な部材を成形したりもできます(重量の軽量化)。将来は、1つの部材において、部位ごとに、チタンや鉄、アルミなど様々な金属をミクロン単位で使い分けることができるようになるでしょう。
樹脂を原料とする3Dプリンターはすでに10万円を切って家電量販店でも購入できるようになっています。それに対し金属原料ですと安くてもまだ1億5000万円もします。
金属原料でリードしているのはドイツだ
産業発展の観点からすると日本も特に金属原料のほうで取り残されるわけにはいかないのですが、日本には金属原料の3Dプリンターを作るメーカーがまだほとんどありません。一方、ドイツのメーカーは1990年代後半から金属原料の3Dプリンターの開発に取り組んできました。これはドイツ政府が予算を付けて開発を促してきた国家戦略です。
会社員時代にドイツ駐在の経験のある私としても、ドイツのものづくりの力は侮れないと思います。鉄鋼や自動車関連の基本技術や基本特許を持っているのもドイツのメーカーなのですが、彼らは常に産業の根幹を押さえることを目標にしています。金属原料の3Dプリンターの開発もまさにその延長線上なのです。日本の強みはよく「工場現場での擦り合わせ」ということがいわれますが、ドイツは金属原料の3Dプリンターによって「擦り合わせ」ではない製造方法を確立して日本との競争に打ち勝とうとしています
日本はこのままでは3Dプリンターの開発に取り残されてしまうでしょう。しかし、現状であれば、精度や価格で追い付く余地が残っています。今年5月1日、金属原料の高性能3Dプリンターを開発するという目的で、経済産業省の音頭によって日本で産学官協力による研究組合「次世代3D積層造形技術総合開発機構」が発足しました。これには三菱重工、日産などの民間企業27社のほか、東北大学・近畿大学・産業技術総合研究所も参加しており、2年間で高性能3Dプリンターを実現しようという方針です。
三位一体による高性能機開発の推進
研究組合では機械本体だけでなく原料および設計ソフトの開発を三位一体で推進していき、それを通じて3Dプリンターの使いこなしのノウハウも蓄積していきます。実はこの使いこなしのノウハウこそが何よりも重要なのです。ノウハウの蓄積ができるのはやはり製造業の技術と経験を蓄積している国のメーカーに限られますので、今のところ世界中を見渡しても対応できるのは日本、ドイツ、アメリカのメーカーくらいに限られるのではないでしょうか。新興国のメーカーは容易には追い付けないのであり、日本としてもそれで新興国に対抗していくことができるのです。
また従来、戦場で使っている武器の部品が壊れるとその部品をわざわざ本国から取り寄せなければならなかったのですが、米国の情報誌の記事では、金属原料の3Dプリンターを戦場に持っていけば部品を現地で製造できるということが紹介されています。
以上のように3Dプリンターには様々な可能性があるわけですが、同様に今後も有望な科学技術の動向には常に目配りしていこうと決意しています。成長戦略は役所に任せるのではなく、政治家が自ら描く時代なのです。