【国会レポート】所信表明演説を聞いたことがありますか?【2000年2号】

9月21日から12月1日まで72日間の日程で第150臨時国会が開かれています。この国会初日、森喜朗首相は衆議院本会議で40分ほどにわたって所信表明演説を行いました。首相の所信表明演説というのは会社で言えば社長の年頭挨拶のようなものです。

年頭挨拶で社長が1年間の会社の経営方針を明らかにするのと同じく、所信表明では我が国の抱えている問題を指摘し、今後どの方向へと舵取りしていくのかを首相が語るわけです。

自分の言葉が臨場感を生む

国会に臨んで聞いた森首相の所信表明演説では、民主党の議員はもちろんのこと、自民党席に座っている議員も皆つまらなそうな顔をしていました。

なぜつまらなかったかと考えてみると、森首相が自分の言葉で語っていないからです。首相が自分の言葉で語るためには、各大臣と各省庁を説得し、自分のやりたいことを理解させて従わせなくてはなりません。気力とやる気が必要です。ところが、今回の所信表明演説では、森首相自身がやりたいことではなく、逆に各官庁がやりたいことを持ってきてそれをホッチキスで留めたものを棒読みしているだけなのです。

ともあれ、所信表明演説は国の方針を開示する非常に重要なものに違いありません。本来の意味から考えれば、自分はこの国をどうしたいのか、自分の哲学と実現への指針を問う機会なのです。

首相の所信表明演説に対しては、数日おいて野党は質問という形で異議を唱えます。通常は、野党各党の代表がそれぞれ1回ずつ質問し、それに首相が答えて終わりになるのですが、今回は民主党の岡田克也政調会長が再質問、再々質問をしました。これは、土井たか子氏の再々質問以来12年ぶりの快挙と聞かされ、この12年間にわたり一つの再質問も無かったのかと、きわめて不思議と感じました。

論戦こそが国会を面白くする

再質問に対しての首相の答弁は用意されておりません。森総理を見ますと、今度は、真剣にメモを取りながら岡田政調会長の質問を聴いています。森総理も自分の言葉で答えるので、格段に緊張感があります。国会は言論の府だということ、議員同士が意見を戦わせる場だということを再確認したのでした。

自分の言葉で議論をして意見を戦わせれば、いくらでも国会は面白くなります。そういう意味で、私も自身も国会の場で大いに意見を戦わせます。

民主党国会議員団の一員として国交関係のない台湾を訪問

国会議員には海外視察の機会があります。国会閉会中の8月29日から9月1日まで台湾を訪問しました。私にとって台湾は初めての地です。

国会議員の海外視察には大きく二つに分類することができます。自分が所属している国会の委員会の一員として国の費用で行く視察と、所属政党の一員として行く視察です。今回の台湾訪問は後者で、民主党としての視察でした。もっとも、この閉会中に民主党が訪問計画を立てたのは台湾だけではありません。いくつかの国のなかから、私自身が台湾行きを決めました。

先だっての総選挙直前に李登輝元総統の『台湾の主張』という本を読んで、台湾をとても身近に感じました。そして、この機会に台湾の人たちが何を考えているのか、日本と中台関係はどうあるべきか、実際に確かめようと思ったのです。

活発な議員外交を中心に展開

周知の通り、現在、日本と台湾との国交はありません。1970年代末にアメリカが台湾と国交断絶して以来、台湾と国交関係を維持している国は少数派なのです。しかし、台湾は国交のない国との間では議員外交を活発に行っています。むしろ国交のない国のなかに有力な国が多いため、台湾はそうした国から議員を招いて密接な関係を築き、自分たちの国を国際的に認めてもらおうという形の議員外交を中心に置いて国の外交を展開しているのです。

私たちは十数人の民主党国会議員団で台湾を訪問したのですが、台湾側は非常に気を遣ってくれて、李登輝元総統、陳水扁総統、国民党の連戦主席など台湾の重要な政治家すべてに会うことができました。

会った印象ですが、李登輝元総統には教養に裏付けられた強い意志を感じました。陳水扁総統は、40代後半で当たりが非常にソフトで、連戦主席は政治家というより有能な官僚といった雰囲気でした。

この3人のうち、私はやはり李登輝元総統に政治家として強く惹かれました。そして、特に李登輝元総統の次の言葉が私の脳裏に強く残っています。

「大陸の中国にはすでに5〜6000万台もの携帯電話が普及している。アジアでは日本についで2番目だ。最近、中国で軍の汚職があった。昔なら隠し通せたが、携帯電話の普及によって情報伝達力が進んだため、軍の汚職もすぐに人々の知るところとなった。IT(情報技術)の発達が政治に影響を及ぼす時代になってきている」。李登輝元総統はもう80歳近いのにIT(情報技術)の持つ意味を驚くほどよく知っていました。

台湾の面積は日本のおよそ10分の1、人口は約2200万人です。台湾人というのは一つではありません。台湾の国民の85%は昔から台湾に住んでいた内省人と呼ばれる人たちです。終戦直後に中国大陸から台湾に渡ってきた人たちが外省人で国民の13%を占めています。残り2%がポリネシアン系の先住民族です。

ドイツとはかなり異なる中台関係

また、台湾と中国とがすぐに一緒になるのは難しいだろうとも思いました。私がサラリーマン時代に仕事で西ドイツに駐在していたとき、東ドイツに出張したことがあるのですが、東ドイツの人々と接して、同じ民族であり、東西ドイツは将来一緒になるだろうと肌で感じました。東と西に分断されてはいても、国民としての思いが同じだったからです。ベルリンの壁が崩れたときには、震える感激がありましたが、違和感はまったくありませんでした。

ところが、今回、台湾に出張してみて、台湾と中国の人の考え方はかなり違うと感じました。それに今すぐ強引に一緒になる利益は両国ともありません。中国が台湾を占領したとしても国際的な反感を招くだけだし、台湾にとっても中国が民主化されないうちに一緒になっても不自由なばかりです。

5000年の歴史があるわけですから、しばらくは台湾と中国とはお互いにうまく調和をとりながら共存していくのではないでしょうか。