【国会レポート】国会議員の仕事は立法と行政の監視【2000年3号】

私が当選して初めての本格的な国会(今年9月~12月)。その労働委員会で質問に立ちました。対象はKSD(ケーエスデー中小企業経営者福祉事業団)問題です。質問時間は合計80分間ですが、私も含めて与野党30人の労働委員会メンバーの中で80分間というのは一番長い質問時間だったということになります。周知のように、KSD問題の疑惑の中心は、KSDの古関忠男前理事長(すでに逮捕)が、全国の中小企業経営者から集めた250億円近い巨額資金を私的に流用したり政界への献金に使って私利をむさぼっていたのではないかという点です。

KSD問題で資料を読み込み、現場に飛ぶ

9月にKSDの名前を新聞で目にしたとき、KSDが労働省所管の公益法人だということを知っていた私は、労働行政に携わる議員であり野党の一員である立場として、この問題を労働委員会で徹底的に追及しなければならないと強く思いました。そこでまず国会図書館に対しKSD関係の新聞記事や雑誌記事の資料を集めるようにと要請したところ、3日後にKSD関係の記事が手元に届きました。さらに、KSDの事業報告書をはじめ各種の関連資料を衆議院調査室に依頼して取り寄せました。

これらの文書資料を読み込み、古関理事長が7,200万円もの高額の給与をもらっていること、KSDには労働省や大蔵省からの天下りが多いことなどの事実が分かってきました。しかし、文書資料だけではもう一つ手応えがありません。実際に現場に調査に行くことにして、さっそく墨田区のKSD本部ビルまで足を運びました。本部ビルは関係者以外立入禁止だったものの、玄関フロアにはKSDの入会パンフレットが置いてあったので、それを入手してきました。

周辺のビルも探索したところ、KSDブライダル、KSDツーリストなど多数の関連会社やアイム・ジャパン(中小企業国際人材育成事業団)といった関連財団があって、まさにKSD村状態でした。アイム・ジャパンはインドネシアなどから研修生を受け入れて会員企業へ派遣している公益法人です。議員会館に帰ってからは、すぐに関連会社の役員名簿を私の事務所のスタッフに取りに行ってもらったり、アイム・ジャパンの事業報告書を衆議院調査室を通じて取り寄せました。

以後も、KSDの軽井沢寮を見るために長野県の軽井沢に出かけ、アイム・ジャパンの研修生を受け入れている企業の調査のために同じく長野県の塩尻に行くなど、何日もかけて徹底した現場主義を貫き、労働委員会での質問に備えたのでした。

さて、質問の模様をご紹介する前に、国会議員の仕事にちょっとふれてみます。一般の人がイメージするのは議会での質問と投票行動くらいではないでしょうか。しかし、大きな枠組みでは、「立法」と「国家行政の監視」の二つが国会議員の仕事だと言えます。

まず法律を作る場合、国会議員や政府が法律案を国会に提出します。その法律案に対して議員が質問し、提案者の議員や大臣や官僚が答弁するという委員会審議を経て最終的に本会議で議決され法律ができ上がります。政府の法律案には政権与党の意向が色濃く反映されていますから、政府の法律案は政権与党の法律案でもあるわけです。裏を返せば、与党に比べて議員数がもともと少ない野党が法律案を出したとしてもなかなか国会を通すことはできません。

政府ではなく議員が法律案を出して立法する議員立法は、この比率は政府提出の数と比べて低いし、ましてや野党の議員による議員立法は大変難しい。要するに、立法で優位なのは国会で過半数を取っている与党なのです。野党民主党に所属している私の立場だと、立法も大切ですが政府のおかしいところを質すこと、すなわち国家行政の監視のほうに大きな比重をおいています。しかしこれこそ野党にしかできない大事な役割なのです。

労働問題と国の決算のチェック

議員にとって立法および国家行政の監視の主な舞台となるのが国会の各委員会です。私は現在、衆議院の「労働委員会」と「決算行政監視委員会」に所属しています。私が労働委員会を選んだのは、選挙公約でもある有効な雇用対策を実施するとともに、これから減っていく労働者人口に対応し、かつ生涯教育としての職業教育を充実させなければならないと考えているからです。労働委員会で扱う問題は21世紀の日本の基盤自体に関わってきます。

決算行政監視委員会は、国家の決算をチェックする委員会です。決算重視の会社に比べ国会では予算ばかりに目を向けがちですが、私はサラリーマンでしたから、むしろ国の予算が実際にどう使われたかという決算のほうも非常に重要だと思い、この委員会に入ったのでした。

この二つの委員会で労働省と大蔵省の大臣や官僚に質問し彼らの考えを引き出すことによって国の行政のおかしな部分を改めていくわけですが、委員会では法案審議もありますから、法案に意見を言うことで付帯条項を付けたり、法案の解釈を確定させるということも行います。

委員会で質問したり意見を述べたりするためには、対象となる問題について前もって調べておかなくてはなりません。そこで、威力を発揮するのが国会議員の「国政調査権」です。これを用いて各省庁の官僚から対象となる問題についての詳しい話を事前に聞くことができます。

2日間で合計80分間もの質問時間

いよいよ労働委員会のKSD問題に関する質問の日です。11月8日と11月15日にこの問題の審議が組まれていました。最初の11月8日は私が希望して50分の質問時間をもらいました。相手は、労働省の労働大臣と官僚のほか、私の要望で答弁席に座った金融再生委員会政務次官、法務省、文部省の官僚です。

質問は多岐に渡ったのですが、一例を挙げると、軽井沢のKSDの寮について労働省官僚とこんなやりとりをしました。(私)「軽井沢のKSDの寮はどういう使われ方をしているのですか」。(労働基準局長)「KSDの保養所です」。(私)「本当にそうですか。そこに実際に行って見てきたら、年配の人たちがゴルフに来て、宿泊していますよ。寮どころか、古関理事長が私用に使っている」。(労働基準局長)「そういうこともあって、改善勧告を出していました」。つまり、労働省の官僚は自分たちの監督責任の非は認めないものの、私が現場を見てきたことによって言い逃れができず、私用されていたことは認めて、改善勧告を出していたことを明らかにしたのでした。

11月15日、再び私は30分の質問時間をとってもらいました。このときは、アイム・ジャパンの問題が中心です。私が長野県に行ったときに実際に研修生の受け入れ先企業の関係者と話をしたところ、機械作業や産廃の仕分けをしているとのことでした。これはもう立派な労働です。しかも、その受け入れ先企業はアイム・ジャパンに月18万円を払っており、そのうち8万円は研修生に渡りますが、残りの10万円はアイム・ジャパンに入るのです。10万円をピンハネしていることになります。

質疑を通して浮き彫りになった疑惑

私は以上のような調査結果をふまえて質問に入りました。「研修生にもかかわらず立派な労働をしている。本当に研修ですか」と訊いても、労働省の官僚は最後まで「研修です」と言い張りました。そこで、「不法就労の人が1日でも働いて労働災害を起こしたら労災保険の適用があるのに、この研修生にはそれがない。労働をしているのに研修生だとたとえ死んだとしても労災保険が出ないとしたら、非常にアンバランスです」とした上で、「このような研修生の制度を作ったことに無理がある。無理は平成4年の制度改正のときに起こりました。当時の労働大臣は誰ですか」とたたみかけました。

これに対し、労働省の官僚は顔をしかめて悩んだ後に「村上(正邦)労働大臣です」と答えたのです。村上正邦参議院議員は、KSDから政治献金を受けており、それにまつわる疑惑が取り沙汰されていました。以上のような、私と労働省官僚とのやりとりによって、アイム・ジャパンのための研修制度創設に当時の村上労働大臣が尽力したのではないかという状況証拠が浮かび上がってきたのでした。しかも、このやりとりは、労働委員会の議事録に残るので、今後の疑惑を追及する上で非常に大きな意味があります。

今回の労働委員会の質疑を通じて、私は、やはり官僚は現場に弱いのだということがよく分かりました。サラリーマン時代、営業もやったし、管理部門にいたこともあります。管理部門は、営業マンから「お客さんの実際の要望を聞いてきた」と言われると反論できません。官僚は、いわば国の管理部門の人間です。だから、「見てきた」「聞いてきた」「調べてきた」というのに弱いのです。今後とも私は、現場主義を貫く議員として全力で活動していきます。