【国会レポート】改革で小泉首相に求められる国家予算のシェアの見直し【2001年5号】
4月26日に発足した小泉新内閣はどの世論調査を見ても80%前後という高い支持率を得ています。この人気は、政治の構造改革を掲げた小泉純一郎首相に対する国民の強い期待感の表れにほかなりません。
では、小泉首相の主張する構造改革の根本は何でしょうか。それは、国家予算の使い途を従来と変えるということです。予算の使い途は各省庁ごとにシェアが決まっていて、このシェアは毎年ほとんど変わりません。シェアを変えるのは、族議員やその意を受けた各省庁の激しい抵抗があるので、非常に難しいと言われてきました。
5月9日、衆議院本会議での代表質問に対して、小泉首相は「歳出の徹底した見直しをやる。ただし、今までよくとられていた手法として各省庁一律削減という方法はとらない。増やすべき予算がある、そうすると減らさなければならない部分がある」と答弁しました。要するに、必要なところには予算を付け、そうでないところは予算を削って、各省庁ごとの予算のシェアを変えるということで、これがもしも達成されたとすれば日本の政治ではまさに革命的なことなのです。
高度成長がつくった成長神話
とはいえ、なぜ予算のシェアを変えなくてはならないのかという素朴な疑問を持つ方もいるでしょう。確かにシェアが固定していても日本経済が順調に伸びていけばそれでいいという考え方も成り立ちます。実際、1950年代から70年代まではシェアが固定した中でも公共投資として橋や港湾、道路などの建設に予算を投じると、それ以上の税収入が得られて経済が伸びていきました。
日本の人口は100年前が約4,200万人、55年前が約7,200万人、昨年が1億2,690万人で、戦後約5,000万人も増えました。とりわけ終戦直後に生まれたベビーブーマー世代が成人して消費を引っ張り始めた60年代から70年代にかけては、国の予算投入に対する税収のアップ効果も非常に大きくなったのでした。この時期が高度経済成長期です。公共投資が効果的に経済成長を促したため、日本の政治の中に、公共投資をすれば経済が成長するという成功神話ができ上がったのでした。
この成功神話に踊ったのは民間企業も同じです。後先を考えないでどんどん巨額の投資をするだけで企業は成長していき、また、そうした投資を強力に押し進めた人が出世していったのでした。
ところが、日本の経済成長も80年代以降になると頭打ちになってきました。企業でも投資額に見合うだけの利益が得られなくなったのです。そのため、90年代に入ると、経営者も従来の投資姿勢を改め、先を見て必要な投資をするように変わっていきました。
一方、従来通りの公共投資をしても税収アップに結びつかなくなり、投資対効果が非常に悪くなってきたのは国も同じです。それでも90年代以降も、例の成功神話にとらわれ続けて、予算のシェアを見直すこともなく国の財政悪化もおかまいなしに国債を増発して従来通りの公共投資に没頭したのでした。景気が悪くなると景気刺激のためだとしてなおさら拍車がかかるばかりで、その公共投資が本当に必要かどうかなどまったく考慮されませんでした。しかし、結局のところ、ここ10年間、景気は上向いておりません。
そうなったのはやはり予算のシェアが固定化しているために無駄なところにお金が使われてきただけだからです。たとえば前の森政権でも昨年、北陸新幹線や九州新幹線のフル規格での整備などが決定され、今年度より3線6区間の建設を推進することになりました。この区間には森喜朗前首相の地元である金沢も含まれています。2兆数千億円もの投資が必要なのですが、これらの区間に新幹線を走らせたとしてもそれに見合うだけの税収増は期待できません。2007年から人口は減り始めますので、乗る人も少なくなります。
会社ですと予算の使い途は簡単に変えられます。なぜ国の予算のシェアは変わらないのか。会社と違って国会で関連の法律を何本も通す必要があるからです。シェアを変える法律を通すためには予算の使い途に関わる利害関係をすべて見直さなければなりませんが、そのときに族議員やその意を受けた各省庁の激しい抵抗があり、法律が通らないか、通っても骨抜きになってしまいます。だからこそ、予算のシェアを変えるのは非常に難しく、変われば革命だとすら言われるのです。
抵抗する勢力との戦いも覚悟の上で構造改革を行い、予算のシェアを変えて、必要なところだけに予算を振り向けることを主張しています。そうすれば、日本経済はまだまだ伸びていくはずなのです。
テクノロジーに対応させる人材投資を
大島は今一番必要なのは人材投資だと考えています。これまで無駄なところに投じられてきた予算を今度は人材投資に積極的に振り向けるということです。でないと、テクノロジーの進歩についていけない人たちがさらに増えて、失業率も一段と悪化していくでしょう。
20年ほど前なら、サラリーマンも新しいテクノロジーに対応するための勉強をそれほどしなくても仕事がこなせました。しかしここ10年間、テクノロジーは、「半導体の性能と集積は18か月ごとに2倍になる」というムーアの法則の通りに急激なスピードで進歩してきました。
テクノロジーの進歩でパソコンが日常的に仕事で使われるようになりました。しかし、340万人もの失業者や、さらに社内失業者も含めると400万人から500万人もの人たちがテクノロジーの進歩のテーブルから落ちてしまっています。その人たちに再びテーブルに乗ってもらいましょうというのが大島の主張する人材投資なのです(具体的な内容については前号の「政治にパンチ」でふれています)。2007年から人口が減り始める日本の明日を担ってもらうために、これにできるだけ早く取りかからなければなりません。
なお、スウェーデンは10年前に徹底的して人材投資を行ったのですが、その結果、8%前後でずっと推移してきた失業率は1999年には5.8%まで下がったのです。(第2図参照)。
さて、話を戻します。小泉首相が「歳出の徹底した見直しをやる」と答弁したとき、実は自民党席では、拍手一つ起こらず非常に白けた冷たいムードが漂っていたのでした。とても自分の党のトップに対する態度だとは思われません。つまり、国会議員の事務所維持などのために年間何億円もの政治資金が必要な自民党議員にとっては、予算のシェアを変えると、関連業界・団体などからの政治資金が止まってしまうので、非常に大きな痛みがあります。彼らは本来、そんなことは絶対にしたくないのです。
大島はかつて勤務した鉄鋼会社で社内改革に関わって、内側からの改革がいかに難しいかを身をもって体験しました。改革のコンサルタントとして大手コンサルティング会社も入ったのに失敗に終わりました。小泉内閣のコンサルタントは、さしずめ経済財政政策担当大臣に就任した竹中平蔵氏でしょうか。改革の成功を目指し内閣を挙げて取り組んでほしいと思います。
本当に改革するならば小泉首相に共感する
ただし、ここで注意しなければならないのは、日本は首相が国会議員によって選ばれる議院内閣制だということです。アメリカ大統領あるいは石原慎太郎東京都知事、田中康夫長野県知事のように有権者から直接選ばれたリーダーならたとえ議員たちが反対しても有権者の強力な支持を背景にして改革を断行できるでしょう。
しかし、小泉首相は有権者ではなく自民党を中心とする政権与党の国会議員によって選ばれました。まるで国民投票であるかのようにマスコミが報道した自民党総裁選も、現実の姿は自民党国会議員が投票の大多数を占める党内選挙でした。その自民党では今なお橋本派が最大派閥として隠然たる力を維持しています。改革を嫌う旧態依然とした自民党議員が多ければ、彼らに足を引っ張られて改革への道のりは険しいのです。
いずれにせよ、小泉首相の改革に大島も共感します。そして、「痛みを伴う」ことは重く受け止めなければなりません。政治は弱者のためにあるのですから。大島は当選以来、資金集めパーティなどは一切やってきませんでした。特定の業界団体から政治資金を受けていないからこそ、「公正に」改革の実現に全力を注ぐことができるのです。