【国会レポート】国会審議にサラリーマンの気持ちが反映されない理由【2001年6号】

早いもので衆議院議員になってからもう丸1年が経ちました。150日間の会期日程で1月31日から始まった今通常国会において大島は衆議院の厚生労働委員会に所属し雇用対策関連法案、企業年金法案、ハンセン病問題などの審議に取り組んできました。これまで質問に立ったのは15回。これは新人議員はもとより480人の衆議院議員の中でもトップクラスの質問回数です。できるだけ多く長く質問することが選挙区の有権者の意見を最も効率的に政治に反映できる、そう考えた結果でした。

さて、俗に「日本版401k」と呼ばれる企業年金の法案がこのほど衆議院本会議で可決されました。本会議での可決の前に厚生労働委員会で審議されたのですが、そのときに大島は、第一に「自己責任の重大性」、第二に「サラリーマンの気持ちが本当に法案に反映されているのか」について深く考えさせられたのでした。

第一の点にふれる前に日本版401kの説明をしておきましょう。この法律の正式名称は「確定拠出年金法」。これまで日本の企業年金制度は将来の年金支給(給付)額があらかじめ決まっている確定給付型だけでした。しかし、日本版401kは、アメリカの内国歳入法401条k項に基づく年金プランを下敷きにしたもので、年金加入者の自己責任で年金の積立金の運用方法を選ぶ点に最大の特徴があります。

日本の法律で初めての「自己責任」

それで「自己責任の重大性」ということについてですが、日本版401k法案には「・・・個人又は事業主が拠出した資金を個人が自己の責任において運用の指図を行い・・・」という文言が入っています。「自己の責任」という言葉が日本の法律史上初めて用いられたという意味で特筆すべきことです。

では、自己責任とは何か。たとえば、欧州でアルプスに登ると道脇の柵の前方に切り立った崖のある場所が多いのですが、そこには「自己の責任において」この柵を越えて落ちて死んでもあなたの責任です、という看板があります。また、大島がドイツにいたとき、道に飛び出してきたドイツ人の子供を日本人駐在員の運転する車がひき殺したという事件がありました。こうした場合、日本だと処罰されるのは運転者ですが、ドイツだと飛び出してきた子供に責任があります。そのうえ、日本人駐在員の弁護士は「ひき殺した車のバンパーが凹んだので、死んだ子供の両親に対して損害賠償をしましょうか」と言ったそうです。

以上のような例での自己責任と日本版401kの下で年金の運用方法を選ぶときの自己責任とは別のものではありません。同じです。加入者が自己責任で運用方法を選んだ結果としてうまくいけば、その加入者は予想以上に多くの年金を老後に手にできます。反対にうまくいかなければ、積み立てた総額よりも少ない年金しかもらえません。この資金運用の有力な受け皿は株式市場と連動している株式投資信託ですが、そこに大きなリスクが伴っているのは周知の通りです。

バブルは忘れた頃にやって来る

日本版401kでは、企業の労使の合意を前提として運用する商品の中にハイリスクな商品も入れてもかまいません。今はバブルの時代ではありませんから、皆さんはリスクの小さい固い商品での運用を心がけるはずです。けれども、著名な経済学者のJ・K・ガルブレイスは『バブルの物語』(ダイヤモンド社)という著書の中で「忘れた頃にバブルは来る」と指摘しています。バブル期に大きく儲かる商品というのはそれだけリスクも高い商品なのです。長年、固い商品で運用してきたのに、突然起こったバブルに心を奪われてリスクの高い商品に乗り換える人もいるでしょう。そのバブルが弾けて株が暴落したら年金が激減するといった悲惨なことになります。

日本版401kを審議する厚生労働委員会では、皆さんご存じの民主党衆議院議員、岩國哲人氏も質問に立ちました。岩國氏は、自己責任の本家アメリカでメリルリンチという証券会社に30年間勤めた経験を持っています。その委員会に出席していた議員や役人のほとんどは、岩國氏が自己責任を積極的に評価するだろうと思っていたはずです。私もそうでしたから。

ところが、岩國氏は「日本ではまだ企業同士の株式の持ち合いが解消されておらず、個人株主の比率も低く、特殊法人も含めた政府の事業部門は非常に多い。このような社会主義的な国において自己責任を基本とする401kのような年金制度を採用している国が他にどこにあるのか」と発言したのでした。岩國氏が慎重な立場を取ったのは、私はもちろん、おそらく他の出席者にとっても大きな驚きでした。自己責任の重みを非常によく知っているからこその発言でしょう。

今の日本経済の状況は、日本という船に穴が空いて浸水し沈没しそうになっているときに、「自己責任で岸まで泳げ」と弱い者からどんどん海に放り出しているようなものです。

修正の余地を残して日本版401kに賛成

今回の日本版401kの法案は与党が提出したもので、条文に修正を加えて不十分な点を解消できる余地も多かったと思います。たとえば、ハイリスクな商品について一定の規制を設けてもよかったのではないでしょうか。

大島は、この日本版401kについては法案審議の中で「できるだけリスクがないような年金運用が行なわれるように、提供される商品は限定されるべき」と審議の過程で、金融庁からの答弁も交え多角的にその危険性を指摘した上で、最終的にはこの法案に賛成しました。

現在、老後の蓄えについては退職一時金と企業年金を基本としてさまざまな細かい制度が整っています。日本版401kというのはあくまでも労使合意を大前提として老後の蓄えのメニューの一つということなのです(逆に言えば、日本版401kを導入しないと労使で決めてもかまいません)。これが賛成した理由の一つです。

もう一つは、日本版401kだと転職しても年金の積立金をそのまま新しい会社に持っていけるからです(ポータビリティ)。従来、転職で年金の積立金は一時金として払われゼロになってしまったのですが、そのデメリットが解消されるということになります。

とはいえ、もちろん大島としても修正によって完璧な日本版401kの法律ができる可能性があるなら、どのような努力も惜しみません。しかし、今の国会審議では個々の法案に対する修正は不可能なのです。いったん与党側から法案が提出されたら、与党が多数を持っているので、そのまま無修正で国会を通ってしまうのがほとんどです。野党の議員としては賛成か反対かという二者択一をしなければなりません。したがって、今回、大島は上記の理由から容認できる範囲だとして賛成という選択をしたのでした。

サラリーマンの代表者は一体どこに?

大島は鉄鋼会社に14年間、金融機関に5年間の計19年間ものサラリーマン経験があります。第二の「サラリーマンの気持ちが本当に法案に反映されているのか」という点については、日本版401k法案の審議を通じて日本の国会では法案にサラリーマンの気持ちは反映されていないと結論せざるを得ません。大島はサラリーマン時代、なぜいつもサラリーマンが虐げられているのか、なぜ一生働いても小さな家しか持てないのかと疑問でしたが、国会に来てみてその原因がよく分かりました。要するに、サラリーマンそして零細自営業を代表して発言する議員があまりにも少ないのです。

役人、専門家の審議会、党の部会、国会の委員会等を経て法律はつくられるのですが、その過程には企業である程度の年月働いた経験があるような人間はほとんど関与していません。役人は一般のサラリーマンとは別世界のエリート、専門家の審議会の委員は大学教授や著名人(年金法案などの場合は労働組合の幹部)、党の部会や国会の委員会の国会議員にも一般のサラリーマン出身者はほとんどいません。ちなみに民主党の43人の新人議員のうち10年以上民間企業のサラリーマン経験があるのは大島くらいです。とりわけ日本版401kについては、サラリーマンの年金の話なのにその経験者が立法過程にほとんど関わっていないのは非常に不自然なのではないでしょうか。

議員の4分の1をサラリーマン経験者に

たとえば、サラリーマンには、3年ごとに人事異動があり、3回に1回は馬の合わない上司の下で働かなければならないという経験則があります。そうしたサラリーマンの悲哀は経験者でないと理解できないでしょう。だから、大島はサラリーマンの悲哀が分かる国会議員がもっと増えるべきだと思います。

男女共同参画社会で議員の4分の1は女性にすべしというクォーター制が主張されていますが、同様に議員の4分の1をサラリーマン経験者にしないとサラリーマンの権利は守られないのかもしれません。