【国会レポート】信頼感を活かしてこそ担える国際貢献での日本独自の役割【2014年4号】
昨年8月15日の終戦記念日にNHKスペシャル「シリーズ日本新生・戦後68年/いま、“ニッポンの平和”を考える」を観ていたら、岡本行夫氏(外交評論家)など、出演者がひと言も反論することなく、ある人物の発言に熱心に耳を傾けていました。それが伊勢崎賢治さんで、著名な出演者が黙って拝聴しているなんて珍しい、ぜひ直接会ってみたいと思い、伊勢崎さんに連絡して9月にお会いし、いろいろと意見交換をしたのでした。
伊勢崎さんは現在、東京外国語大学教授ですが、以前から国際NGO職員の立場で世界各地の紛争処理に関わってきました。2003年2月から2005年7月までは当時の川口順子外務大臣に頼まれてアフガニスタンでの武装解除の責任者として自ら当たったのです。この武装解除が成功した理由について、伊勢崎さんは「アフガニスタンの人々が日本に対して強い信頼感を持っていたことが大きかった」と言っています。
信頼感につながった経済力と平和的な姿勢
では、日本に対する信頼感とはどういうものなのか、伊勢崎さんの話を総合すると次の通りです。
「アフガニスタンの人たちにはまず、第二次大戦後の廃墟の中から世界の経済大国にまで成長を遂げた日本の経済力に対する尊敬の念がある。それは彼らが、価格が安く高性能で壊れないソニーやトヨタなどの製品に実際に触れてきて醸成されたもので、また、日本はODA(政府開発援助)等でもアフガニスタンをはじめ多くの発展途上国を大いに助けてきた。もう1つは、戦後、日本は国として国際紛争に武力で関わることがなかった。つまり、経済力があって平和的な姿勢を保ったことが日本という国への強い信頼感につながっている。アフガニスタンの各部族の長も『日本人が武装解除をしたほうがいいと勧めるなら、その通りにする』といって快く武装解除に応じてくれた」と。
そして、日本のODAについては、外務省分も含む政府全体のODA予算は1978年度の2332億円からどんどん増えていき、1997年度には1兆1687億円というピークに達しました。しかし以後、日本の財政状況が悪化したことから減少に転じて、2014年度には5502億円にまで減ってしまっています。ただし日本のODAの場合、ODAの出し方にも特徴があって、相手の国の国民に、たとえば「この橋は日本のODAで建設された」などと表立ってあからさまに主張するようなことはしてきませんでした。これには「もっと日本のODAが出ていることを相手国の国民にも知らせるべきだ」という意見もあるのですが、これまで、あからさまに主張しなかったからこそ日本のODAは恩着せがましくなく、逆に相手国の人々から尊敬される要因にもつながっていると思います。「これだけ貢献したのだから応分の対価を払え」というギブ・アンド・テイクが西洋的価値観だとすれば、「応分の対価を求めない」のが東洋的価値観と思います。
日本の信頼感を平和構築に活かす議論を
いずれにせよ、アフガニスタンだけではなく、特にアジアや中東などの多くの国々が日本に対して信頼感を持っています。とすれば、それは日本の貴重な財産であり、この財産を活かして今後とも国際的な貢献をしていくべきではないでしょうか。日本の経済力や医療など先端的な技術力を前提とした貢献が国際的にも一段と強く求められてきていると考えます。
別の面からいえば、たしかに欧米先進国も経済力や技術力はありますが、国際紛争に武力で関わってきた国々ばかりなので、その点での信頼感は日本には及びません。たとえばアメリカも世界の超大国として平和構築に多大な貢献を果しています。しかし、伊勢崎さんによれば「アフガニスタンの武装解除は武力行使ばかりしてきたアメリカにはできない」そうです。このようにアメリカができないことでも日本なら十分に担っていける役割があり、逆にいえば、世界も日本に対してアメリカとは違った役割を求めているといえるでしょう。アフガンでの武装解除の例のように、アメリカにとってもそんな日本独自の役割を活用したほうが世界の安定につなげられるという点で日本の活用は戦略上の重要なオプション(選択肢)になるとも考えられます。つまり、その意味で日本はアメリカが担えない役割を補完するわけですから、それが日米関係をさらに深化させていくのではないでしょうか。
また、日本の宗教界の方々がキリスト教やイスラム教など世界の宗教指導者と会い、話し合い、時には協力を得て国際会議を主催できるのも、先に述べたような日本に対する信頼感が前提となっていると思います。
戦争は外交の失敗です。戦後、日本人自身は意識していないけれども、世界の人々は日本に対して、一貫して平和的な姿勢を維持してきたことへの強い信頼感を持つようになっています。これは戦後の日本が築きあげてきた外交上の貴重な資産であり、その資産を毀損させず、むしろ積極的に平和構築や国際貢献に活かしていかなければなりません。日本の政治も今後、そのことについての丁寧な議論を優先していくべきと考えます。