【国会レポート】抜本的な雇用対策こそが人々の不安を解消する【2001年12号】
秋には地元の各地で商工祭りや文化祭などさまざまな催事が行なわれます。大島は時間の許す限りそうした催事にうかがって、皆さんとお話する機会を持つようにしています。訪問先でご家庭から発せられる声をお聞きすると、ハッとさせられる事がよくあります。政治家としての原点を再確認する瞬間です。
催事から催事への移動中、秋になると至るところで美しい紅葉に出会うことができます。とりわけ秩父の山に沈む陽に照らされた紅葉はすばらしい。しかし、その光景を見ると、大島は、6年ほど前にソニー関連会社で営業マンとして働いていた頃を思い出します。営業マンになって間もなくは、まったく業績は上がりませんでした。秋の黄昏時に自分で運転していて、これから一体どうなるのだろうと非常に大きな不安に襲われたものです。
現在の不況の下、自営業者の方やサラリーマンの方の中にも当時の大島と同じような不安に苛まれている方々が少なくないでしょう。大島は、そうした方々の不安をできるだけ解消していくことが政治の役割だと強く実感しています。
人材育成に重点を置いた民主党案
今開かれている臨時国会は雇用対策国会になると言われています。もともと労働行政というのは政策失敗の尻ぬぐいの側面が強いのですが、しかし、今ほど労働行政が重要視されている時はありません。大島は現下の雇用情勢や経済環境を考え、サラリーマンから国会議員になったという責任感から積極的に取り組んでいます。
今回、政府と民主党がそれぞれ雇用対策法案を国会に提出しました。まず政府の法案ですが、これは今までの延長上のものでしかなく、目新しいのは自営業者が廃業・倒産した場合に月20万円を1年間を限度に貸し付けるという点だけです。その予算として761億円が予定されています。雇用対策関連補正予算は約8,000億円ありますが、大島は、サラリーマンの経験からその予算の中身を精査してみました。すると、大部分は一昨年や去年からの政策の継続であって、その761億円の他には大きなものはほとんどありません。これではまさに「大山鳴動すれどもネズミ一匹」で、雇用政策が大きく変わるはずもありませんし、皆さんの不安が取れるとも思えません。
一方、民主党の雇用対策法案は、失業すると最長330日間失業手当を給付するという現在の制度に加えて、失業者、自営業の廃業者、主婦などが勉強(職業教育)するための資金を2年分給付するほか、生活費として財産の有無にかかわらず月10万円を給付するという制度をつくりました。つまり、安心して3年間は勉強できるという制度で、人材育成に重点を置いたものとなっています。
日本は人口1億2,700万人という世界で2番目の市場です。その中で有為の人材が頑張れば、日本はまだまだ大きく発展していきます。たとえば、自分でリスクを取って事業を起こす起業家も数多く出てくるでしょうし、新しい職種への対応も速やかにできます。そうした有為の人材を育成することが雇用対策の面でも最も効果があるのです。日本はこれまで経済政策や金融政策で失敗を犯してきただけでなく、ビジネスにおける人材育成にも失敗してきました。今回、民主党が用意した雇用対策法案には、無駄な公共投資を止める代わりに人材投資を行なうというアイデアが盛り込まれているのです。
大島が演壇で法案についての答弁
ところで、今回の民主党の雇用対策法案は、大島が中心となり、民主党国会議員が提案した議員立法でもあります。作成のプロセスは、民主党の厚生労働部会の雇用対策プロジェクトチームのメンバーである大島が、自分の重点公約として雇用対策についての問題意識をアピールしていくところから始まりました。しだいに周囲の民主党国会議員から大島の意見への賛同が生まれていく中で法案の骨格が定まったのでした。
骨格が定まった後には、実際の法案として条文化しなければなりません。この作業には、衆議院法制局が関わってきます。法制局は内閣、衆議院、参議院にそれぞれ置かれている(政府は内閣法制局、衆議院は衆議院法制局、参議院は参議院法制局)のですが、裁判官、検事、弁護士が法律運用の専門家とすれば、法制局の官僚たちはまさに法律づくりと解釈の専門家です。法制局の官僚は過去に制定されたあらゆる法律に精通しているので、政府の法案であろうが議員立法であろうが、実際の条文をつくる際にはほとんどの場合、法制局が関与しています。
条文ができると、国会に提出されます。重要法案以外の法案は、本会議場での趣旨説明は行なわず、まず専門の委員会で審議をスタートさせるのですが、雇用対策法案の場合、重要法案という位置づけでしたので、本会議場での趣旨説明、法案に対する代表質問、それに対する答弁が行なわれました。
民主党の雇用対策法案では、提出者として先輩議員と共に大島が名を連ねていたため、本会議場での趣旨説明および答弁は先輩議員と大島の役回りとなりました。いつもだと議員席から演壇側(演壇、議長席、大臣席などがある)を見ているのですが、大島は今回、法案の提出者として演壇側の席に座りました。議員席から見て、議長席の左手の席に総理大臣をはじめ閣僚たちが座り、議長席の右手の席に大島が座ったのでした。
民主党の雇用対策法案については、先輩議員が趣旨説明を行い、民主党と自由党の議員の質問を受けて大島が演壇に立って答弁を行ないました。そして、この後、厚生労働委員会での審議に移されました。
政府に大きな影響を与える
雇用対策法案は、厚生労働委員会で細かい審議が行なわれてから委員会採決、本会議採決、参議院での採決等を経て、施行されることになるわけですが、数の力の中で、残念ながら、政府案が可決され、民主党案は廃案になる可能性が高いと言えます。けれども、野党案が提出されることによって、政府案(与党案)が大きく影響を受けるのも確かなのです。これまで、民主党の法案を真似した法案を政府(与党)が国会に提出するということが少なくありませんでした。今回の民主党の雇用対策法案も今後の政府の雇用対策行政に大きな影響を及ぼしていくに違いありません。
現在、厚生労働省関係だけで雇用についての助成金が5,000億円もあります。この5,000億円は中小企業の人材育成、高齢者雇用、雇用調整など何十種類もの助成金に枝分かれしているわけですが、これは、個別の政策対応で次々につくられてきた助成金です。雇用対策というバケツがあるとすると、そのバケツに小さな穴が空いて水が漏れるたびにそれをふさぐための絆創膏として助成金がつくられたのです。そうして、今ではバケツに何十個もの絆創膏が貼られているというような状態になっています。
これまではそれでよかったのかもしれませんが、今の雇用情勢は生やさしいものではありません。バケツ全体が腐っていて、落ちようとしているようなものです。もう絆創膏だけではどうにもならず、バケツ自体を新しいものに交換しなければなりません。つまり、助成金全体を見直して、5,000億円を人材という切り口で投資すべきだと、大島は考えています。今回の民主党の雇用対策法案は、将来的にはそうした助成金の抜本的な見直しも見据えたものになっていました。
最気浮揚が最前の失業対策
最後に付言すれば、失業者自体を増やさないという取り組みも非常に重要です。一つの仕事をより多くの人で分かち合う「ワークシェアリング」の導入も考えられますが、最も効果的な失業対策は景気浮揚にほかなりません。景気浮揚はITや介護等の新しい産業を起こすことではなくて、やはり国民生活の基本的な衣食住の質を上げていくことだと思います。言い換えれば、皆が自分の生活を向上させるためにお金を使おうという気持ちになるような明るい経済政策が必要なのです。「金回り」とよく言われますが、バブル時に1万円が300人の手から手に渡ったとすれば、今は30人にしか渡っていません。「金回り」をよくするのもやはり明るい経済政策ですから、政府がそのような政策を取るように今後、大島も大いに働きかけていくつもりです。