【国会レポート】逼迫する労働力の需給に仕事の効率化で対応していく【2014年3号】
私の地元にはJR高崎線の駅がいくつかあって、朝の通勤時間帯には7分間隔で列車が到着します。5、6年前まではどの駅でも通勤客の流れが途切れるようなことはありませんでしたが、今は上尾駅を除くとどの駅でも7分間隔の途中に通勤客の流れがとまってしまいます。しかもここ1年で午前8時くらいになると通勤客が減ってホームが閑散となる駅も目立つようになりました。この通勤客減は少子化に加えて、団塊の世代の多くが完全にリタイアする時期に入ったことを示しています。つまり、60歳で定年になっても65歳まではそのまま嘱託などの形で週に何日か勤めていたのに、65歳を超えると完全リタイアで通勤しなくなる人が大多数になったということです。
8000万人を切った生産年齢人口
日本の生産年齢人口(15歳~64歳)がピークを迎えた1995年、転職して生保の営業を始めた私は、お会いする経営者の方に、総人口と生産年齢人口の推移のグラフを使って将来の人口減少と人手不足を説明することにしていました。以後、生産年齢人口が減少に転じ、ピーク時の8700万人から2013年には8000万人を割り込みました。2000年代はインターネットの普及で定型的な仕事が情報機器や機械に置き換わって若い人たちを中心に大量の失業者が出るようになったのですが、2010年代には団塊世代の完全リタイアで労働力の減少が顕著になり、労働力の需給が逼迫ひっぱくしてきたのです。となると、従来のビジネスモデルも成り立たなくなってきました。
2000年代のビジネスモデルは、20代、30代の若い人たちを非正規で雇い、一生懸命働いてもらうように動機付けを行うというものでした。労働力の需給が逼迫ひっぱくする2010年代にはそうした使い捨てでは企業は収益を伸ばせなくなってきました。
また、従来は政治の側も労働力の需給に対してあまり配慮を払ってきませんでした。たとえば介護保険がスタートしたのは2000年4月からですが、そのときには介護保険法での介護労働者の報酬は安く抑えられていたのです。というのも2000年前後には雇用が減っていて職を求める人のほうが多かったので、安い賃金でも介護労働者が確保できたのでした。しかし今や労働力が足りなくなって介護労働者の確保も難しくなっています。
外国人労働者を増やすのは安易な発想
いずれにせよ、最近は特に建設従事者、トラックやバスの運転手、商店・飲食店の接客従業員などでの人手不足が顕著になってきています。そのため、人手不足で2020年東京オリンピックまでに社会資本整備が進まないので外国人労働者を入れようという意見も強くなってきました。政府もまず全国6地域の国家戦略特区で外国人労働者の受け入れ拡大の検討を始めています。けれども日本人の労働力が足りなくなってきたから外国人労働者を増やそうというのは安易な発想ではないでしょうか。
ではどうすればいいのか。これには本田宗一郎氏とともに経営者として本田技研工業の発展に尽くした藤沢武夫氏の発想が参考になるでしょう。藤沢氏は神武景気(1954年12月から1957年6月までの爆発的な好景気の時期)のとき、他の企業が行っていたような「増産」ではなく、「限界のコストへの挑戦」に取り組みました。目的は「企業が跳躍する前には膝をかがめる必要があるという観点から、むしろ好況時に限界のコストに挑戦し、この過程で生産管理の遅れを取り戻して社員の技術レベルを引き上げる」ことでした。その結果、本田技研は日本の中堅企業から世界的な大企業へと成長を遂げたのです。
私は国家も同様と思います。今は神武景気のような好況ではありませんが、人口が減少しているからこそ日本人の仕事の仕方を見直して効率化していかなければなりません。外国人労働者を入れるという安易な発想で日本の産業競争力の向上や産業の高度化が進むはずはないのです。今のタイミングは日本の次の発展に向けた助走期間であり、人口減少を1つの転機として日本の産業構造をより高度化し、一人ひとりの給与を引き上げ、人口減少でも豊かさを保てる社会をつくっていくチャンスともいえます。
そこでは、人材の養成が欠かせません。現代の企業に必要とされる人材とは何かという点では世界的なIT企業であるグーグルの採用基準も参考になるでしょう。この採用基準とは重要な順から①学ぶ力、②リーダーシップ、③謙虚さ、④自発性、⑤専門能力の5つであり、これによってグーグルでの大卒者の採用人数も減ったとのことです。つまり、学歴ではなく採用基準を優先しています。
ただしここで重要なのは大学教育に意味がないということではなく、大学教育においても産業が求める人材の養成に努めなければならない時代が来ているということです。
同一労働同一賃金が時代の流れである
雇用の変化では生産年齢人口の減少以外にもパート・アルバイト・派遣・契約・嘱託といった非正規労働者の比率が男女および各年齢層ともに上昇しています。そのため、いわゆる正社員と呼ばれる正規労働者と非正規労働者との待遇格差の問題が際立つようになっています。同じ労働なら同じ賃金ということにシフトしていくべきでしょう。つまり、雇用では正規も非正規もなく同じ仕事をしたら同じ賃金を払うということです。そうしたことも含めて、労働法制に均等・均衡待遇の規定を織り込むなど新しい時代に合った雇用環境を整える政策に取り組んでいます。