【国会レポート】非常事態のシナリオも想定するのが責任ある政治だ【2003年2号】

韓国政府は2月11日、省エネ対策として公用車や公務員の自家用車の使用制限、ガソリンスタンドやデパートなど大型量販店の照明制限を実施すると発表しました。アメリカによるイラク攻撃の可能性が高まる中で原油価格が上昇していることへの対応策です。しかも今後、原油価格が急騰すれば攻撃前であっても民間車両の使用や娯楽施設の冷暖房を制限するとしています。韓国政府はアメリカのイラク攻撃が原油価格の高騰を招くと予想して今から着々と備えているわけです。

日本人の希薄な国際感覚

私は1983年から87年まで仕事の関係で旧西ドイツに駐在しました。その時の体験から言えば、ドイツは多くの国と陸続きであるため、国民の国際感覚が非常に研ぎ澄まされているように思います。何故なら、国際情勢における変動が国の安全保障や経済はもちろんのこと個人の生活にも直接大きな影響を及ぼすからです。

今回、ドイツやフランスはイラクへの軍事行動に対して慎重な立場を取っています。アメリカが独断的に軍事行動をとろうとしていることに対する牽制の意味もあると思いますが、もしも現体制が崩壊した場合に起こり得るイラク国内の混乱について、自らの経験からドイツやフランスは大変懸念を抱いていることも、武力攻撃に慎重な理由にあるように思います。何故なら、東欧諸国の共産主義政権が崩壊した時や旧ユーゴスラビアでの紛争の際、ドイツやフランスは多くの難民を受け入れました。更にドイツの場合は、自国の再統一の際に非常に苦労してきたのです。

一方、四方を海で囲まれている日本に住む私達には、そうした国際感覚は希薄ではないでしょうか。ご承知のように、イラク攻撃に対する日本政府の態度は曖昧で、危機感も伺えません。イラクに比較的近いドイツやフランスと違って日本はイラクから遠く離れているからそれも当然だという意見もあるでしょう。ですが、冒頭で触れたように、隣の韓国は危機感を持ってイラク攻撃の影響に対応しようとしているのです。

危機にある東電の供給能力

1月20日に第156通常国会(会期は6月18日までの150日間)が召集されました。午後1時から参議院本会議場で行われた開会式では、皇太子殿下が、次のような天皇陛下の開会の言葉を代読されました。

「国会が国権の最高機関として当面する内外の諸問題に対処するに当たり、その使命を十分に果たし国民の信託にこたえることを切に希望します」

しかし今、何名の国会議員とりわけ衆議院議員が「内外の諸問題に対処するに当たり、その使命を十分に果たし国民の信託にこたえる」という努力をしているでしょうか。私は疑問に思います。何故なら総選挙を前にして浮き足立っている議員が散見されるからです。

そうした中、東京電力は事故隠し問題のために原子力発電所を相次いで停止し、目下、東電の全17基の原発のうち12基を止めています。再稼働できなければ4月までには全原発が停止するために、東電では「冬場の電力危機は火力発電所のフル稼働などで回避できるものの、もし3月に寒波が来たら予備電力はゼロになってしまう」と予測しています。

東電のこうした現状に加えて、アメリカによるイラク攻撃が行なわれれば原油価格が急騰する恐れが大きいのですから、政府は節電などの省エネ運動やエネルギー危機対策を至急行なうべきではないでしょうか。

「仮定の問題には答えられない」でいいのか

私が20年ほど前に読んだ本に「シェルという石油会社はシナリオによって経営戦略を作っている」と書いてありました。つまり統計資料をあてにせずに今後起こりうる事態のシナリオを書いてその上で経営戦略を立てるのです。

政治の場合も、非常事態のケースのシナリオについても準備しておくことが不可欠です。現状について言えば、前述したように、東電の原発がすべて停止している中、イラク攻撃によって原油価格が高騰し、かつ大寒波が襲ってくるというようなシナリオが考えられます。

この非常事態のシナリオに基づけば、省エネキャンペーンの実施、石油備蓄の強化、経済活動への影響の分析とその対応といったことをまず考えなければならないでしょう。そのための議論は国会の党首討論や予算委員会の審議等で行なう必要があります。政府が明確な方針を示し、その政府案に対して与野党を交えた議論を公に行なうことができれば、非常事態のシナリオへの対策が十分なものになると思うのです。

しかし現実には、イラク問題についても政府は「仮定の問題には答えられない」と繰り返すばかりです。政治としての判断を停止してしまっていると言わざるを得ません。

国民の生命と財産を守るのは、政治の最低限の使命です。如何なる状況下でもその使命を果たすためには、日頃からあらゆる状況を想定して万全な準備をしておく必要があります。そうでなければ、いざ非常事態が発生した時に、あたふたするだけで何もできないか、あるいは超法規的な行為を強行するか、どちらかになってしまいます。いずれも国民にとって望ましい対応ではありません。非常事態が現実となっても慌てず的確かつ速やかに対策をとれるようにしておくには、「仮定の問題」に対して予め答えを用意しておくことが当然必要なのです。

現地の情報に通じた方へのお願い

私は今、イラクも含めて中東諸国で実際に活動している商社やメーカーの関係者から話を聞くという活動を続けています。外務省など役所の情報は、又聞きか、自分達に都合のいいものばかりなのであまり役に立ちません。非常事態のシナリオということでは、やはり北朝鮮問題についても想定する必要があるでしょう。

中東や朝鮮半島に関わる仕事をされていて現地の情勢についてお詳しい方にはぜひともお話を伺いたいと思っています。そうした皆さんからの情報こそが本当に役に立つのです。大島(メールアドレス:oshima@sakitama.or.jp)までご連絡を下さいますようお願い致します。