【国会レポート】2020年までの国のビジョンものづくりと雇用の中身が重要【2014年2号】

日本の経済・社会は大きな分岐点に差し掛かっています。東京オリンピックが開催される2020年までの間に、人口は約300万人減少し、国債も従来通り毎年40兆円ずつ発行すれば国の借金も280兆円増となりますから、政治はそれを見据えたビジョンを持たなければなりません。

つまり、日本国債への信認を保つとともに、国民が受け取る賃金の総額を増やして税収入を上げ、財政を安定化させることが肝要です。それには、貿易収支の黒字を維持して稼げる国であり続けなければなりませんので、私は今後の政策の中心も製造業の復権と雇用政策になると考えます。

急上昇してきているアジアの労働者賃金

私がまだ会社員だった25年前に香港から中国の深センに出張に行ったとき、中国人労働者の年収は6万円~15万円でした。ところが、今、アジアの賃金上昇率は上海で年11.1%、ジャカルタ(インドネシア)で18.5%、バンコク(タイ)で7.2%です。実際の人件費も、上海の一般作業員で約86万円、エンジニア(中堅技術者)約160万円、マネージャー(営業担当課長クラス)約271万円、同じくジャカルタでも一般作業員約48万円、エンジニア約87万円、マネージャー約183万円となっています。

日本との賃金格差は3~5倍程度にまで縮まっており、マネージャーともなれば日本の非正規労働者よりも年収が多いのではないでしょうか。いずれにせよ、このように賃金格差が縮まっているなか、日本製品の品質を考えれば、製造業は復権できるし、アジアの国々と競争してもやっていけるという確信が持てます。しかもこの製造業では何よりも雇用の中身が重要になるのです。

先日、某大手エンジニアリング会社で社長のアドバイザーをしている方と米国のシェールガス(天然ガスの一種)事情について意見交換をしました。その方によれば、「米国企業による大型の生産設備の建設発注が急増しており、日本の化学プラント・メーカーに対して、できるだけ短い納期でプラントを建設してくれるよう強く希望している」とのことです。納期が短いとプラントの稼働もシェールガスを原料とする化学製品の市場投入もそれだけ早くできて、より有利な地位を占めることができます。そして、どこの国の企業よりも短い納期で化学プラントを建設できるのが日本企業にほかなりません。

つまり、そういう点に日本の強みがあって、産業の広い裾野のなかで多くの中小小規模メーカーが優れた製品をつくり、それを納期内に親会社に納めることができるという点で圧倒的な強さを持っているのです。私はこの領域では世界での競争力を維持していけると確信しています。このような中小小規模メーカーは親会社からの「コストを下げろ」「生産性を上げろ」という指示に歯を食いしばって応じてきました。

しかし、今までのように親会社を頂点に一次、二次、三次以下の下請け部品メーカーという垂直的な関係ではどうしても付加価値がトップの親会社に吸い上げられてしまいます。そうではなくて、今後は多くの部品メーカー同士が集まってトップの親会社からだけではなく世界中の企業から部品の注文を引き受けていくという形にしたほうが各企業も成長していくに違いありません。

日本の生産現場では自発的な労働が重要

人材の配置についていえば、米国は「適所適材」といえます。これは、先に仕事があってそこに合った適材を見つけてくるということですが、逆に日本では「適材適所」です。その仕事に相応しい人材を育てていくということです。また、これこそが日本的なものづくりの基盤です。米国の適所適材が役割が細分化している野球型とすると、日本の適材適所はポジションが自在に動くサッカー型と言われています。この適材適所は自発的な労働を重視する日本の生産現場に欠かせないものです。労働生産性は極めて高くなってきて、同時に複数のラインを1人で管理したり事故を未然に防いだりということも自発性がないとできません。日本の生産現場は、品質向上のためのさまざまな手法を使いながら常に自発的な労働を促していくものです。これは与えられた労働とは違います。

適材適所の人材を官民で養成する

やはり適材適所という日本の強みを今後伸ばすことが重要です。私の中学の同級生で工業高校を卒業して工場の責任者を務めている友人が「久しぶりに工業高校を卒業した後輩を採用した。生産現場で教育して計数処理ができるように持っていく」と言っていました。まさに適材適所です。

とはいえ、この適材適所の人材育成は企業だけに任せていいのではなく、行政でも積極的に担わなくてはいけません。地元の職業能力開発施設の中央技術専門校を視察したところ、高校卒や大学卒、あるいは一旦就職してから入学した生徒もいます。機械加工と空調の学科があり、1クラス25人で2年間授業を受けるのですが、卒業した人はほぼ100%就職につながっています。ただしこのような「ものづくり」の職業教育は座学ではなく実習が中心ですから機械加工のNC旋盤や空調のボイラー設備など設備投資に費用がかかります。その点での公的な職業訓練の充実が必要です。

2000年代になって定型的(画一的)な仕事がどんどんシステム(コンピューター)に置き換わっていきました。また、グーグルやトヨタが車の運転を自動化(無人化)する研究を進めているなど、今後は非定型的な仕事までシステムに置き換わっていくでしょう。その意味でも付加価値のある高度な仕事を担えるような雇用政策を進めていかなければならないと考えています。