【国会レポート】選挙に向けた活動よりも地道な日々の取り組みを【2003年8号】

9月中に臨時国会が開かれる予定ですが、その間、衆議院議員の大半は地元に張り付いています。秋にも衆議院総選挙が行われると予想されており、地元で必死に選挙に向けた運動を行っているからです。

私も選挙が気にならないと言えば嘘になります。しかし、国会議員としてこれまで手がけてきたテーマの中で、まだ成り行きが定まらないものについてはきちんと見届けなければなりません。選挙があるからといって、それをなおざりにしたのでは、皆さんから国会に送り出して頂いた意味がありません。国会が閉会中でも行政機関は動いていますので、今も時々国会に出向いて、自分が抱えているテーマについてより良い解決策を見出すべく関係する官庁の担当者と協議しています。

民主主義を知るには選挙が一番だが

もちろん選挙に向けた活動は、地元の方たちと交流を持ち、地元の意見を吸い上げるという意味で政治家にとって大事なことです。第2次世界大戦中にナチスドイツと戦った英国の首相、ウィンストン・チャーチルも「民主政府についてどう考えようと、その粗野でだらしない基盤を実際に経験すべきである。選挙を戦うことほど政治家の教育にとって重要なことはない」と述べています。彼一流の辛辣な言い方ではありますが、要するに、民主主義を知るには選挙を経験するのが一番いいということです。

とはいえ、選挙というのは企業の営業にたとえれば売り圧力の強い活動にあたります。今は、売り圧力で物を売るよりも顧客に選んでもらって物を買ってもらう時代です。私はこれまで、地元で皆さんの意見を伺いながら、皆さんにお約束したことを地道にコツコツと解決していく活動を行ってきました。政治家としての業績で評価して頂きたいからこそ、選挙が叫ばれる今でも選挙に向けた活動ではなく地道な政治活動を中心に行っているわけです。

「谷間問題」で感じた政治家の醍醐味

私が地道に取り組んだ一例に、国民健康保険に加入できない会社役員自営業者の方に労災保険も健康保険も適用されないという問題、いわゆる「谷間問題」があります。細かい内容については「政治にパンチ」2002年10月号を参照して頂ければと思いますが、昨年6月、私が厚生労働委員会で谷間問題について質問したところ、厚生労働大臣は「改善する」と約束しました。この質問の直後には、ある方から「谷間問題を取り上げてくれて感動した」というメールも頂いたのですが、以来、私は実際に国が改善に向けて取り組むように働きかけるとともに官庁の担当者と協議を積み重ねてきました。その結果、今年7月の厚生労働省の通達で、従業員5人未満の会社役員については谷間問題が解消することになったのです。政府管掌健康保険に入っている150万社のうちほぼ半分の会社がこの通達の対象になるわけで、地味ながらも非常に大きな意義のある成果です。私は改めて政治家としての醍醐味を感じました。

役所の事後処理の実行を監視する

もう一つは、佐世保重工に対して17億円もの雇用関連助成金が不適正に支給されていたのを国が見逃していたという事件です。この事件についても、私が去年の通常国会で質問したことで、当時の事務次官をはじめ何人かの幹部官僚が厳重注意処分を受けたのですが、通常ならその時点でこの事件に対する政治家の取り組みは終ります。つまり、政治家が質問して国がそれなりに対応したら、政治家は別の問題に目を向けてしまうことが多いということです。しかし、私は、この事件が官僚の処分だけで終ってしまうと、また同じような不祥事が繰り返されると感じたのです。

民間企業ですと、商品に対するクレームがあったら、それを解決しないと商品は売れなくなります。ところが、役所はお金を稼ぐ必要がないので、ミスがあってもそれを改善するための事後処理をきちんと行わない場合が多いのです。そこで私は、助成金が不適正支給されない仕組みづくりに官庁が実際に取り組んでいるかどうか、折に触れて官庁に問い合わせました。官庁の取り組みが不十分だと再び国会で取り上げなくてはいけません。私がそうした姿勢を示したことによって、官庁の取り組みも真剣になり、審査を厳格化するなど不適正支給が起きないための改善策が、今年8月1日に厚生労働省から発表されたのでした。

官庁の人たちも日々多くの仕事を抱えており、それぞれの仕事に優先順位をつけています。ですから、政治家も質問しっぱなしで黙っていたら、彼らの仕事の優先順位が上がっていきません。優先順位を上げて仕事をしてもらうという意味でも、政治家は官庁に対して仕事の状況が今どうなっているかを常にチェックする必要があると思います。

逆になっている政治家と官僚の関係

以上の二つの事例から言えることは、政治家は質問して答弁を聞いて終わりにするのではなく、きちんとした事後処理策が出るまで行政機関を監視しなければ本当の成果は出てこないということです。もし480人の衆議院議員が自分の質問した内容について細かくフォローアップするようになれば、日本の官僚機構は全体としては問題がありますが、個人としては優秀な方も多いわけですから、世の中は大きく変わるのではないでしょうか。

ただし、行政機関の監視は本来、政治家として官庁に入っている与党の大臣や副大臣、政務官の仕事のはずです。ところが現状は、行政機構を監督し方針を示すどころか、逆に役所に監督され方針を示されるというように主従関係が逆になっています。民主党が政権を担った時には、当然のことながら、政治主導のシステムを確立し、適切な行政機関の監視を行ないます。