【国会レポート】首長から首相が生まれる時代になる!?【2003年9号】

去年の暮れ、サラリーマンの友人が、私に田中知事関連の本を十数冊寄贈してくれました。その中には、知事自身が書いた本もあれば、他の著者によるもの、例えば新聞記者が田中知事を何ヶ月も追って書いた著作もありました。

親しい友人の奨めということもあり、田中知事に注目したいと思っていたところ、ある新聞の今年の新年号に、民主党の枝野幸男・政務調査会長、自民党の渡辺喜美衆議院議員と田中知事との鼎談が載っているのをたまたま見つけました。そこで、田中知事は「野中広務や亀井静香さんと組めるのではありませんか」と言い、その理由として「野中さんは憲法9条を死守しているし、亀井さんは死刑廃止論者だから」ということを指摘していたのです。

柔軟に政治の枠組みを考える時代に

その部分を読んだとき、私は、田中知事は政治的なセンスが優れていて柔軟な発想もできる人だと感じました。と同時に、政治に携わっている者はこれまでの既成概念や考え方にとらわれてはいけない時代になってきたのではないか、そして、今の時代を乗り切るためには柔軟に政治の枠組みを考えてもいいのではないかと思ったのです。

さらに今年3月に鹿野道彦衆議院議員の話を同僚議員と2人で聞く機会がありました。鹿野議員は細川内閣時代に自民党を離れ、紆余曲折を経て民主党に入ったものの、秘書疑惑を抱えたために民主党も離れて今は無所属です。鹿野議員は私たちに「自民党を辞めたときにそれまで見えなかったものが見えるようになり、民主党を辞めて無所属になったときも、また新しいものが見えるようになった」と言い、「今ほど政治が判断を求められているときはない」と力説したのでした。

国会議員から首長への流れが加速

さて、8月の埼玉県知事選挙では、民主党先輩議員の上田清司氏が当選しました。同様に最近では、中田宏氏(横浜市長)、松沢成文氏(神奈川県知事)、釘宮磐氏(大分市長)など、国会議員から知事や市長といった首長に転身する人が増えてきました。昔であれば首長から国会議員になる人が多かったのですが、今はその逆の流れになってきたのです。

今の有権者は、政治家の評価を厳しく見始めていると思います。それは、政治家がパフォーマンスだけでは評価されなくなってきたということに他なりません。今回の埼玉県知事選挙も、投票率は低かったのですが、政治に関心のある無党派の人たちが多く参加し、厳しい目で知事を選んだ選挙だったと考えています。

首長は行政のトップですから、指導力が明確に表に出てきます。議員のように逃げ場はありません。その中で粘り強く議会や様々な団体と交渉をしつつ、自分の意志を貫いていくという強い指導力が求められるのです。ですから、首長として大きな実績を挙げれば、もう1度国政に復帰して、国政でも中心的な役割を果たすようになるのではないでしょうか。米国ではかつて上院議員から大統領になっていましたが、今や州知事から大統領にというのが主流となっています。クリントン、レーガン、ブッシュ(現大統領)など皆、州知事上がりです。これからは日本でも首長から首相になる人が増えていくかもしれません。

日本の議会制度では議員が首相を選ぶため、これまでどうしても議員同士の配慮が優先されてきましたが、今後、首長から首相への流れが出てくると、首相になるためには一般の国民を巻き込むことが優先されるようになり、密室での談合よりも国民の前でオープンに議論するということが重要になってくるでしょう。

政党での議論のプロセスが重要に

政党のあり方も変わってきます。これからの政党では、透明な形できちんと議論が見えるようにならなければいけないと思います。既に民主党の場合、例えば、有事法制では極めてオープンに、隠し事をせずに議員同士が互いに議論を積み上げて党内の意見をまとめていくという営みを行ってきています。つまり、政党での議論のプロセスそのものが非常に大事で、政党のあり方をも左右するようになるのではないでしょうか。言い換えれば、従来はイデオロギー的な対立で政党が分かれてきましたが、今後は議論のプロセスやスタイルの違いによって政党が分かれる時代になるだろうと思うのです。