【国会レポート】イラク問題への対処~賢者は歴史に学ぶ【2003年12号】

総選挙が終わって11月19日から特別国会が始まり、衆議院の正副議長選出と首班指名が行われましたが、今回は衆議院と参議院で1日ずつ予算委員会も開かれました。自分と首相にしようとする議員の名前を手書きする首班指名では、投票してくださった11万2,794人もの有権者に対する責任の重さを改めて痛感しました。

国会で議論しないのは国民無視だ

さて、11月27日の予算委員会が終わった直後、つまり、特別国会が終わってから間もなく、政府は自衛隊のイラク派兵の基本計画を閣議決定致しました。この政府の姿勢には非常に大きな疑問を感じます。今、イラク派兵については国論が分かれているのですから、本来なら国民の投票によって選ばれた国会議員による議論を国会で行うべきなのです。にもかかわらず、特別国会が終わった途端、基本計画を閣議決定したことに対して、私は憤りを覚えます。

私はかつて衆議院本会議場での有事法制の賛成討論において「安全保障にかかわる重要法案には、与野党一致して対処すべきだとの立場から」と発言しました。安全保障の問題には与党も野党もありません。与野党の立場を抜きにして国会で議論することが必要です。12月15、16日には、イラク派遣に関する基本計画閣議決定を受けて衆議院の「国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動並びにイラク人道復興支援活動等に関する特別委員会」が開催されましたが、基本計画を発表する前に、国会での議論を通じて国民を十分に説得し、納得させることが不可欠ではないでしょうか。

イラク問題を懸念していた米政府関係者

デビット・ハルバースタムが書いた『ベスト&ブライテスト』を読みますと、ベトナム戦争での米政府要人の意思決定の様子がよく分かります。ベトナム戦争の本質は「民族主義の戦い」であったのに「ベスト&ブライテスト」(最良にして最も賢明)であるはずの米政府要人たちはそれを「共産主義対資本主義の戦い」だと見誤った結果、アメリカはベトナム戦争の泥沼に引きずり込まれてしまったのです。

今年3月に始まったイラク戦争の前、イラクへの国連決議について国際社会がもめている時、私はアメリカ政府関係者たちと意見交換を行いました。彼らの中には、ベトナム戦争での過ちをしっかりと認識し、今回のイラクに対してもベトナムと同じ過ちを犯さなければいいが、と懸念している方もいました。

しかし結局、アメリカはイラク戦争に足を踏み入れてしまいました。私は開戦当初からイラク戦争の根底には民族主義があるのではないかと感じていましたので、この『政治にパンチ!!』(2003年4月号)でもふれた通り、日本がアメリカの一方的な価値観に相乗りすることには疑問でした。今後、イラク問題はベトナム戦争のように泥沼化するのではないかと危惧しています。

戦争の悲惨さを知らない政府要人

もう一つ思い出されるのが、湾岸戦争時のアメリカ大統領(今のブッシュ大統領の父親)の判断です。アメリカを中心とする多国籍軍はイラク占領寸前までイラク軍を追いつめました。しかし、あのままバクダットに攻め込もうとすれば攻め込めたのに、多国籍軍は踏み留まったのです。当時、なぜバクダットを占領しないのかと私も不思議に思いました。しかし、イラクを占領しなかったからこそ、その後90年代のアメリカの経済的な繁栄がもたらされたのです。今のブッシュ大統領の父親は次の大統領選には落ちましたが、後を継いだクリントン大統領にはイラク復興などという重しがなく、経済に特化した政策が打てたのでした。周知のように、今、アメリカはイラクの占領と治安維持のために莫大な予算を投じなければならなくなり、再び巨大な財政赤字を出すようになってきています。現代の政治にはコスト意識は不可欠になってきています。外交戦略でも面子ばかりにとらわれることなく、どうすればコストが安くて済むか、あるいはどうすれば長期的な経済効果が出せるのかということにしっかりと目を向けることも必要です。コストという視点からも、今回のイラク戦争には見合った対価があるのか、検証する必要があります。

日本だからできる世界への貢献

戦後の日本は高度経済成長を遂げてからODA(政府開発援助)を加速させ、毎年1兆円に迫る予算を中近東、東南アジア、アフリカの国々のために使っています。そういう国々の日本に対する信頼は非常に厚いものがあります。しかし、日本がこれまでに積み上げてきた国際的な厚い信頼感が、政治における意思決定の過ちによって消し飛んでしまうこともあるのです。

私は今回の総選挙で「民族や宗教の面で多様化してきた国際社会においては多様な価値観を許容できる日本の個性こそが新たな国際秩序をつくれるのだ」と訴えたのですが、これからは日本のように多様な価値観を認めることができる国が国際社会でのイニシアチブをとり得ると確信しているからです。ローマ帝国は多神教で多様な宗教を認めたからこそ、永い平和と繁栄の時代を築けたのです。冷戦構造と東西の対立構造が終了して世界中でいろいろな価値観が広がっている中で、日本は多様な価値観を包含して国際社会に戦争のない状態をつくることできる数少ない国なのです。もしも自衛隊を派遣する必要があるのなら、中東諸国の共感を得ることが不可欠であると考えます。

政治には現場主義が最も大切

小泉政権を支えているのは確かにエリートかもしれません。しかし私には、そうしたエリートが前述のベトナム戦争での「ベスト&ブライテスト」と重なって見えるのです。最良にして最も賢明な人たちが正しい判断を下すと限りません。なぜならば、そうした人たちは、現場を体験することなく頭だけで考えるからです。人間の営みというのはきわめて泥臭いものですが、その泥臭さは現場に行かなければ分かりません。政治もその泥臭さを知っていてはじめて正しい判断ができるのです。

そうした考えから、私は政治家になって以来、現場を最も大切にしてきました。地元を歩いて様々な方に会い、ご意見を聞き、朝もできるだけ駅頭に立って通勤する皆様と接してきました。

投票日翌日の10日月曜日の朝、6時半から上尾駅に立った時です。そこで、皆さんから「一生懸命、応援したからね」「家族全員で票を入れたよ」「これからもがんばって」などと声をかけられたとき、言葉に詰まりました。

これからも、現場で多くの人たちの声に耳を傾け、日本の国益のため、世界の平和と安定のため、政治家として皆さんのご期待に応えるべく努力していきたいと思います。