【国会レポート】国際機関の現状とは?まず国連改革が先決だ【2004年1号】

今年1月19日から通常国会が開かれ、冒頭で小泉首相の施政方針演説が行われました。首相の施政方針演説は会社で言えば社長の年頭挨拶のようなものです。

年頭挨拶で社長が1年間の会社の経営方針を明らかにするのと同じく、施政方針演説では我が国の抱えている問題や論点を指摘し、今後どの方向に舵取りしていくかを首相が語ります(施政方針演説は首相官邸サイトに掲載)。

首相の国会での演説は非常に重要です。かつて、支援者からお金をもらって意を受けた某大物参議院議員が圧力かけて首相の演説に1事項を入れたために刑事事件に発展したことがあり、結局、その参議院議員は逮捕されてしまいました。たとえ注目されない内容でも演説に盛り込まれた事項はそのまま予算と結びついてしまうのです。

国際機関の危うさ

今回の首相の施政方針演説でも国際貢献に言及していました。自衛隊とは別組織で国連の指揮下に入る「国連待機軍」という発想もあります。私は鉄鋼会社の海外駐在員だった時代にウィーンに本部のあるUnido(国際連合工業開発機関)という経済関係の国連機関に行ったことがあります。「この機関では恣意的な人事が行われていて、自分の立場しか守ろうとしない職員が多く、理想を貫くような人は少ない」と関係者から聞きました。

また、たとえば、ある国の軍事関連施設に国際機関から視察団を送る場合、加盟の国々は視察団のトップに自国の人間を押し込もうと運動します。トップになると、高度な機密が入手できるからです。そこでは加盟各国も自国の利益を優先しがちです。国連そのものが激しい外交の場であり国同士の戦いの場なのです。そのような国連の指揮命令系統下に我が国から国連待機軍というものを送ったらどうなるか。日本とはまったく関係のない紛争地域に日本の国連待機軍が投入され、尊い日本人の命が失われるかもしれません。

旧敵国条項と常任理事国の拒否権の撤廃を

だから、私は国連待機軍などを考える以前に、もっとフェアな国連に変えていくための国連改革を行わなくてはいけないと考えます。今の国連の国連憲章には、第2次世界大戦の連合国の敵であった諸国(ドイツ、日本、イタリア、ブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、フィンランド)に関する旧敵国条項が残っています。

いまだに国連で敵国とされている日本がなぜ国連のために国連待機軍を創設しなければならないのでしょうか。また、国連の現在の常任理事国(アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国)には拒否権が与えられ、他の加盟国との間に権限の差が設けられています。

先日、早稲田大学での公開討論会に出席したときに、学生から「日本は常任理事国になるべきか否か」という質問があったので、私はこう答えました。「日本が常任理事国になるかどうかよりも旧敵国条項や常任理事国の拒否権をなくすことが先決です」

まず以上の点を国連改革の前提として考えなければならないでしょう。そして自国の利害だけを考えるような加盟国のあり方を改善したうえで初めて国連待機軍も議論できるのだと思います。それをしないで国連待機軍を送ってしまったら政治家としての責任を果たせません。

今回のイラクに対する国連安全保障理事会の一連の決定を読んでみても、そのときの各国の利害がぶつかる中での決定です。安保理というのは未来永続的に続いていくような官僚組織などではなく、あくまでも各国が討議し、それぞれの利害をぶつけるテーブルなのです。そのときの力関係が反映されるし、前述したように常任理事国には拒否権もあります。

国連の持っている理想が間違いだとは思いません。国際的な政治機関としては国連しかないのですから、やはり国連を通じて国際貢献しなければならないでしょう。しかしその場合、国連の実態がどうなっているかという現状認識を持って事に臨まないといけないということです。

外交も同じ人間の営みには変わりがない

私は最近、イラク問題をはじめ国際問題について考えるために外交や軍事の専門家から話を聞いています。そのうちのある外交官OBは、竹下さんが首相になったときにマスコミから「国内政治しか知らない竹下さんで外交は大丈夫か」と聞かれて、「自民党の激しい派閥抗争をくぐり抜けて首相になった人だから、大丈夫だ」と答えたそうです。つまり、外交問題と言っても、人間の営みということでは同じなのです。

外交が人間の営みだとすると、うまく外交交渉をするというのは、企業で言えば営業活動を成功させるのと同じだと思います。私はかつて保険会社にいて営業をしたことがありますが、そのときの営業を成功させるポイントは相手の立場に立つということです。外交では相手の価値を認めるということが成功につながるのではないでしょうか。

アメリカの価値を認めることが重要だ

今、日米同盟についての議論が盛んですが、世界的な視野から見ると、アメリカという国は地球の中の希望の国だということには共通認識があるようです。自分の国で希望を失った人の最期の拠り所がアメリカです。日本人にとってもそうでしょう。日本でダメだったけれどもアメリカに行って一旗揚げたという日本人はたくさんいます。最後の拠り所の希望の国だという意味で、アメリカは地球の調和を保っているわけですから、日米同盟を考える場合も、まずアメリカの持っているその価値を認める必要があり、そのうえでお互いの立場を主張し合うことが大切だと思うのです。アメリカの価値を認めないで、ただたんに損得勘定だけの日米同盟の議論をするというのは実がないし、アメリカにとっても気分のいいものではないでしょう。

今回のイラクへの自衛隊派遣にもその視点が欠けていたのではないでしょうか。小泉政権は果たして多くの選択肢の中から自衛隊派遣をしたのか。そうではなくて、追い込まれて自衛隊派遣をしたという印象を受けます。政治で大切なのは多様な選択肢をつねに持ち続けることであって、追い込まれて唯一の選択肢を選ぶというのは政治の失敗につながるのです。