【国会レポート】今、最優先の政治課題は決して憲法問題ではない【2004年2号】
政治では優先順位をどう付けるかが一番大切だと思います。今はイラク派兵もあって与野党とも憲法論議で盛り上がっていますが、私は、それが今の日本政治の最優先課題だとは思いません。もちろん将来的には憲法改正の議論もあり得るでしょう。しかし、憲法問題は今このタイミングで一番に議論しなければならないテーマなのでしょうか。
国内の現状を見渡してみますと、小泉政権が掲げた改革がまったく進んでいないことに気が付きます。国内経済も中小企業の経営も相変わらず厳しいのです。年間3万人の国民が自殺し続けています。実は政治家にとって憲法問題は予算が伴う訳でもなく、国会議員としての仕事をやっているようにも見えるという意味で一番ありがたいテーマなのです。ですが今、それにエネルギーを取られると国民にとって本当に緊急を要するテーマが先送りになってしまう恐れがあります。
国家予算の1割を1銀行に投入した愚策
折から、2月19日、新生銀行(旧長期信用銀行)が東京証券取引所一部に株式の再上場を果たしました。私はこの新生銀行に関わる問題には日本の政治の失敗が象徴的に表れていると思います。今回の上場の初値で算出すると、新生銀行の普通株の時価総額は1兆1000億円を超えているのですが、上場で生じる利益の大半は当面、旧長銀を買収した外資を中心とする投資組合に独り占めされてしまいます。
そのことに非常に釈然としない気持ちを抱いている人は少なくありません。といいますのも、旧長銀や新生銀行には巨額の公的資金が使われてきたからです。
まず旧長銀に対しては佐々波委員会による資金注入で1766億円、債務超過穴埋めの金銭贈与で37035億円、資産買い取りで29811億円が投じられました。旧長銀譲渡後の新生銀行に対しては2400億円の資本注入に加え、暇庇担保責任によって8530億円がつぎ込まれました。合計すると、何と7兆9542億円にもなり、それは日本の国家予算の1割ほどに相当するような巨大な金額なのです。
瑕疵担保特約を結んだのは政治の敗北だ
どの資金投入もひどいのですが、とりわけひどいのが瑕疵担保特約でしょう。大手百貨店そごうが経営破綻したとき、この瑕疵担保特約がクローズアップされました。ちょうど私が1期目の当選を果たした直後だったので特に印象深く覚えています。当時衆議院議員だった上田清司氏(現埼玉県知事)など数人の国会議員と一緒に破綻直後のそごうの視察にも行きました。
そもそも、そごうが破綻したのは、経営再建のために銀行団に対して約6300億円の債権放棄を求めたとき、額面約2000億円(うち引当金分が約1000億円)の債権を持っていた新生銀行が債権放棄に応じなかったからです。それによってそごうが経営破綻した後、新生銀行の額面約2000億円の債権は結局、国が買い取ることになりました。政府と外資との間で、一時国有化されていた旧長銀を外資に売るに際して「旧長銀の債権が20%目減りした場合、国が100%分をキャッシュで肩代わりする」という約束を結んでいたのですが、その約束というのが瑕疵担保特約にほかなりません。額面約2000億円のうち引当金分を除いた約1000億円がこの瑕疵担保特約の対象になりました。つまり、約1000億円の債権が800億円以下に目減りしたので、国はその債権を全額引き取って新生銀行に約1000億円ものキャッシュを支払ったのです。
ビジネスに明るいサラリーマンの方ならよくお分かりのように、今の時代はキャッシュを持っていることが大きな力となります。債権が目減りしても100%キャッシュで補償するということ自体が相手にとってきわめて有利な条件なのです。
子供時代に資本主義を学ぶアメリカ人
当時、私は、瑕疵担保特約も含めて大蔵省の官僚から直接、以上のようなそごう問題の説明を聞きました。聞いてまず驚き呆れたわけですが、同時に、日本の資本主義の敗北だと痛感しました。どんなに優秀な官僚であってもアメリカのビジネス社会で勝ち残ってきた人達には歯が立ちません。日本の官僚が瑕疵担保特約のような処理策を立てること自体がおかしいのですが、歯が立たないのに官僚に交渉させて、結局、瑕疵担保特約などという間抜けな約束をしてしまったのは政治の責任なのです。今回の新生銀行の再上場にあたって、当時の国会議員の責任者にはその点をしっかりと自覚してもらいたいと思います。
サラリーマン時代、勤務していた鉄鋼会社のデュッセルドルフ支店にいたときに、ドイツの会社と交渉をすると必ずと言っていいほど、弁護士くずれの人が付いてきて、交渉のなかでいろいろな因縁や屁理屈を付けてきました。善し悪しの問題ではなく、それが彼らが考える交渉事というものなのです。
またこんな印象的なエピソードもあります。私が勤務していた鉄鋼会社がアメリカのベンチャー企業の株主だったので、会社を代表してアメリカまで行ってそのベンチャー企業の株主総会に出席したときのことです。
この株主総会では社長が経営方針の説明をした後、株主に質問を求めると、驚いたことに最初に手を上げたのは私の斜め前の席に座っていた子供でした。白髪の混じった上品な婦人と一緒にいて、ネクタイも絞めていましたが、まさしく小学45年生くらいの子供です。社長に指名されると、彼は物怖じすることなく、ワークステーションのマーケティング戦略について質問し、社長のほうも彼を子供扱いすることなく、大人の株主に対するのとまったく同様に丁寧に答えました。
日本の子供ですと受験勉強に汲々としているのに、アメリカではすでに投資や企業経営の何たるかを本物の企業に来て学んでいるのです。
日本に来ているアメリカの外資をハゲタカなどと呼んでいますが、彼らは株主総会で見たあの子供と同じように子供のときから資本主義社会での投資が何であるかを学んでいるのです。日本では金利で儲けることは卑しいという風潮がありますが、国際競争で勝ち残っていく上ではそうも言ってはいられません。国際競争で負けないような投資教育も必要だと思います。
政治も国際競争で負けないようにすべき
最近、日本の投資顧問会社の方から「日本でもリスクを取る起業家やビジネスマンがある程度増えてきている」と聞きましたが、まだアメリカに追いつくまでにはなっていないでしょう。
いずれにしても、旧長銀を買った外資との交渉で負けたのは政治の責任なのです。当時、世界の金融の現実に日本の官僚や政治家はまったく気づいていなかったということなのです。
私が政治の世界に入ろうと思ったのは、1985年のプラザ合意前後、ヨーロッパに駐在していたとき、私のようなメーカーの人間が汗水垂らして稼いだ外貨を日本政府は全部米国債に替えていたという間抜けな状況があったからでした。そういう政治を変えなければならないと思いました。再び瑕疵担保特約のような約束は結ばせない。新生銀行の再上場を機に、政治も国際競争に負けないようにしなければならないと決意を新たにしているところです。
そしてもちろん、冒頭でも述べたように、国内経済の問題、中小企業の経営問題など日本の活力を取り戻すための最優先課題にこれから積極的に取り組んでいきます。