【国会レポート】家族や夫婦のあり方を大きく変える年金制度改正【2004年3号】

イラク問題と年金問題は国会でも大きなテーマとなっていますし、テレビ、新聞、雑誌などマスコミでも連日盛んに報道されています。そのうち年金問題の場合、国会やマスコミでの議論では保険料や受給に関わるお金の話がほとんどです。

しかし、今回の年金改正のポイントというのはそれだけではありません。日本の家族や夫婦のあり方という観点から見れば、お金の問題以上に重要な論点があるのですが、今のところそこにはあまり注目が集まっていません。

そこで今回は、その論点すなわち「年金と専業主婦の問題」について皆さんにお伝えしたいと思います。

専業主婦に不利だった従来の年金制度

政府は年金制度改正の法案を国会に提出する予定です。この法案をめぐってこれから私の所属する衆議院厚生労働委員会などで本格的な議論が行われていくわけです。議論のなかではお金の問題が最も大きな焦点になるでしょうが、その陰に隠れてあまり表に出てこないと予想されるのが「年金と専業主婦の問題」にほかなりません。

現在は、サラリーマンの夫と専業主婦の妻の場合、夫が仕事をしている間は夫が厚生年金の保険料を支払って、定年後に厚生年金の受給時期が来ると、厚生年金は全額、夫が受け取ることになっています。

したがって定年離婚ということになったら、専業主婦だった妻がもらえるのは最低限の基礎年金の部分だけで、厚生年金部分については全額が夫のものとなるのです。現状では、専業主婦だった妻が夫の定年後に離婚するとすれば、年金の受給については非常に不利だということを覚悟しなければなりません。

厚生年金を夫と妻が半分ずつ受け取ることに

ところが、今回の政府原案が国会で通って法律化したとすると、事情は大きく変わってきます。サラリーマンの夫と専業主婦の妻の場合、夫が仕事をしている間は夫が厚生年金の保険料を支払うというところまでは従来と同じなのですが、法律化後は専業主婦だった妻も厚生年金の保険料の半額を支払ったと“見なされる”のです。そのため、専業主婦だった妻にも厚生年金の半分が支払われるようになるのです。

その場合、夫の定年後に専業主婦だった妻が離婚したら厚生年金の受け取り方がどうなるのか。以下の2つのケースに分けてご説明しましょう(細かく見ればもっと多様なケースに分けられますが、大きくはこの2つのケースにまとめられるはずです)。

1.政府原案が法律化する前に夫が厚生年金の保険料を支払い、法律化後に厚生年金を受け取るケース

原案が法律化してしばらくの間はこのケースが大半でしょう。厚生年金の受給については、夫の同意または裁判所の決定があれば、妻は厚生年金の半分を受給できます。

2.政府原案が法律化した後、夫が厚生年金の保険料を支払い、厚生年金を受け取るケース

このケースでは、夫の同意や裁判所の決定がなくても、厚生年金の支給時期がくれば、妻の求めによって自動的にその半額が妻に支払われるようになります。

善し悪しの立場からの議論は馴染まない

最初に「あまり注目が集っていない論点だ」と述べましたが、実際には、妻が厚生年金の半分を受け取るという政府法案の制度について関心を寄せている女性は少なくないようです。というのも、厚生労働省の若い官僚が「この制度をすぐに通してほしいと電話で陳情してくる女性がけっこう多いのです」と言っていますから。それにしても、わざわざ役所に電話を入れるというのは、女性側の事情もかなり切実なのだろうということがうかがわれます。

日本の男性は仕事に一生懸命で、家庭や妻のことをあまり考えないで定年まで働きづめだったという人が多いと思います。それに対してずっと不満をくすぶらせてきた妻も少なくないはずです。

厚生年金の受給権がないために、好きでもない夫と定年後も嫌々一緒に過ごしていた専業主婦の妻にとっては、この制度の法律化によって離婚のハードルが低くなるのは間違いないでしょう。ですから、私も最初は男の立場として、この制度の法律化には激変緩和措置が必要だと考えました。たとえば、法律の施行まで5年間ほどのリードタイムを置いて、その間、妻から離婚を切り出されないように夫が妻をケアするということです。しかし、知り合いの40代の女性にその話をしたら、「お互い様ですから」と一喝されました。言われてみて、私も、なるほどその通りだ、と思いました。

一方では、この制度が法律化すれば、保険料は自分が働いて全部支払ったのに厚生年金の半分を自動的に妻に持っていかれるのはおかしいと思う夫もいるでしょう。そういう夫のなかで専業主婦の妻に対して「働いてほしい」と言い出す人も出てくるのではないでしょうか。

また、夫婦が離婚し別の人と再婚しても年金を半分もらえるとなると、子供が巣立った後に離婚し、新しく知り合った人と再婚するということも容易になるでしょう。とすれば、子育てをする夫婦のペアと老後を一緒に過ごす夫婦のペアが異なるという社会になる可能性も高くなると考えられます。

ぜひ皆さんのご意見をお聞きしたい

最近、スウェーデンの中学校の教科書(日本語訳)を読みました。スウェーデンの中学生はこの教科書を基に議論を戦わせています。

インドでは親が子供の結婚相手を決めるのが普通ですが、この教科書のなかでインドとスウェーデンの結婚観の違いについて取り上げたところがあって、インド人はスウェーデン人に対してこう疑問を投げかけています。

「・・・あなたたちが恋愛や好きだという気持ちをとても重大だと考えることもよく理解できません。お互いが好きだということが、結婚後もうまくいくという保障にはなりません。好きだという気持ちは時が経てばどこかへ行ってしまいます。結婚するその日に愛情が強いということを重視しているようですが、その後にはあまり関心を向けないようですね。

私たちの場合はまったく逆です。結婚するとき、2人はお互いにあまりよく知りません。しかし、年と共に愛情は強まり、結婚の結びつきも強くなっていくのが普通です。重要なのは、結婚するときに愛情が強いことではなく、全生涯を通じてお互いが好きであることです」

(川上邦夫訳「あなた自身の社会」新評論より)

夫婦間の愛情のとらえ方は国によってさまざまです。日本ではそれが今、大きく揺れ動いているのではないでしょうか。国会での議論の参考にさせていただきたいので、皆さんが今回の年金制度改正の「年金と専業主婦の問題」についてどうお考えなのか、ぜひご意見を寄せていただければと思います。