【国会レポート】政治家には地元の課題を画像として思い浮かべる能力が必要【2004年8号】

国会閉会中の8月と9月は地元を歩いて皆さんのお話を伺うという活動を中心に行っています。私は自分の選挙区である衆議院埼玉6区は日本の縮図だと考えていますので、地元の皆さんのご意見やご要望、悩み事を伺うことは地元の課題解決につながるだけではなく、同時にそのまま日本の課題解決に通じると思っています。

ところで、あの田中角栄元首相は午後9時に寝てから真夜中に起き、国土地理院の5万分の1の地図を眺めながら日本全国の選挙区事情を勉強していたそうです。結果、候補者本人よりも選挙区事情に通じるようになったと言われています。それだけでなく、彼は予算書を読んだときに、日本全国のどこに道路をつくればいいか、どこに橋をつくればいいか、どんな公共事業を行えばどのような経済効果があるかなどが、三次元の画像として頭に浮かんだ人だと私は思います。

政策の効果を具体的にイメージできるということが政治家にとって非常に大切ではないでしょうか。だから、私は自分の政治活動のなかで地元を歩くということを最も重視しています。この国政報告をポスティングしながら町内を歩いていると、この団地にはどのような人が住んでいるか、この地域は区画整理が終わっていない地域だなどといったことが見えてきます。そのうえで国や県の役所の人から数字的な説明を受けると、今は地域の事情がおぼろげながらも画像として思い浮かぶようになってきました。

まさかの事態に備えるのが政治の役割

地元の課題のうちいくつかを挙げると、たとえば救急医療。埼玉県の救急医療体制は県の南側(さいたま市以南)、県の北側(熊谷市以北)、県の東側の地域には完備されているのですが、中間に位置する私たちの地域では、救急医療体制が整っていません。とすると、安心して生活できないのはもちろんですが、小児救急医療も遅れていることになり、これは子育てや少子化の問題とも深く関わってきます。そこで今、救急医療体制の整備について国や県の役所の人から事情をヒヤリングしているところです。

たまたま参加した地元のお祭りでドクターへリ(救急救命処置が必要な患者のいる医療現場等に医師を迅速に送り届けるために用いられる専用ヘリコプター)について研究している人たちに出会いました。その取り組みに感心し啓発されるとともに、私の地元には意識の高い人たちが住んでいるのだと改めて実感した次第です。

次に防災ですが、都心ではヒートアイランド現象による異常気象が起こっています。数年前に都心の家屋の地下室で人が溺れ死んでしまったという事件がありました。想像を超えた降水量があると都心でさえ溺死する人が出てくるのです。今年7月には不幸にして新潟県三条市で大水害が起き、大きな被害が発生しました。予測をはるかに超える降雨量だったため、あのような大災害になってしまったのですが、三条市は同僚の女性議員の選挙区なので私にとっても他人事ではありません。

私の地元は高崎線や中山道が大宮台地という高台の上にあって、これまでそれほど大規模な水害の心配をしなくても済みました。しかし、鴻巣以北は土手です。荒川が満水になったときには土手の1メートル下まで水が迫ってくるそうです。予想以上の水量になったときに緊急避難的な対応がしっかり取れるのかどうか、これからそのスタディをしていこうと思っています。まさかの事態に備えるのが政治ですから、危機対応として防災の問題には鋭意取り組んでいくつもりです。

地元では上尾道路、圏央道など道路建設も大きな課題です。日本では昔から国土の整備計画はあったのですが、まず地方に予算が振り向けられたので整備は地方が先になってしまいました。

住民の意思を汲み取っての活動

とはいえ、今は予算を振り向ければ首都圏の公共事業がすぐに進むという時代ではなくなっています。30~40年前だったら役所が地図に線を引けば道路や橋ができたでしょうが、今やファーストフードからスローフードの時代になって、公共事業を進めるにもそれだけ時間がかかるようになってきたのです。たとえば河川改修だと以前は期限を決めて工事をしていたのですが、今は自然再生事業という新しい考え方のなかで自然を再生させながら河川改修をするという動きにもなっています。

荒川沿いの農家では、江戸時代から、毎年、河川に溜まった富養士を人力で畑に運んでいて、今それが1メートルくらい堆積しています。それだけ自然な感情として土地への愛着が強く残っています。また、お米を作っている農家の収入は、概ね年間100万円位で、人件費を入れると採算が取れないにも拘らず、退職金で農機具を買ってでも米を作り続けようとしています。やはり土地への愛着がきわめて強いのです。このような地域に道路建設が持ち上がって、決心を固めて土地を手放そうとして時に、前述したような時代の変化で、肝心の計画のほうが止まってしまうこともあります。放っておかれてやり場のない気持ちを持たれている方も多いのです。

また、大型店の出店もあり、旧中山道と17号線は土日ばかりかそのため、救急医療を考えると、西側に道路があれば、より早く患者さんを救急病院に運ぶことができるというメリットも無視できません。

これからも各市町や住民の皆さんから上がってきた要望を真摯に受け止め、関係当局に働きかけていきます。

住民の意思を産業政策や農業政策に反映

物づくりの問題もあります。もともと上尾駅西口の周辺には工場がいくつかあって、そこで技術を習得した人たちが核となって上尾の物づくりが発展したともいわれています。日本は海外から物を輸入しているわけですが、国内での物づくりもないがしろにはできません。物づくりの人材の育成についても関係者から意見を伺っています。

そして、定年を迎えた人たちの社会参加も大きな課題です。私が開いているタウンミーティングには、大企業の役員や大手官庁の幹部だった人が参加してくださいますし、私の地元には、ボランティアで中小企業への技術指導をしている定年退職者のグループもあります。会社生活で優れた知識や能力を身に付けた人が本当に多いのです。

そのようなリタイアした人たちの大きな潜在能力を私たちの地域の産業と有機的に結び付けられたなら、国内の他の地域ばかりか東南アジアをはじめ世界各地に対しても競争力を保ち続けられると考えます。

以上のように、私たちの住んでいるところは日本の縮図です。皆さんからご意見、ご要望を伺いながら、今後の日本の産業政策や農業政策の立案に役立てていきたいと考えています。