【国会レポート】議員同士のフランクな交流が国同士の信頼関係を生む【2004年9号】

私は初当選以来、日独議連(日独友好議員連盟)に参加しているのですが、この9月上旬にその一員として訪独し、ドイツの国会議員との交流を行いました。

訪独の目的は、今年5月に超党派のドイツ議員団が訪日したことに対する答礼ということのほか、来年と再来年が「ドイツ年」となる日本で今後ドイツ関連のイベントが増えるだろうからその前に両国の国会議員同士で交流を深めて人間関係をつくっておこうということでした。私は鉄鋼会社のサラリーマン時代にドイツに駐在したことがあります。駐在を終えて1987年に帰国して以来、仕事でドイツに行くのは今回が18年ぶりとなりました。

議連の訪独の経費はすべて議員個人持ち

議連というのは一つのテーマの下に国会議員が自由意志かつ超党派で参加する集まりです。したがって、日独議連の訪独では、旅費や宿泊費などの経費は全額議員個人の負担となります。今回は日独議連会長の海部俊樹元首相と私を含めて合計4人の国会議員が参加したのですが、私はエコノミークラスの格安の航空チケットを購入し、1人でドイツに行って、他の3人の国会議員とは現地(ドイツの首都ベルリン)で合流したのでした。

ドイツの国政は、1998年以来、SPD(ドイツ社会民主党)と緑の党が連立政権を組んでシュレーダー首相とフィッシャー副首相兼外相とのコンビで政権を運営しています。CDU(キリスト教民主同盟)、CSU(キリスト教社会同盟)、FDP(自由民主党)が野党ですが、601議席の連邦議会(下院)ではSPDと緑の党が過半数を占め、69議席の連邦参議院(上院)では野党が過半数を占めているという状況です。

今回の訪独では、私自身はシュレーダー政権の社会保障政策やNATO(北大西洋条約機構)の安全保障政策について興味を抱いていたのですが、こうした問題について現地でしかできない勉強をすることができました。

3回設けられたドイツの議員との交流の場

けれども、そういう勉強以上に有意義だと実感し、大きな感銘を受けたのは、ドイツの国会議員たちとの率直な交流だったのです。

ドイツの国会議員との交流の場は3回設けられました。まず日独議連会長と駐独日本大使が主催した日本大使公邸での夕食会です。次がドイツの連邦議会外交委員会委員長主催の意見交換会。最後がドイツの独日議連主催のレセプションで、場所はドイツ議員協会会館でした。独日議連は日本の日独議連に相当します。

交流の場では会食を伴う場合は、自分の隣あるいは近くに座ったドイツの議員と1対1でのディスカッションとなりました。政治家同士ですから、ディスカッションも趣味がどうのといった個人的な話題は一切なく、つねにいきなり外交上の重要な問題が俎上に上りました。すなわち、イラク問題、北朝鮮問題、EUの問題、さらにちょうど報道があったばかりの韓国のプルトニウム製造問題などです。

連邦議会議員との議論で自分の考えを検証

イラク問題について私と会話したドイツの議員の発言を列挙してみましょう。

「今の政治家は過去の国同士のいろいろな関係を忘れてしまっている。過去にはドイツもアメリカから非常に助けてもらったのだから、今回のイラク問題でもアメリカを助けてやらなくてはいけない」、「イラク戦争はやり過ぎだ。私たち大陸ヨーロッパの国とは考え方が違う。世界秩序を考えると、やはりアメリカの影響力は少し抑えなくてはいけないと思う」

イラクについては議員によって見解は異なっていました。そして、自分の意見を連邦議会の議員にぶつけて議論することで、自分の考え方が独善的ではないという確信も得られました。

それとともに介護保険についても興味深い話が聞きけました。ドイツの介護保険は、10年目の見直しの時期にあります。子供が10人いる人が「子供のいない人と介護保険料が同じなのはおかしい」と提訴したところ、ドイツ連邦憲法裁判所で違憲判決が下されました。そのため、ドイツ政府はこれから介護保険料の負担のあり方を見直さなくてはならないのですが、政権与党のSPD(ドイツ社会民主党)では「養育児童がいない人の本人保険料を引き上げよう」という考えに対し、野党のCSU(キリスト教社会同盟)の議員からは「子供のいる人にはボーナスをだそう」と考えていると聞き、議論が白熱していると実感しました。また、将来は日本でもドイツと同様の議論が出てくるのではないかという思いも持ちました。

非公式の場だからこそ聞ける政治家の本音

今回のように議事録に残らないフランクな場でのディスカッションだからこそ、党派の公式見解にとらわれない政治家個人の本音が出てきたのです。その結果、短時間でも非常に密度の濃い会話となったのでした。

私は今回、政治家同士がざっくばらんな場でその時々話題になっている問題について意見交換することの重要性を再確認するとともに、今後も同様の活動をしていかなければいけないと痛感しました。欧米の政治家とはもちろん、日本に近いアジアの政治家との間ではなおさら本音の交流が必須です。

なるべく多くの国々の政治家と率直な意見交換を行わなくてはなりません。そのうえで、交流を継続していけばお互いに信頼関係が醸成されていきます。逆に言うと、国同士の争いは誤解から始まるのです。日本には衆議院議員480人、参議院議員242人がいます。この722人の国会議員がそれぞれ得意な国を持ち、その国の議員と率直にディスカッションできる関係を結ぶことができたなら、日本は世界中の国々と固い信頼関係を結ぶことができるに違いありません。