【国会レポート】秀才的な人材だけでは現実の政治は担えない【2004年11号】
昨年11月9日に投開票が行われた総選挙で2期目の当選を果たしました。それからこの11月で丸1年経ったことになります。初当選からの1年間は無我夢中で過ごしたのですが、2期目ともなると周囲もよく見えるようになりました。同時に、衆議院議員としての仕事の質も変わってきています。
直接自分で質問に立つよりも、厚生労働政策をはじめ民主党の各種の政策を取りまとめるという仕事が増えてきたのです。
1期生に質問時間を回すのが民主党の伝統
国会では所属議員数に応じて各政党の質問時間の長さが決まります。
そして、これは民主党の伝統になってきているのかもしれませんが、民主党の質問時間については1期生により多く割り当てるようにしています。私も1期生時代は優先的に質問時間をいただくことができました。質問というのは政府にそれなりの影響力を与えるのですから一種の権力行使だとも言えます。
他の議員の質問も良く聞いていて、論点が新鮮であったりすると、他党からも「なかなか面白い指摘だった」と褒められたりします。野党議員の質問であっても与党議員から大いに評価されることがあるのです。また、役所の官僚からも注目されています。しっかり勉強してポイントをつかんだ質問をすると官僚たちからも一目置かれます。つまり、質問時間をどのように有効に使うことができるかによって、その議員の働きぶりが如実に表に出てくるのです。
民主党で1期生の議員により多くの質問時間を与えるというのは、以上のような試練を通じて議員を育てていこうということにほかなりません。厚生労働委員会でも民主党の1期生議員が社会保険庁の一連の疑惑を追及したことで、長官が民間人になり、また、組織の改廃も含めた検討を俎上にのせるようになりました。もちろん責任は、社会保険庁ではなくここまで放置し続けた政府与党にあります。
多くの質問をするということはもちろん有権者の意見を国政に反映する有力な方法ですが、党の政策を取りまとめるという私の今の中心的な仕事も有権者の利益につながるという点では同じであり、両方が車の車輪のように動くことが非常に重要だと思います。
2期目でも重要な仕事が任される民主党
皆さんご存じのように国会本会議場の議員席は半円形ですり鉢状の形に並んでいます。政党別の席順は、演壇に向かって半円形の一番左から自民党、民主党、公明党、共産党、社民党、無所属という順番です。また、どの政党でも前の席から当選回数順に着席することになっていて、前の席から後ろの席にいくほど当選回数の多い議員が座るのです(ちなみに私が今年9月に訪問したドイツの国会では席順は決まっていません)。
私の場合、2期目になって前から7列目の席になりました。自民党のほうを見ると、7列目に座っているのは大臣経験クラスの5期以上当選したベテラン議員ばかりなのです。これは、民主党には当選回数の少ない若手議員が多いということなのですが、逆に言えば、当選回数が少なくても党内で重要な仕事を任されるということにほかなりません。
私は今、民主党のNC(次の内閣)の厚生労働副大臣として国会議員260人以上を抱える大政党の厚生労働政策を取りまとめるという仕事に就いているのですが、政府与党で2期生がそのような仕事をすることはとても考えられません。
確実に来ている官僚主導から議員主導への流れ
民主党には選挙の候補者公募のたびに優秀な人材が集まってきています。中央省庁の官僚、民間企業、外資系企業、学者などの知識豊富で国際経験豊かな若い人たちです。たとえば、民主党には、民間企業に勤めていたときに外国人ビジネスマンと互角に渡り合った議員がいます。語学でも交渉力でも今の外務省の官僚に太刀打ちできる人はなかなかいないくらいなのです。そのように実力のある議員が民主党には増えていますから、民主党政権になったら官僚主導ではなく議員主導で政治が動く時代に確実になっていくでしょう。
ただし、政治という仕事は秀才的な優秀さだけではこなせません。前述したように民主党の候補者公募で優秀な人材は集まってきているのですが、その多くは秀才的な優秀な人材だとも言えます。そこにまだ民主党の脆さがあるかもしれません。
秀才的な人材でスタッフを固めた例には、ベトナム戦争を起こしそれをどんどんエスカレートさせていったアメリカのケネディ政権とジョンソン政権があります。たとえば、その閣僚の1人であるマクナマラはフォード社の社長から国防長官になって、数式を解くような考え方でベトナム戦争を指導したのですが、実際にはマクナマラが数式を振り回せば振り回すほど戦争が泥沼へとはまっていったのでした。
マクナマラなどケネディ政権、ジョンソン政権の秀才的な人材のことを、ジャーナリストのハルバースタムは「ベスト&ブライテスト」(最良で最も聡明な人々)と呼び、秀才的な人材の弱点を同名の著書で鋭く批判しています。
秀才だけで固めた組織はダメになっていく
今のアメリカのブッシュ政権も、やはり大企業の社長から国防長官になったラムズフェルドや、パウエルに代わって今度新しく国務長官になるライスなどのベスト&ブライテストで固めています。そのためか、彼らのイラク戦争への対応ぶりはジョンソン政権におけるベトナム戦争へのそれと重なります。
要するに、秀才的な人材は理屈を優先し理論通りに物事に当たれば問題は解決すると考えがちなのですが、実際の政治はそうではありません。人間への深い理解や人間の感情への思いやりが不可欠です。秀才だけで固めた組織はダメになります。民主党でも、秀才的な人材だけではなく、人間を理解し人間の感情が分かる人材も増やしていかなければならないと思います。