【国会レポート】言語と宗教を超えて一つになろうとするアジア諸国【2004年12号】
岡田克也代表が12月中旬に民主党党首として初めて東南アジア諸国を歴訪することになり、党国際局に所属する私も少数の同行メンバーに選ばれました。そして、この東南アジア歴訪を前にしてその挨拶と懇親のために、民主党として東南アジア諸国の駐日大使(代理大使も含む)との間で会食の場を設けたのでした。
党首と各国大使との会談は1対1というのが通例ですが、今回は1度に4ヶ国の大使を招いて2回に分けて会食しました。1回目はインドネシア、フィリピン、マレーシア、ミャンマーの各大使、2回目はカンボジア、シンガポール、タイ、ベトナムの各大使がお越し下さりました。民主党側からは2回の会食に岡田代表と私を含めて3人の国会議員が参加しました。この8ヶ国はいずれも10ヶ国で構成されるASEAN(東南アジア諸国連合)に加盟しています(残りの2ヶ国はブルネイとラオス)。
非常に仲の良い東南アジアの駐日大使たち
会食でまず印象的だったのは、これらASEANの大使同士が非常に仲が良いということです。外交官だからもともと相手を立てるという姿勢はあるでしょうが、冗談を言いながらまるで長年の友人のようにお互いを熟知している話しぶりでした。実は、ASEANの駐日大使同士は3ヶ月ごとに議長を替えながら会議を行っているとのことです。
「ASEAN+3(日本、中国、韓国)」という言葉がありますが、これもASEANから出た言葉です。会食のなかで駐日大使たちと話すうちに、日本の工業技術力を高く評価し自国もそれを吸収したいということ、あるいは、中国を脅威と捉えるのではなくその経済の良い部分と連携しようということ、韓国にも経済面で大いに期待していることなどが伝わってきます。日本、中国、韓国とも連携することでお互いに共存共栄していこうと考えているのです。これも私には新鮮な驚きでした。
政府の中核となる枢要な人材が日本に駐在
アジアが一つになり共存共栄していこうとの考え方の前提として、ベトナム戦争、カンボジア内戦、インドネシア暴動など苦難の歴史を経てきただけに、少なくともASEANでまず経済面や外交面において一体になろうという強い意志があるのを感じました。今やASEANは東南アジア版のEU(ヨーロッパ連合)とも言えます。ただしEUが言語も似ているし宗教の違いも少ないために一つにまとまる上での障害もそれほど大きくないのに比べると、東南アジアのほうは言語も非常に多様で宗教も地域によってかなり異なっています。にもかかわらずASEANで一つにまとまろうとしていることに私は深い感銘を受けたのです。
このように国際協調という意味ではASEANは日本の先輩格だと言えます。これからは日本がその知恵を借りる時代になってきたのではないでしょうか。
また、ASEANの駐日大使は、国に帰れば政府の中核を担うような枢要な人材で、閣僚になる人も少なくありません。その点、日本の外交官とはまったく違うのです。ASEANが自国の枢要な人材を送ってきているのはそれだけ日本を重視しているということにほかなりません。とすれば、一つの外交戦略としてASEANの駐日大使たちと親交を深めることによって東京にいながらにして十分に外交ができるはずなのです。
それはもちろん、アジアだけに限りません。たとえばアフリカ大陸の北西部にある立憲君主国のモロッコは、北は地中海、南はサハラ砂漠、西は大西洋に接している人口3000万人ほどの小国ですが、民主党にはこのモロッコの王様と非常に親しくしている同僚議員がいます。
この議員は「中近東の王様との面会のアポイントは、外務省を通してもニッチもサッチもいかないのだが、モロッコの王様に頼んだら、アッという間に取れる」と言います。王族には王族の外交があり、モロッコの王様は中近東の王様と深くつながっているのです。一議員でもそのような人脈を持っていれば十分外交ができるし、しかも、外交の種類によっては東京にいながらにしてできることも少なくないのです。先日も駐日モロッコ大使公邸で同議員とともに大使と懇談の機会を持ちました。
2国間の結びつきが多国間貿易につながる
皆さんのなかにも、ここのところFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)という言葉が新聞紙上を賑わせているのをご存じの方が多いと思います。世界の自由貿易体制の維持・強化については従来、1948年に発足したGATT(関税及び貿易に関する一般協定)体制、1995年からはGATTの発展的な組織であるWTO(世界貿易機関)が担ってきました。しかし、現在のWTOはあまりにも肥大化してきたために各国の合意形成も含めてさまざまな面でうまく機能しなくなってきています。
そこで活発になってきたのが2国間でFTAおよびEPAを締結するという動きです。FTAについて日本はメキシコと結んだばかりで、現在はフィリピン、マレーシア、タイと交渉中です。今後、このようにアジアにおいて2国間でのFTA/EPA締結がどんどん増えてくると、結果的にはアジアの多国間での自由貿易および経済連携が実現することになります。
アジアのなかに経済圏が形成されていく
以上の点を見据えて、民主党ではすでに外交戦略と経済戦略とを一体化して政策を考えるという経済外交プロジェクトチームが動き出しています。それは、日本と近いアジア諸国との間で経済圏をつくろうという一つの機運だとも言えるでしょう。
いずれにしても、私は今、民主党の東南アジアに対する外交政策と経済政策をASEAN諸国の駐日大使にきちんと示していくべきだと提唱しています。つまり、ASEANの大使を民主党の政策議論に巻き込んでいくのです。そのことによって親近感や信頼感が増して民主党とASEANの大使との間に太い人脈ができるでしょうし、ASEANの大使にも日本の新しい政治の胎動を感じとってもらえるに違いありません。