【国会レポート】多元的な価値観を持つ世界の構築を【2005年1号】
昨年12月に5日間、民主党の岡田克也代表および同僚議員2人とともにシンガポール、マレーシア、タイ、インドネシアの東南アジア4ヶ国を訪問することができました。この4ヶ国はASEAN(東南アジア諸国連合)の主要加盟国で、民主党としては東アジアに軸足を移した外交の足がかりを得るのが目的です。
中国とは仲良くしていくのが世界の利益
今回の訪問で各国首脳に「中国について脅威を感じますか」と質問したところ、「感じない」という答えが返ってきました。それどころか、中国とはうまく連携をとりながら一緒に発展したい、安全保障についても中国を巻き込みたいと考えています。
シンガポールの建国時からの指導者だったリー・クワン・ユー内閣顧問相は「中国との関わりをしっかり保つことが世界の利益だ。指導者の世代が変わるのに合わせて政府が変わることを肝に銘じておかなくてはいけない」と言ったのですが、私も同じ認識です。たとえば日韓関係でも世代交代によって両国とも新しい人たちが外交の表舞台に立ち始めています。昔は、この問題はこう解決しようと政治家同士の信頼関係で話をすればよかったのに、もうそれができなくなってきているのです。
それに、インドネシアの外務大臣は「日中韓3ヶ国にはまだ猜疑心が残っている。欧州でそういう感情が消滅したのとは対照的だ。一つの共同体のメンバーになることは同じ行動規範を守ることだから、安全の確保も共同で行うことも意味する。欧州では敵国だった仏独が戦後、共同体形成の核となった」と話していましたが、ASEANも日中韓の猜疑心を取り除くことができるかどうか深い関心を寄せているのです。
アメリカの一国主義的価値観の影響
また、リー内閣顧問相はEU(ヨーロッパ共同体)の態度の変化を最も心配しており、「冷戦時の欧州の指導者とはまったく考えが違ってきている。政権が代ると指導者の考え方も変わる。EUのアメリカへの不満はイラクの問題だけが原因ではない。その前から中東和平の問題や京都議定書の問題等があって、EUのアメリカに対する不満は大きい。米国の単独行動主義と欧州の国際協調主義との間に大きな溝がある。EUは多極的な世界を望ましいと考え、そのためにロシアと中国が強くなることがいいことだと考えている」と指摘しました。
この点も私は同感で、昨年9月に日独友好議員連盟の一員として海部俊樹元首相および自民党議員2人と一緒に超党派でドイツのベルリンを訪れ、ドイツの各政党の議員たちと交流してきたのですが、そのときにも、アメリカに代表される一つの価値観で世界をまとめようという考え方と、大陸ヨーロッパの多様な価値観を認めようという考え方の二つがあると感じました。
そのアメリカは1991年にソ連が崩壊して資本主義と共産主義による冷戦構造がなくなった後も、「アメリカ的価値」というイデオロギー国家としての色彩を持った国です。各国で希望を失った人たちが最後に渡る希望の国アメリカは世界のシステムのなかで不可欠な存在だと思います。しかし、アメリカではつねに星条旗に忠誠を誓っていないと国がまとまらないというきわめて人工的な国家の側面もあり、今回、そのアメリカが起こしたイラク戦争は、各民族に対し、おそらく潜在意識のなかで自らのアイデンティティを見つめ直すきっかけを突きつけたと思います。
言い換えれば、アメリカの一国主義的価値観によってイラク戦争が実行されているため、それに対する反発をヨーロッパ中近東アジアの国々が潜在意識のなかで感じ始めているのではないでしょうか。それがアジアにおいては、アジアで一つにまとまろうという意識を高めることにつながっているのではないかと思うのですが、実際、イスラム教徒も仏教徒もヒンズー教徒もキリスト教徒もいる東南アジア諸国はこの多元的な価値観がそれぞれ突出するのを抑えつつバランスを取って新しい関係を築き上げようとしているのです。
トルコをアジアに引き寄せるのも一法
一方、EUとトルコとはEU加盟問題で目下揉めています。今のEU加盟国はキリスト教の影響が強い国ばかりで、トルコはイスラム教の国です。ヨーロッパ人の本音はトルコをできれば加盟させたくないのですが、原則論ではやはり入れざるを得ないということで苦悩しています。
しかし、民族も言語も違うなかでお互いに強い絆を結ぼうとしている東アジアの国々が今、たとえばトルコの人たちに対して「私たち東アジアの陣営に入りませんか」と促したらどうでしょうか。EUも有力な国を失っては損だと考え、トルコをもっと積極的に取り込もうとするに違いありません。つまり、東アジアからの「トルコもこちらに入りませんか」という一言がトルコのEU加盟を促進することになります。
自分の考え方は大枠では間違っていない
ともあれ、私はドイツとこのASEAN4ヶ国の訪問を経験して自分なりに世界の一つの流れというものを実感すると共に、ドイツの議員や東南アジア各国首脳との交流を通じて自分の方向性は大枠では合っていると確信することができました。
アメリカの一国主義を排除することも間違いです。これからはアメリカの一国主義的な考え方をも含めて多元的な価値観で世界が協調していくべき時代になっていくはずだからです。今後の日本の使命は、アメリカの一国主義をも排除せずに多元的な価値観の世界をつくることだと考えます。
東南アジアの各指導者は深い歴史観を持って外交を考えていることもよく認識できました。今、日本は国の経済力だけは大きくなったにもかかわらず、政治の知恵というものがなくなりつつあるのではないでしょうか。したがって、その知恵を取り戻す努力をすると同時に、政治家が替わるということは新時代が始まることにほかならないのでそれにふさわしい新しい外交のスタイルも構築していかなければならないと思います。
そのうえで、私たち政治家は、地元の問題にもしっかりと取り組むとともに中長期的な展望の下に政治の舵取りをしていく必要があります。