【国会レポート】政治家こそメディアについて先見性を持つべきだ【2005年3号】

皆さんご存じのように、今、ニッポン放送の株式取得をめぐってライブドアという企業に全国的な注目が集まっています。この背景には、①メディアのあり方が大きく変わってきている、②金融自由化の影響が本格的に出てきた、という二つの大きなトレンドがあるのではないでしょうか。

まず①に関連して、私と親しい中小企業経営者の奥さんの話を紹介しましょう。

そのご婦人は、「冬のソナタ」の放送以来、韓流ドラマの熱烈なファンになりました。冬ソナでサンヒョク役だったパク・ヨンハがこの3月初めに来日したときにもわざわざ成田空港まで出迎えに行き、帰りは、成田空港から上野までパク・ヨンハ貸し切りの京成スカイライナーに乗れるというイベントで同乗者300人の1人に選ばれたそうです。

情報収集の中心はインターネット

同乗のイベントの告知はインターネットで行われたのですが、このご婦人は日頃からネット上でパク・ヨンハやぺ・ヨンジュンの情報を熱心に収集しているだけではなく、ネット上の掲示板等で知り合った同じファンの人たちと一緒に東京・新大久保の韓国料理店に出かけるといったことも行っています。つまり、このご婦人が情報を得る中心的なメディアはもはやテレビやラジオではなくインターネットになっているのです。

昨年4月のペ・ヨンジュンの初来日で羽田空港に5000人もの女性ファンが集まったこと覚えている方も多いでしょう。その現象には新聞やテレビの大手マスコミも驚愕したのでした。けれども、随分前からインターネット上でぺ・ヨンジュンの情報が大量に流れていることを大手マスコミが知らなかっただけなのです。ちなみに私も同僚議員から「5000人も女性が集まるというのはすごい社会現象なのだから冬ソナを観たほうがいい」と勧められ、総合テレビでの再放送を観て、冬ソナにはまったのでした。

時代から遅れてしまった政治の世界

振り返れば、私も鉄鋼会社に勤めていた1980年代後半にフリージャーナリストの友人に勧められてパソコン通信を始めたのです。会社の同僚の中でも早かったと思います。鉄鋼会社の情報システム部にいたとき(10年ほど前)、まだ出現したばかりのインターネットについての日本初の展示会が開かれ、そこで初めてインターネットに接して、これは世界を変えるメディアだと直感しました。と同時に、パソコンとインターネットがあれば個人でも大衆を相手に仕事ができると気が付いたのです。それから間もなくして、パソコンとインターネットを使って新しいスタイルの仕事がしたい思い、鉄鋼会社から生命保険会社に転職したのでした。

というわけですから、サラリーマン当時、私も時代の変化を肌で感じていたのでした。けれども、今の政治の世界は既存の秩序や既得権益を守ろうとするマインドが強いため、時代をリードするどころか、時代から大きく遅れてしまっています。私も今回、50代のご婦人方がインターネットを駆使して韓国ドラマの情報を積極的に得ていることを知って、時代もここまで来たのかと思いました。

自民党がライブドアを批判するのはおかしい

さて、②の金融自由化の影響が本格的に出てきたという点ですが、これは橋本政権時代の1996年~98年にかけて集中的に日本の金融・証券市場制度の大改革を進めたこと、すなわち金融ビッグバンのボタンを押したことが発端となっています。

やはり私が鉄鋼会社にいたとき、アメリカまで行って年間売上高2000億円を誇るIT企業の株主総会に出席したことがありました。そこで、ネクタイをした小学生が投資案件について社長と質疑応答をする光景を目にして、私は、アメリカでは子供時代から資本主義の何たるかを学んでいる、日本で金融自由化をしたらそういうアメリカ人の餌食になると思ったのです。だから、アメリカ的な資本主義を目指す金融ビッグバンには懐疑的だったのですが、自民党を中心とする政権与党は結局、金融ビッグバンのボタンを押したのでした。

その延長線上に現在のライブドアの動きがあると言えます。金融ビッグバンを推し進めた自民党の政治家が今さらライブドアを非難するのはおかしいし、ボタンを押したのであればこれまでに企業を守るための法律をきちんと整備しておくべきだったのです。

ともあれ、政治家というのは時代のトレンドを読んで社会をリードしていかなければなりません。田中角栄という人物については金権政治家という悪いイメージを持っている人も少なくないでしょうが、1950年代後半にテレビという新しいメディアの可能性にいち早く気が付いた先見的な政治家でもありました。その点については今やメディア論の本などでも評価されています。田中角栄は1957年に郵政大臣になると、郵政省の大反対を押し切って一挙に43ものテレビ局に放送の免許を与えました。その後のテレビの発展に鑑みれば、この田中角栄の判断は間違っていなかったと言わざるを得ません。

逆転したインターネットとラジオの広告費

そういう意味で、インターネットというメディアの可能性についてもむしろ政治家が先見性を発揮すべきだと思うのです。最大手の広告代理店である電通が今年2月に出した報告書を読むと、1996年にインターネットが得ていた広告費はわずか16億円、対してラジオは2181億円でした。それが2004年にはインターネット1814億円、ラジオ1795億円になっています。8年間でインターネットの広告費は113倍以上に拡大し、ラジオは20%近くもダウンしているのです。しかも2004年はインターネットとラジオの広告費が初めて逆転した年でした。

そう考えると、ライブドアによるニッポン放送の株取得は時代の大きな変化の象徴的な出来事だとも言えるでしょう。この現実を直視してこれからのメディアのあるべき姿を描いていくという責務が政治家に課されていると思います。

今、韓国のテレビドラマの再放送はネットが中心ですし、日本でもオンデマンドでドラマを見られるサイトが出てきました。5年前、1兆円もの投資が必要な地上波デジタル放送の問題について、私は国会で「インターネットの発達を考えると、地上波デジタルへの投資は慎重にすべきだ」と担当大臣に質問しました。その後、地上波デジタルの伸び悩みを尻目に、私の予想通り、ネットは急速に発達してきたのです。いずれにせよ、私は今後ともメディアのあり方について積極的に発言していきたいと思います。