【国会レポート】警察の幹部にも求められる時代の流れに応じた現場感覚【2006年7号】

私は衆議院内閣委員会に所属していますが、内閣委員会は警察関係の法律も扱います。先の国会では遺失物法と銃刀法の改正案が審議され成立しました。今回はこれら改正案の内容のほか、皆さんにも意外に知られていない警察組織について述べてみたいと思います。

前国会で遺失物法と銃刀法の改正案が成立

まず遺失物法については、この改正案を審議するに当たり、やはり現場の状況をつかむことが大事だということで、私は東京駅の「お忘れ物取扱所」と東京・文京区の警視庁「遺失物センター」を訪問しました。「お忘れ物取扱所」では遺失物管理情報システムの説明を聞き、実際の落とし物の現物を見ましたし、「遺失物センター」では落とし物の保管倉庫を見学しました。東京都内で発生する落とし物は189万点にも及びます(平成17年)が、そのうち落とし主の申し出によって返還されたものは約2割に留まっています。これが全国レベルだと落とし物は1070万点で、返還されるのはその3割程度です(平成16年)。

視察を踏まえて遺失物法改正案の審議に臨んだ結果、国会で以下のような遺失物法が成立しました。①警察に届けられる落とし物をデータベース化しネット検索で捜せるようにする、②落とし主が現れるのは大半が3ヶ月以内なので落とし物の保管期間は従来の6ヵ月から3ヵ月に短縮する、③傘やハンカチなど安い日用品は保管費用がかさむので、落とし主が現れないと2週間で売却や廃棄ができる、④個人情報が入っているカード類、携帯電話、パソコンなどは、悪用を避けるために保管期間が過ぎても拾い主に引き渡さない。

次に銃刀法改正案ですが、これは昨年から人を傷つける威力のあるエアガンを悪用した事件が相次いだことを受けてものです。従来、威力の強いエアガン(約80万丁出回っている)には何も規制がありませんでした。そこで、人体に出血やアザなどの傷害を与える威力のある強力なエアガンを「準空気銃」と新たに定め、所持を原則禁止にし、違反には1年以下の懲役または30万円以下の罰金を科す、という銃刀法が成立しました。

警察組織のキャリアとノンキャリア

さて、警察についてですが、皆さんは警察庁と警視庁、あるいは警察庁長官と警視総監はどう違うか疑問を持ったことはないでしょうか。この違いは一般の人にはすぐにはピンとこない。と思われます。

警察は大きく二つの組織に分かれているのですが、その一つが自治体警察です。これは埼玉県警など47都道府県の警察で、職員の身分は地方公務員です。もう一つは、自治体警察を管もう一つは、自治体警察を管理、統合するという役目を持った警察、これが警察庁です。警察庁は国の機関なので職員も国家公務員ということになります。

先の疑問に戻れば、警察庁が国の機関であるの対し、警視庁は東京都の自治体警察です。警察庁のトップが警察庁長官、警視庁のトップが警視総監になります。警視庁以外の自治体警察のトップは本部長と称されます。たとえば埼玉県警だと埼玉県警本部長です。

警察官になるための採用試験も同様に大きく二つに分かれます。各都道府県の自治体警察が実施する採用試験と、国が実施する国家公務員試験です。国家公務員I種試験の合格者は「キャリア」と言われる人々で、警察庁では毎年20人程度しか採用されません。キャリアに対し、それ以外の人たちは「ノンキャリア」と呼ばれます。自治体警察が実施した試験に合格して警察官になった人はすべてノンキャリアです。

警察庁、自治体警察を問わず、警察は下から順に巡査、巡査長、巡査部長、警部補、警部、警視、警視正、警視長、警視監、警視総監(東京都)という階級制度を採用しています。ノンキャリアの警察官は巡査からスタートしますが、キャリアだと採用時にすでに警部補で、7年もしないうちに警視となり、これは小さな警察署の署長になれる階級なのです。ノンキャリアが警視になるにはうまくいっても20年はかかると言われていますので、いかにキャリアの出世のスピードが速いか、お分かりいただけるでしょう。

二つの階層に分かれる自治体警察の組織

それで、警察の仕組みがちょっとややこしくなっているのは、警察庁採用のキャリアは警察庁の中だけで仕事をするのではなく、若いうちに自治体警察に配属され、早い時期に警察署長などを経験し、40代で各県警本部長に就くようになるからです。つまり、自治体警察の組織は、本部長をはじめとする数人の警察庁出向のキャリア幹部とそれ以外のノンキャリアの人たちとで構成されます。キャリア幹部は警察の第一線の現場に出ることなく下から上がってきた書類に目を通して決裁するというのが主な仕事になっています。

従来はこのやり方で良かったのかもしれません。幹部がいちいち第一線の現場に口を挟むとむしろ現場が混乱する恐れがあったからです。しかし、今や時代は急激なスピードで移り変わっていて、十年一日のやり方では時代に遅れを取ってしまいます。時代の流れにうまく対応していくためには、警察も細かく適切に予算を現場に分配していくなど柔軟な対応が求められます。そういう対応は幹部にしかできませんので、今の時代、幹部といえども書類の決裁をするだけではなく(書類はいかようにでも作れます)、現場の実情を自ら確認して、時代に合った警察を目指すという努力が求められると思います。

書類上の決裁だけでは済まなくなった

今年、愛媛県警捜査一課の男性警部が所有する私物パソコンから個人情報を含む捜査資料がファイル交換ソフトを通じてネット上に流出したという事件がありました。

この事件では男性警部の責任がまず問われたのですが、仕事で私物パソコンを使わざるを得なかった男性警部の事情も考えなければならないでしょう。警察から仕事用パソコンを与えられていれば、私物パソコンを使う必要はなかったのです。

今のような情報化社会になっても、警察官それぞれに1台ずつ仕事用パソコンが与えられていないのはおかしいのではないでしょうか。この場合、警察の幹部としては現場の実情をよく理解し、仕事用パソコンを各人に提供しておくべきでした。そうすれば、捜査資料がネットに流れるということは防げたはずです。

これからの警察の幹部はきちんと現場を知ったうえで部下が働きやすくなるための対策を積極的に施していかなければならない、そう私は考えます。