【国会レポート】自由競争には経営者の高い倫理性が求められる【2006年9号】

民主党は小沢一郎氏が代表に再選され、自民党は安倍晋三氏が総裁に選出されました。同時に小泉政権から安倍政権に交代して5年ぶりに新政権が誕生し、新たな政治の時代がスタートを切ったと言えるでしょう。

しかも、昨年の総選挙で自民党が圧勝したとはいえ、だからこそ逆説的に有権者の人たちは自分の1票で政権交代があり得るという手応えをつかんだのではないでしょうか。そうした高揚感が、マスコミ等においても1年も先の参議院選挙の話題ですでに盛り上がっていることにつながっているのだと思います。

得票数の割には劇的に増えた議席数

今後を展望するにあたってまず、1年前に行われた総選挙を振り返ってみましょう。結果は周知のように民主党の113議席の約2.6倍の296議席を自民党が得ました。

しかし議席の内容をもう少し細かく見ると、比例区(定数180人)は自民党、民主党共に得票数とほぼ見合った議席数だったものの、小選挙区(同300人)では自民党が得票数の割には非常に大きな議席数を獲得したということが分かります。

つまり、比例区では自民党は民主党の1.23倍の得票で議席はそれよりやや大きい1.26倍程度でしたが、小選挙区では自民党は民主党の1.32倍程度の得票なのにもかかわらず、議席数は自民党が219を得て民主党の52の4倍以上となり、劇薬的な選挙制度だということがまさに実証されたのでした。

参院選までに大いに注目される政治の動向

参議院は定数242人ですが、3年ごとに半数の121人(選挙区73人・比例区48人)が改選されます。現状では参議院は与党が多いものの、来年の参院選で前回程度の議席を野党が取れば参議院は与野党逆転になるのです。参議院が与野党逆転すると、政府・与党の法案が参議院で通らなくなって政界再編や総選挙に結び付く可能性も出てきます。

これから次の参院選までは、国の政治をどう動かしていくかという点で非常に重要な時期であり、有権者にはしっかりと与野党の言動および動向を見ていていただきたいと思います。

というのも、小泉政権の5年間は「利益至上主義を掲げる資本主義」に拍車がかかったからです。これを米国流の資本主義だと言う人もいますが、実は米国流の資本主義は、利益至上主義ではあっても、本来それに付随して、勤勉、労働、質素、正直、信用といった徳目が求められているのです。そのことを『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』という著作で説明したのが社会学者のマックス・ウェーバーでした。

ですから、米国の企業は利益至上主義だけですと地域社会から疎外されてしまいます。米国の企業が地域社会から疎外されないために積極的に取り組んでいるのが社会貢献活動やボランティア活動にほかなりません。米国の企業にとって事業で得た利益は株主だけでなく地域社会や社員にきちんと還元しなければならないのです。

朝から晩まで一生懸命に働いても年収250万円

もっとも日本の企業も戦後の長い間、地域社会や社員を大事にした経営を行うところが大半でした。

ところが、小泉政権の5年間で日本の企業は、ウェーバーの言う「資本主義の精神」の「勤勉、労働、質素、正直、信用」といった徳目を忘れ、地域社会や社員のことを後回しにしたところが多くなったのです。大規模なリストラを実施し、正社員を減らす代わりに契約社員や派遣社員を増やすなどして、偏った雇用環境を生み出しました。

たとえば、私の知り合いの一人は契約社員として大手企業で働いています。真面目な31歳の青年です。昨年、関西の大企業に難しい採用試験を突破して就職したのですが、最近、久しぶりに会ったところ、彼から「年収は250万円で手取りだと200万円しかありません」と聞きました。住宅手当も出ないため朝から晩まで一生懸命に働いても食べていくのがやっとという状態で結婚できず、彼はこのところ会社を辞めようかと真剣に考えています。

かつての高度経済成長期には「自分は中流だ」と考える国民は9割を超えていました。今はその中流層が大幅に減りつつあり、一部の富裕層と大部分の低所得層に分かれようとしています。少子化対策が声高に叫ばれている中、「日本の男性は年収が400万円を超えないと結婚しない」という統計もあります。まず結婚が増えないと少子化問題解決の糸口は見えてきません。低所得層や失業者層が大きくなると、残念ながら犯罪も増えてコストのかかる社会になります。

現役の働き手が安心して生活できる年収を

よく「現代はスキルを身に付けた人が高所得で、スキルを身に付けない中途半端な人が低所得に甘んじる」と言われるのですが、それは違うと思います。私のサラリーマンでの経験から、特別な能力を求められる職業はそれほど多くありません。やはり定時に会社に行って真面目に働いて帰宅することである程度余裕を持った生活ができなければ社会は安定しません。

私は人材派遣法の見直しを含む労働契約法の改正などを通じて、採用の違いで所得が異なるのではなく、同じ仕事をすれば同じ所得を得られるようにしていきたいし、誰でも約束を守り一生懸命働けば安心して暮らせる年収を確保できるよう尽力していきたいと考えています。

小泉政権の中には学者から大臣になって5年間大臣を務めた人がいます。彼は一昨年、参議院議員にもなりましたが、小泉政権が終わると4年間の任期を残したまま参議院議員も辞めてしまいました。公約を掲げて参議院議員になったわけですから、なぜ政治家として任期をまっとうしないのか不思議です。私の質問にも何度か答えており、大臣在任中の彼の言葉に誰が責任を持つのでしょうか。

そのように政治家の言葉が軽くなると政治への信頼が失われていきます。政治への信頼を取り戻すためには、政治家はやはり自分の言動に対して責任を持たなくてはなりません。私は政治家の言葉への責任をつねに重く感じつつ政治家としての仕事を続けていきます。